超構造体刀シャルミレイン
ギレアドたちの一撃が、うなりながらぼくの頭部装甲を掠めた。熱気のようなものを感じ、一瞬遅れて痛みがやってくる。
傷はヤズデギルドの肉体にも反映されたはずだが、彼女はぴくりともせず、操縦桿を握り続けている。
こちらの返しの一撃は、ギレアドたちの肩口をえぐった。金属がひしゃげる不協和音ともに、シムルグの装甲が弾け飛び、血が飛び散る。
ギレアドたちがいう。
「最高だ!俺たちは最高の戦いをしている!」
たしかに、信じがたい剣技の応酬だった。
人知を超えた速度とタイミングの斬撃が相互に繰り出され、かわされ、受け流される。
ヤズデギルドもギレアドも、リガやぼく、シムルグに比べれば大変な達人だ。彼ら二人が、巨人脳と巨人の身体を得たことで、さらなる達人の域に達しているのだ。
剣の一振りごとに猛烈な旋風が巻き起こり、周囲の炎が渦を巻く。
「でも、終わってしまう!ああ、なんてことだ!この最高の時間が終わっちまう!」
ギレアドたちが泣きそうな声でいう。
「もっと続けていたいのに! もっと楽しみ続けたいのに!」
ヤズデギルドの肉体が歯を食いしばった。
刀がもうもたないのだ。いたるところで刃こぼれし、ヒビが入っている。あと数合持つか持たないか。
刀が折れれば、こちらになす術はない。
ギレアドたちも、きっとそう思っている。
彼らが、はすられた方の肩でぼくたちに体当たりした。ぼくたちは敢えて受け、よろけ、片膝をついた。路面の敷石が数メートルにわたって凹む。
「すばらしいひとときを、ありがとうヤズデギルド!ありがとうヴァミシュラー!」
ギレアドたちが叫びながら、シャルミレインを、こちらの刃に叩きつける。一度、二度、三度。
ぼくたちはそれらを絶妙の角度で捌いたが、ついに四度目にして、刀がつばのすぐ上で折れた。
「さようなら!」
ギレアドたちが渾身の力でシャルミレインを振り下ろした。
だが、勝利を確信したゆえか、それまでの斬撃に比べ、わずかに大振りだった。
ぼくたちは、残っていた刃をシムルグの足の甲に突き立てた。硬い骨に当たる感触が伝わってくる。
ギレアドたちから、苦痛の思念が放射され、振り下ろした一撃が鋭さを弱めた。身体の統一がほどけたのだ。痛みのあまり、ギレアドが片方の操縦桿を手放したらしい。
ぼくたちは襲いくるシャルミレインを両の掌で挟み留めると、そのまま身体ごと巻き込むようにして、ギレアドたちからもぎ取った。
「あ」と、シムルグの念波が聞こえた。
ぼくたちは間髪いれず、シャルミレインを構え、シムルグの首めがけて必殺の一刀を振るった。
シムルグが慌てて腕を立て、首筋を守ろうとする。
だが、無駄なあがきだ。
シャルミレインは超構造体でできた刀だ。〝強い力〟で結合した神の金属。腕の装甲程度で防ぐことなどできない。
シャルミレインの刃は、突き出された腕の肉に、何の抵抗もなく潜り込んだ。
終わりだ。
ぼくがそう思った瞬間、激しい金属音が鳴り響いた。発生した高周波で、すぐ近くの集合住宅の窓ガラスが粉々に砕けた。
見ているものが信じられない。
シムルグの腕は、シャルミレインの一撃を食い止めていた。
【読者のみなさまへのお願い】
「面白い」と思った方は、
広告の下にある☆☆☆☆☆からの評価や、ブクマへの登録を、ぜひお願いいたします。
正直、この作品はSFアクションというマイナージャンルなうえに、非テンプレ展開ですため、書籍化はまず難しいかと思います。
毎日ちょっとだけ増える評価やブクマが執筆の励みですため、何卒よろしくお願いいたします。




