表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/172

超巨大人工物〝ダイソン球〟

リガがぼくの腹のなかで泣いていた。


都市は壊滅状態だった。

都市中心部の五本の尖塔はおろか、何十とあった集合住宅まで、ほぼすべての建築物が倒壊している。

蒸気パイプの残骸がケーキに突き刺したろうそくのように蒸気を噴き上げていた。


路上からは人影が一掃されていた。いや、真っ黒い影法師のようなものが一つ、残骸の中から歩き出て、ばったりと倒れ、動かなくなった。


頑健な城壁もいたるところでひびが入っている。


降り積もっていた雪はすべて散り、路面の黒い敷石や処理場の茶色い地面が露わになっていた。


なんという爆発だったのか。


いまや、地上で動いているのは、朱色の巨人と白い巨人たちだけだ。


ヤズデギルドが念波でいった。

「反応炉の取り扱いは注意を厳にせよ! 都市破壊の手間は省けたが、危うく我々まで吹き飛ぶところだったぞ」


やつの部下の誰かが答えた。

「誠に申し訳ございません。思っていたよりもずっと出力が大きかったもので」


「ナパリ、リャド、ジェンズラビシはどうだ?」


さきほどのものとは別の思念が応える。

「ナパリ以外は回収済みです。怪我はしておりますが、命には別状ありません。ただ、ナパリはコクピットを完全に破壊されておりましたので」


「残念だ。彼の魂がやすらかに太陽に登らんことを」


ここでぼくはようやく、世界が著しく明るくなっていることに気づいた。


太陽だ。


この世界に来て以降、常に頭上を覆っていた雲が晴れている。

強烈な衝撃波が、上空の雲を円状に吹き飛ばしたのだ。


ぼくは真上から陽光に照らされていた。


白く小さな太陽が、青空のなか、天球の中心で輝いている。


明らかにぼくの知る地球のそれではない。

サイズも違うし、なにより太陽が持っていた、あの力感、万物の源たるエネルギー放射がまるで感じられない!

あまりに弱々しく、まるで死にかけた老人だ。

雲が遮っているせいかと思っていたが、そうではなかったのだ。


おまけに、地平の彼方には恐るべき光景が広がっていた。


はるか彼方で、大地が〝そりかえっている〟のだ。


大地は地球のように、丸まって地平線を成すのではなく、上に持ち上がっていた。


ボールの内側に立って、内側に描かれた大地を眺めているような心持ちだ。


せりあがった大地には広大な雲海が覆い被さっている。ごく小さく見える灰色の渦巻きは、とてつもないスケールの台風だろう。雲の流れを邪魔している黒い粒は山脈の頂上か。青い切れ目は下に海が広がっているのかもしれない。


この巨人の身体は恐るべき視力を備えている。

人間の基準なら10か20か。

視力が2以上なら、昼間でも星が見えるはずだが。


だが、空のどこを見ても星はない。

月もない。


ただ、大地だけだ。

大地が天の全てを覆い尽くしている。

天球の頂点に近づくほど、大地は霞み、青い霞のなかに沈んでいた。信じられないほどの距離があるのだ。


ぼくはあまりの衝撃に動けなかった。

いや、意図しても動かないが、仮にいま体のコントロールを取り戻しても何もできなかったろう。


これは、〝ダイソン球〟だ。


タイトル変更しました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] この話のラストカッケェです。
[一言] 30万キロどころの騒ぎじゃない大きさの世界になってそうだ
[気になる点] ダイソン球?の内部描写がこれでいいのか気になる。でかいスペースコロニーだったら納得できるかも。 実際ダイソン球あったとしてこういう見え方になるのかな。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ