ゴミ捨て場の身体よわよわ超絶美少女
アリシャは油と泥にまみれていた。
美しかった金色の髪も薄汚れている。
それでも、緑色の目の輝きは格納庫でぼくを整備していたときと、何ら変わっていなかった。
彼女はぼくに歩み寄ると、神経節にそっと触れた。
「監督、わたしはこの子を知り尽くしています。この子なら、中枢臓器さえ残っていればきっと再生できるはずです」
大柄なリーダー、いや監督が頷いた。
「期待してるぜえ。といっても、お前さんがこいつに手をかけるのは、約束通り仕事が終わった後だぞ。いいな?」
「もちろんです!」と、彼女。
ぼくはアリシャと大勢の大人たちの手で、処理場角に運ばれた。地面が四角く掘られ、錆だらけの鉄のバスタブのなかに転げ落とされた。あらかじめ張ってあった薄茶色の液体に浸かった途端、剥き出しの神経から伝わってきていた痛みがすっと和らいだ。
どうやらこれは簡易の再生プールらしい。
プールの底には熱線が走っており、寒さで凍結するのを防いでいる。湯温は三十度ほどか。
寒さの中、もうもうと湯気がたちのぼっている。
ずいぶんと熱を無駄にしているように思えるが、処理場のあちこちで同じように湯気があがっていた。この都市が熱盗賊とやらに狙われるのも無理はない。ここの反応炉とかいうやつは、源泉掛け流しの露天風呂のように熱を垂れ流しているらしい。
アリシャたちは、ぼくの上に雪除けのテントをかけると、ゴミをより分ける作業に戻った。
アリシャが取り組んでいるのは、巨人の装甲を扱いやすいサイズに分解することらしい。自分の身長ほどもあるレンチを引きずり、大汗をかきながらバラしていく。
彼女や大人たちが、ぼくから離れている間、ぼくを悪ガキたちから遠ざけるためか、女の子が一人、ぼくのそばに残されていた。
歳は十二歳ほどか。
髪は白に近い金色で、肌は陶器のように白い。いや、それどころか青白いといっていいほどだ。
目はアリシャと同じ緑色、どことなく似た顔立ちをしている。
この少女はもこもこにコートを着込み、粗末なテントのなかに座り込んでいた。手には銃らしきものを握りしめている。
銃!この世界に来て初めてお目にかかった。
ゴミ山を漁っていた子供たちが数人、ぼくから肉を切り取ろうと忍び寄ってきたが、少女がしっかり銃を握っているのをみて、首をふりながら戻っていった。
雪がゆっくりと空から舞い落ち、泥の中に落ちて溶け消える。
ぼくはなんということもなく、処理場を眺めていた。
腹が減るということがないうえに、太陽の登り下りがないので時間感覚がバカになっている。
縁側で孫たちが遊ぶのを眺める御隠居の気分だ。
どれくらい時間がたったのか、少女がテントから顔を出して、ぼくを見つめた。
弱々しい雰囲気はあるものの、たいした美少女だ。
一方のぼくはどうだろう。
頭と心臓と肺だけの怪物だ。うげ。
少女がいった。
「ねえ、巨人さん」
答えてやりたいが、ぼくは答えられない。
少女が悲しげにいう。
「できれば、治らないでくれませんか?」