超巨大人工物〝ダイソン球〟
リガがぼくの腹のなかで泣いていた。
都市は壊滅状態だった。
都市中心部の五本の尖塔はおろか、何十とあった集合住宅まで、ほぼすべての建築物が倒壊している。
蒸気パイプの残骸がケーキに突き刺したろうそくのように蒸気を噴き上げていた。
路上からは人影が一掃されていた。いや、真っ黒い影法師のようなものが一つ、残骸の中から歩き出て、ばったりと倒れ、動かなくなった。
頑健な城壁もいたるところでひびが入っている。
降り積もっていた雪はすべて散り、路面の黒い敷石や処理場の茶色い地面が露わになっていた。
なんという爆発だったのか。
いまや、地上で動いているのは、朱色の巨人と白い巨人たちだけだ。
ヤズデギルドが念波でいった。
「反応炉の取り扱いは注意を厳にせよ! 都市破壊の手間は省けたが、危うく我々まで吹き飛ぶところだったぞ」
やつの部下の誰かが答えた。
「誠に申し訳ございません。思っていたよりもずっと出力が大きかったもので」
「ナパリ、リャド、ジェンズラビシはどうだ?」
さきほどのものとは別の思念が応える。
「ナパリ以外は回収済みです。怪我はしておりますが、命には別状ありません。ただ、ナパリはコクピットを完全に破壊されておりましたので」
「残念だ。彼の魂がやすらかに太陽に登らんことを」
ここでぼくはようやく、世界が著しく明るくなっていることに気づいた。
太陽だ。
この世界に来て以降、常に頭上を覆っていた雲が晴れている。
強烈な衝撃波が、上空の雲を円状に吹き飛ばしたのだ。
ぼくは真上から陽光に照らされていた。
白く小さな太陽が、青空のなか、天球の中心で輝いている。
明らかにぼくの知る地球のそれではない。
サイズも違うし、なにより太陽が持っていた、あの力感、万物の源たるエネルギー放射がまるで感じられない!
あまりに弱々しく、まるで死にかけた老人だ。
雲が遮っているせいかと思っていたが、そうではなかったのだ。
おまけに、地平の彼方には恐るべき光景が広がっていた。
はるか彼方で、大地が〝そりかえっている〟のだ。
大地は地球のように、丸まって地平線を成すのではなく、上に持ち上がっていた。
ボールの内側に立って、内側に描かれた大地を眺めているような心持ちだ。
せりあがった大地には広大な雲海が覆い被さっている。ごく小さく見える灰色の渦巻きは、とてつもないスケールの台風だろう。雲の流れを邪魔している黒い粒は山脈の頂上か。青い切れ目は下に海が広がっているのかもしれない。
この巨人の身体は恐るべき視力を備えている。
人間の基準なら10か20か。
視力が2以上なら、昼間でも星が見えるはずだが。
だが、空のどこを見ても星はない。
月もない。
ただ、大地だけだ。
大地が天の全てを覆い尽くしている。
天球の頂点に近づくほど、大地は霞み、青い霞のなかに沈んでいた。信じられないほどの距離があるのだ。
ぼくはあまりの衝撃に動けなかった。
いや、意図しても動かないが、仮にいま体のコントロールを取り戻しても何もできなかったろう。
これは、〝ダイソン球〟だ。
タイトル変更しました。