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疑心暗鬼女子

「「なんだ?」」


シムルグが頭部を押さえながら振り向いた。


「「なにしてるんだよ、いったい」」


くそ。

公開の念波通信でないとはいえ、あれだけ強く念じると、なにかしら感知されてしまうらしい。


「怨みの力で君を倒そうとしたんだ」と、ぼく。


シムルグが笑った。

「「愉快な発想だね。でも、いくらボクたち巨人でも、接続していない相手を思念でどうにかすることはできないよ」」


ぼくは心を研ぎ澄ました。


返事は?


反応は?


あった!

ぼくは、ほんの一瞬だが、ヤズデギルドの心を感じた。

ぼくが放射した念波に、驚きを感じている。


だが、この広い帝都のどこにいるのかまでは分からない。


ぼくはさらに呼びかけた。

〝ヤズデギルド!応えてくれ!〟


返事はない。

応える気がないのだ。


ぼくは、いまさらながらに気づいた。


ヤズデギルドが応えないのは当然だ。

ぼくとリガは彼女の命を狙い、あとわずかまで追い詰めたのだ。

その後、彼女の周りの人々を助ける形で彼女の命を護りもしたが、ヤズデギルドからすれば、こちらが思い返し、改めて殺そうとしていると判断する方が自然だ。


ぼくは念じた。

〝違う!聞いてくれ!ぼくたちはもう君の命を狙ってはいない〟


いや、リガは、ことが終わったらまたヤズデギルドを狙おうとするだろうか。


くそ、ダメだ。思考がどうしても念に混ざる。いまのぼくの考えもヤズデギルドに伝わっているかもしれない。


もう、正直にいうほかなかった。

〝嘘だ。まだ君に復讐したい気持ちはある! でも、いまは復讐どころじゃないんだ! 君たちの帝国を滅ぼそうとする奴がいて、そいつを倒すには君の力が必要なんだ!〟


バカ。なんて雑な説明だ。


シムルグが身をかがめ、シャルミレインを拾い上げた。

「「また、思念を放射しているね? なんだい? 本当はボクを呪い殺そうなんてわけじゃないんだろう?」」


ぼくは念じた。


〝リガは死にかけてる!〟


かすかに反応があった。

だが、やはり場所はわからない。


シムルグがのんびりと近づいてくる。


「「なにかとっておきがあるなら、早くしないと間に合わないよ」」


ぼくは意を決すると、ヤズデギルドに向かって、シムルグとのやりとりの記憶を放り投げた。


皇族とは、シムルグが人為的に生み出した一族である。最高傑作はエプスとヤズデギルド。

皇帝は危険を察知し、ヤズデギルドをシムルグに乗せまいとした。

シムルグは今後、帝国市民をさらに殺す。

わずかな生き残りは彼のおもちゃに。


もちろん、シムルグとの会話は日本語だったのでそのままではヤズデギルドが理解できない。なので、巨人脳の処理力でこちらの言葉への翻訳を付加する。


この念は、心の直接的な伝達だ。内容に嘘がないことは感じ取れるはずだ。


結果はーー。


思念が放射された。

ぼくはハッキリと感知した。

巨人であるぼくのそれに較べれば弱いが、送られてきた視界のイメージはハッキリと認識できた。

あちらからは銀色のシムルグと、ぼくの小さな背中が見えている。

距離と角度からして、ここから五百メートル先、五十メートル上方だ。


ぼくは横目でそちらを見た。


崩れかけた四階建ての集合住宅、その屋上の柵の向こうで、小さな人影が拳をかかげている。

赤い炎を背景に、朱色の髪がいっそう紅い。


〝さっさと来い!!〟とヤズデギルド。

接続はごくごく浅いというのに、彼女の思念からは燃えるような感情が感じられた。



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