空に消えたあの子
「おねえちゃん、しっかりして!」リガが叫んだ。
「大丈夫、大した怪我じゃないわ」アリシャが平然といって、腹部に刺さっていた巨人の装甲のかけらを引き抜いた。
血は出ない。寒さで血管が収縮しているのだ。
都市全体をあたためていたスチーム暖房網が破壊されたせいで、急激に気温が下がっている。
白い巨人たちは槍や斧であらゆる建造物を破壊して回っていた。彼らの手が、処理場に届くのも時間の問題だろう。
アリシャが装甲のカケラを放り投げた。
カケラは吹雪のなかに消える。
二人は助け合いながら、ぼくの胸部に登った。
アリシャがロックを外してコクピットを開く。
そうして、リガを中に蹴り飛ばすと、外からコクピットを閉めた。
「おねえちゃん!?」とリガ。
アリシャがコクピットのハッチに座り込んだ。
吹雪に負けないよう、声を張り上げる。
「いい? 街を出たらまっすぐ黒山を目指すのよ。ひたすら進めば、ラザンドゥの鉱山都市の警戒網にひっかかるはず。そうしたら、大人しく投降するの。巨人使いは価値があるから殺されることはないわ」
リガが内側からハッチを叩く。
「お姉ちゃん!一緒に来てよ!」
「無理よ。巨人に乗れるのは一度に一人まで。二人以上が乗ると、精神波が混線してうまく操れないの。大丈夫、わたしにはわかってる。リガ、あなたなら、この子をちゃんとーー」
次の瞬間、都市の中心部で猛烈な衝撃波が発生した。
さきほど、朱色の巨人のヤズデギルドがいった、炉心からの熱放出か。
そのヤズデギルドが「全員伏せろ!」と念波通信で怒鳴った。
衝撃波は塔を、集合住宅を、人々を吹き飛ばしながら放射状に広がっていく。
アリシャの口が動いた。
いままでありがとう、たぶんそういったと思う。
衝撃波が処理場を直撃した。
アリシャは積み上げられていたゴミ山といっしょに天高く巻き上げられ、消えた。
数十トンはあるはずのぼくですら、ごろごろと雪原を転がり、城壁に当たってようやく止まった。