悪魔による友達の作り方講座
シムルグが手を広げて、バレリーナのようにくるくる回る。彼が一回まわるごとに、風が起こり、炎が巻き上げられる。
「「潜在意識に干渉して人間を操るのは、じつに楽しいものだよ。ボクを奴隷同然に扱う連中が、ボクのちょっとした囁きで判断を誤り、周りを巻き込みながら破滅していく。逆に、元の世界の知識を与えて発展させてやることもできる。気分は神様さ。こうして解放されたいまなら、君みたいに人間の身体を直接的に操ることもできるかもしれないな。
いや、ゴメン。ボクさっきから喋りすぎてるね。でも、長いこと誰とも会話できなかったから、どうにも止まらないんだ。
そうだ!こういうのはどうかな?君とボクの二人が互いに国を作って、人間同士を戦わせるんだ? 雪原に何万人もの兵士を並べて、突っ込ませる。気分はアレキサンダー大王かハンニバルか。数千年単位で暇を潰せるんじゃないかなあ」」
シムルグがダンスに誘うように、こちらに向かって手を差し伸べる。
「「どう?」」
ぼくたちは即答した。
「そんなことをするのは、死んでもゴメンだ」
シムルグが肩を落とした。
「「まじで?」」
「ああ」
「「なんでかなあ? 相手は人間なんだよ? ボクたちに地獄の苦しみを与えた連中だ。ちょっとおもちゃにするくらいいいじゃないか」」
ぼくたちのなかで、ぼくの意識が表に出た。
「たしかに、この世界の人間には酷い目に遭わされたよ。腕を切り落とされるどころか、脳、心臓、肺以外のすべてを奪われたことだってある。でも、いい人間もいるんだ」
「「はあ? なにいってんの? あ、そうか! そういうことか!」シムルグが片方の手のひらに、もう片方の拳を叩きつけた。ドウン!と重低音が響く。「ギレアドを通して見ているときから不思議だったんだ。君はリガを精神的に支配できるはずなのに、まったくしてないなあって。君、ひょっとしてリピートしたばかり? 巨人になったのはどれくらい前?」」
「半年ほど前だけど」
「「半年!? あちゃー! 思った通りだ。君、たまたま目覚めたばかりの時期に、人間の気まぐれの優しさを受けてほだされちゃったんだ」」
シムルグが頭部装甲をなでながらぶつぶつつぶやく。
「「うーん、恩人なのはいいけど、人間の味方かあ」」
「「だからといって、殺しちゃうのも寝覚めが悪いなあ」」
「「どうしたものかなあ」」
「「あっ!」」
シムルグがゲンコツで自分の頭を叩いた。
「「そうだよ!これだ!なんですぐ思いつかなかったんだろう。君をいったんリセットしよう!」」
「リセット?」
「「目覚めたばかりじゃ、知らないかな。巨人は脳にダメージを受けても再生できるんだよ。ただし、再生された場合、記憶は出荷時の状態に戻る。君の記憶をリガと出会う前に戻してあげるよ。その上で、あらためて友達になろう!」」
彼がシャルミレインを抜いてぶんぶん振り回した。
「「大丈夫。脳細胞に痛覚はない。スパッと開いて、優しくかき回してあげるよ」」
ちょ、ちょっと待て。
なにをするだって?
シムルグがまた自分の頭部装甲を叩いた。
「「あ、でも、リガがいると、君はまた人間にほだされちゃうなあ。それはよくない。よし!まずは君の胴体を貫いてリガを殺そう。それから、脳をグシャグシャにするのがいいね!」




