都市陥落(紅い角の人型巨大兵器)
吹雪が都市を覆いつつあった。
視界があっという間に悪くなっていく。
分厚い黒雲がただでさえ弱々しい日光を遮り、世界が暗がりに沈んでいく。
城壁の至る所で警報が鳴り響き、互いに共鳴して耐えがたい不協和音を奏でている。
都市中央部の塔でいくつものサーチライトが点灯した。光のビームが吹雪を切り裂き、城壁の外を照らす。
格納庫から防衛隊の巨人たちが出撃する。
隻眼ドストエフが操る青い重装甲巨人、後ろには灰色の巨人が三機。うちひとつは赤髭ジャムリが操っているのだろう。
ぼくの位置からは見えない、ほかの三つの格納庫からも巨人たちが出たようだ。彼らが生み出す地面の振動を感じる。
都市の集合住宅の各部屋に灯りがついた。
窓の一つの中で、男の影が槍のようなものを手にしている。その妻と娘らしき影が大急ぎで外套を羽織っている。
都市全体が激しくざわついていた。
城壁の外から、雷鳴のような金属同士の激突音が聞こえてきた。
大型トラック同士の自動車事故がたてつづけに起こっているようだ。
一際大きな破砕音ともに、何か黒いものが城壁の外から飛んできて、さきほどの集合住宅に激突した。
集合住宅を形作っていたレンガのような建材が激しく崩れ落ち、折れたスチームパイプから大量の蒸気が吹き出した。
集合住宅に馬鹿でかい巨人の腕が突き刺さっていた。
無数の人々の小さな悲鳴が風に巻かれる。
城壁の一箇所に、手がかかっていた。
朱色の装甲プレートに覆われた巨人の手だ。
そんな馬鹿な。
壁の高さは巨人の身長の二倍、いや、三倍はある。
よじ登った? まさか。
巨人は操り人形みたいなものだ。そこまで精妙な力加減が求められる運動ができるはずがない。
しかし、続いて角のようなものが生えた頭部が現れた。
そして、首、胴体、腰。
朱色の巨人が城壁の上に立った。
真っ白なマント、信じられないほど大量の布地を使ったマントが風にひるがえっている。布には太陽をかたどったと思しき紋様が描かれている。
腰には、侍のように大小の刀を二本挿している。
朱色の巨人が城壁を蹴り、ふわりと場内に舞い降りた。
城門の前だ。
足元で小さな人影たちが動いている。
城門警備についている兵士たちだろう。
だが、人間がふるう斧や槍では、巨人をどうすることもできない。
この世界における巨人は、絶対的兵器なのだ。
朱色の巨人が刀を抜き払った。
銀色の刀身が煌めき、次の瞬間、城門の扉が切り開かれた。
朱色の巨人が一歩引く。
城門から白い装甲の巨人たちがぞろぞろと侵入してきた。肩当ての部分に、朱色の巨人と同じ太陽の文様がある。
朱色の巨人が手を振ると、白い巨人たちが、いっせいに都市に襲いかかった。