人型巨大フランケンシュタイン
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「わたしたち、本当の姉妹じゃないんです」
リガが露天風呂のふちに腰掛け、足を湯につけながらいった。
激烈な寒気が襲ってきて一週間、都市はようやく日常を取り戻しつつあった。
寒気の翌日は、降り積もった雪の重みで、ぼくの視界からだけでも、数棟の集合住宅が崩れているのが見て取れたし、この処分場も二メートル以上の雪がすべてを覆い尽くしていた。
都市全体に強力なスチーム方式の暖房網や融雪装置が張り巡らされていることを考えると、いかに凄まじい吹雪だったかがよくわかる。
もっとも、ほんの数日で雪はすべて融かされ、崩落した建物の残骸も、巨人一機と人力ですべて片付けられていた。いまは男たちが集まり、新しい住宅の建設を始めている。
廃材は、この処理場に運び込まれ、所長やアリシャら職員が、ノコギリやハンマーを使いながら、額に汗して再利用可能な部位を選別している。
浮浪児のような子供たちも戻り、ゴミ山あさりにとりかかっている。
体の弱いリガは、例によって子供たちからぼくを見張る係だ。
アリシャが作った不恰好な銃を膝に置き、彼女は足湯で冷えやすい体を温めながら、物言わぬぼくに話しかける。
「わたしたちは、この都市を襲った難民集団の生き残りの出というだけで、わたしとお姉ちゃんには血のつながりがないんです。なのに、お姉ちゃんはずっとわたしの面倒を見てくれてるんです」
どうりで二人は外見が似てなかったわけだ。アリシャは健康的でたくましく、リガは白く儚い。
「あなたには治ってほしいと思います。操縦士になるのは、昔からのお姉ちゃんの夢でしたから。最初は、二人で最上級の住居に住めるということで目指したみたいですけど、いまはこの都市のふつうの子供と同じように、強く憧れてもいるんです」
リガが、湯から出ているぼくの大きな指に触れた。
「もし、あなたの再生がうまくいって、お姉ちゃんが防衛隊の一員になる日が来たら、お姉ちゃんを守ってください。お願いします」
もちろんだ。
アリシャとリガはぼくの恩人。
この地獄でぼくの身体を蘇らせてくれた人たち。
いや、彼女らのおかげで、ぼくはどうにか人間性を維持できているような気がする。
できる限りのことをしてあげたい。
まあ、いまのところ指一本動かせないのだけれど。
城壁の外から戦闘音が聞こえてきた。
このところ、襲撃が本当に増えている。
リガがアリシャを心配するのも当然だ。
操縦士になれば、あの死闘に飛び込むことになるのだ。
ぼくはドストエフに操られていたころを思い出して、ぞっとした。
操り人形のような拙い動きで、敵につっこみ、敵もまた拙い動きで剣を振るう。
また、あの地獄の日々が始まると思うだけで、恐怖が背筋を走り、やはり戦場に戻るのは勘弁してほしいという思いが湧いてきた。
リガがふれていたぼくの指が、びくりとうごいた。
彼女は小さく悲鳴をあげてから、
「ありがとう。よろしくお願いしますね」
と微笑んだ。
いやいやいや。
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この日の夕刻、塔で仕事終わりの法螺貝が鳴ると、アリシャだけでなく、所長もやってきた。
所長が頭にかぶっていた帽子をとった。
「こりゃすげえ! ちゃんと巨人になってるじゃねえか! まあ、手足や胴体、どこもつぎはぎだらけだけどよ」
アリシャが胸を張る。
「たしかに、十機以上の廃棄部品の寄せ集めではありますけどね、機能は問題ありませんよ! ドストエフ隊長の新しいヴァミシュラーにだって負けやしません!」
「ああ、あの青くて太ったやつな。なるほど、じゃあ、こいつはなんて名前なんだ? 頭と心臓は古いヴァミシュラーなんだろ?」と、所長。
「名前は、今日このあとです。彼に接続してから考えるつもりなんです」
所長が頷いた。
「でもな、ここからがいちばん難しいところだぞ」
「わかってますよ」
「そもそも、お前さん、〝才能〟はあるのかい? 俺は巨人にそこまで詳しいわけじゃねえが、こいつらを動かすのは適性があるかどうかが大事なんだろう?」
アリシャが胸を張った。
「やるべきことは、すべてやりました。操縦系統の神経本数はふつうの三倍、管制小脳も綿密に調整したし、わたし個人も気合を入れてます」
「気合いぃ?」
「所長、巨人は精神で動かすんです。気合がいちばんたいせつなんですよ!」
自分自身に言い聞かせるような口ぶりだった。