極低温バトル
「お前ら、何をしているんだ!警報が聞こえないのか!超極低温だ!いますぐ母艦に戻れ!」
念波が聞こえた直後、猛吹雪を割って五機の新手が現れた。
先頭の機体のパイロットがいう。
「カブオン!なんだこいつは?なぜ、ツァルムがやられている」
五機はすぐさま戦闘態勢をとった。
武器を構え、ぼくを半円状に囲む。
先頭の機体のパイロットが、いちばん右端の機体にいった。
「サリュー! ちゃんと構えろ」
右端の機体は片手で剣を構え、もう片方の手に鎖を握っていた。鎖の先は網のようなものに繋がっている。網の中にあるのは人間の遺体だった。三十はある。
ぼくは、心を同じくするリガが震えるのを感じた。
真っ赤な感情が押し寄せ、ぼくとリガを染め上げる。
サリューと呼ばれた男がいった。
「曹長、臨時収入なんですから、大目に見てくださいよ」
「馬鹿野郎。小遣い稼ぎもいい加減にしろ」
「へへ、まあそうカリカリせんで」
ぼくを追いかけていた最初の二機の、まだ生きているほうが、包囲の輪に加わった。
「みんな、気をつけてくれ。この蛮族のガキ、ただもんじゃない。ツァルムが何もできずにやられた」
「ほう。こんなツギハギだらけの機体でか?」曹長の機体が左手の盾を突き出し、右手の剣を引いて腰を落とした。「人喰いにしては、できるんだな」
空では化け物のような大渦が時計回りに雲を掻き回している。吹雪はますます強くなり、世界は暗さを増していく。
遠くで聞こえる耳障りな警報の音階が変化した。
曹長がいった。
「緊急離脱警報だ。時間的に、もう機体の回収は無理だな。つまり、この巨人を持って帰ることは考慮しなくていいわけだーー」
言い終わる前に、ぼくの左右を固めていた二機がそれぞれの槍を突き出した。
いきなりの騙し打ち。
穂先の速度は時速二百キロは出ているだろう。ぶおおん!と巨大な物質が空気を切り裂く音がする。
最高に鋭い突きだ。
が、ぼくからみれば拙い動きだ。
ぼくは右に寄ると、右から来た槍の柄を掴み、ベクトルを完全に揃えて力を加えた。
敵は握っていた槍を離すこともできなかった。そのまま前のめりに突っ込み、左の機が突き出した槍に頭部を貫かれた。一方の左の機体の腹には、右の機体の槍が突き刺さった。
それぞれから吹き出した血は、たちどころに凍りつき、風に吹き散らされる。
「わーお!」サリューが脳天気そうに頷いた。「いまのはなんだい? なんてなめらかな動きなんだ!」
「感心しとる場合か!」曹長が怒鳴る。「こんな奴に後れをとっては帝国騎士の名折れだ! 全員でかかれ!」
曹長の機体が槍を投げた。ぐおおおん!と風切り音が響く。
ぼくがかわした隙を狙って、真後ろにいたカブオン、最初の二機の片割れが短めの剣を構えて突っ込んできた。
ぼくの体幹がわずかでも揺らいでいれば勝負有りだったかもしれないが、あいにく、ぼくは足から根が生えたように安定していた。逆に、カブオンの機体は隙だらけだ。
ぼくは相手を懐に招き入れると、突きを軽くはたきーー軽くといっても、巨人の質量なのでドオン!と激突音が伴うーー彼の機体が腰に差していた予備の刀を抜き取った。
「え?」と、カブオン。
もう遅い。ぼくは彼の機体を蹴り飛ばした。機体はもんどりうって瓦礫の山に頭をつっこむ。重戦車同士が正面衝突したような音。錆だらけの蒸気パイプやレンガ、屋根材が散らばる。
連続した激しい振動が地面を伝わってくる。「死ねい!」気合と共に、曹長機が刀を振りかぶって間合いを詰めてきた。薩摩示顕流めいた強烈な斬撃だ。
ぼくは地面にダンゴムシのように転がってかわすと、曹長機の横に立っていた影の薄い一機の足の甲に刃を突き立てた。刃は火花を立てて装甲と肉、骨を貫き、相手を大地に縫い留めた。
「なんだ?なんだ?なんだ?」と、パイロットが騒ぐ。
ぼくは相手が混乱した隙に、その手から手斧を奪い取り、曹長機に投げた。
斧は曹長機の右肩に突き刺さった。
「ぬお!」と曹長がおおきくゆらぐ。
ぼくがトドメを刺さんと踏み出した時、死角から降ってきた鉄糸の網がぼくを捕らえた。ぼくの身体に、都市住民の遺体が降り注ぐ。
脳天気なサリューがいった。
「そろそろオレの出番かな。小遣いを諦めたんだ。その分、楽しませてくれよお」
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正直、この作品はSFアクションというマイナージャンルなうえに、非テンプレ展開ですため、書籍化はまず難しいかと思います。
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