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巨人の内臓はごちそうでもあるのに

ぼくの修復はじわじわと進んでいった。


時間の経過はアリシャとリガの生活サイクルで判断できる。

二人が二十回眠って起きてを繰り返したとき、ぼくの内臓系はほぼ揃っていた。


肝臓、脾臓、膵臓、胃、小腸、大腸。臓器はどれもぼくが知っている人間のそれとはずいぶんことなっていた。


肝臓はぼくの巨体を考慮してもやけに大きかったし、奇妙な管がいくつも突き出ていた。胃は五つの球の連なりだし、大腸は、十二指腸程度の短い筒でしかなかった。

表面に、腎臓同様の「仕様」がなければ、なんの臓器かすら判断できなかったろう。


大腸の縫合中、アリシャが、露天風呂のふちから覗き込んでいた所長にいった。


「どうしてこんなに巨人の臓器が次々に出てくるの? 傷付いてはいるけど、使用不能ってほどでもないのに」


所長がコートのポケットから、飴玉のようなものを取り出し、口に放り込んだ。


「そりゃあ、我らが巨人軍が活躍しているからさ。敵を倒しすぎて、在庫が余ってるんだ」


「だからってーー巨人の内臓はごちそうでもあるのに」


「市議会のお偉いさんが、何人か、お前さんの計画に興味を示してんだよ。もし、本当に残骸から巨人を再生できるなら、えらいことだからな」


「そのお偉いさんは、どうしてわたしみたいな下層民のことを知ってるの?」


「そりゃ、俺が知らせたからだ。お前は下層民みんなの希望になれる女だからな」


ちょうどそのとき、処理場と接している城壁の上で敵の接近を告げる鐘が鳴らされた。


ここに来てから、ほぼ一日に一回のペースだ。

ぼくが格納庫にいたときは、一週間に一回程度だったから、相当増えている。


処理場の向こうの大通りを、三機の巨人が地響きを立てながら出撃していくのが見えた。

先頭を行くのは、青色の装甲が特徴的な小太りの機体、ぼくから奪ったパーツで仕上げられたドストエフの新型機だ。


市民たちの声援がかすかに聞こえる。


所長をはじめ、処理場のスタッフやゴミ漁りをしている子供たちも、灰色の空に手を突き上げた。アリシャも小さく手をあげている。テントの中のリガはよく見えない。


十分ほどもすると、城壁の向こうから、ゴオン、ガオンと大質量の金属同士がぶつかる音が聞こえてきた。


アリシャがいう。

「わたしがいうのもなんだけど、ドストエフ隊長率いる守備隊は強いわ。近隣都市にも知れ渡ってるくらいなのに。攻めてくる人たちは、自殺願望でもあるのかしら」


所長が肩をすくめた。

「やつらも切羽詰まってるのさ。年々寒さが厳しくなって、この周辺一万キロ四方は人が住めるところじゃなくなってる。で、周りの連中全てが一斉に向かってきているんだ。ここには希少な〝反応炉〟があるからな。やつらにとっちゃ、生き延びるための最後の希望ってわけだ」


アリシャが複雑な顔をした。

彼女とリガの両親も、ここを攻めて返り討ちにあったのだから当然かもしれない。


彼女がいった。

「巨人を送り込んで、負けた人たちはどうなるの?」


「小都市や移動式都市、放浪民のグループにとっちゃ、巨人はもっとも重要な〝家畜〟であり〝工作機械〟で〝兵器〟だ。培養した肉は食料になり、雪洞を掘ったりするにも欠かせない。とはいえ、巨人の維持には人も熱も必要だ。維持できる機体数は一グループ、一機か二機が限界だろうよ。その虎の子を失ったらーー。


食料はつき、次々に飢え死にするだろう。その死体を食べて、残った連中はまた少し生きられるかもしれねえが、巨人がなくちゃあ、寒さから身を守ることもまともにできなくなる。


構成員の数はどんどん減って、また別のグループの餌食になるか、誰にも見つからないまま、雪の中に埋もれていくんだろ。おお、考えたくもないな」


所長は巨体をぶるりと震わせた。


しばらくの間、都市は巨人の〝豊漁〟に沸いていた。

ひっきりなしに敵が来て、ひっきりなしに新鮮な肉が供給された。


気温も高く、食糧用巨人の再生も調子がよかったのか、その後何度か、リガがローストビーフを作っていた。


それから、すさまじい寒気が押し寄せて、都市は激しく飢えた。


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