ヴァミシュラーvsシムルグ 一回戦
一体化した〝ぼくたち〟の肉体は、恐るべき速さで距離を詰めると、シムルグの太ももに手を当て、挙動を押さえ込んだ。
シムルグのつま先は、ヤズデギルドたちにあとほんの十センチというところで止まった。
風圧がヤズデギルドの紅い髪を掻き乱す。
ぼくたちが発生させた風が時間差で襲いかかり、それをさらにぐしゃぐしゃにする。
ヤズデギルドが無言で〝ぼくたち〟を見上げた。
驚き? 感謝? 困惑? どういう表情なのか。
ヘブロンが「裏切り者が、なぜだ?」とつぶやくのが聞こえた。
なぜ?
それはこちらが聞きたい。
ぼくたちは、何をしているんだ?
ギレアドがいう。
「おいおいリガちゃん。どうしたんだよ」
彼はシムルグに脚を引かせ、聖剣を構えさせた。
「ヤズデギルドを殺すために苦労してきたんだろう? なんだって庇うんだい?」
そう、なぜ?
足元にいる子供を守るためか。
ヘブロンへの恩義か。
それともヤズデギルドとの同一化のせいか。
今思えば、彼女があれほどまでにリガに肩入れしたのは、一瞬とはいえぼくと繋がったからだろう。エプスがシムルグを介してほかの皇族とつながったように、ヤズデギルドもぼくを介して、わずかではあるがリガとつながった可能性は高い。彼女にとって、ある意味、リガは自分自身であり、魂の姉妹になったといえる。
なら、リガもまたしかりだ。
しかり?
ぼくたちは首を横に振ると、ヤズデギルドを見下ろした。
炎のような感情が湧き上がる。
魂の姉妹? まさか。ほんのわずかでも、赦すなどあってはならない。
ぼくたちの思考をギレアドの声が破った。
「まあいいさ。リガちゃんが敵になるなら、それはそれでいい。だって、リガちゃんはヤズデギルドを倒したわけだろ? つまり、このシムルグの力を振るうにふさわしい相手ってことだ」
ぼくたちは、リガの意識を強めて答えた。
「待ってください。いまのはーー」
ギレアドは弁明を最後まで聞くことなく、つっかけてきた。頭部を狙った突きだ。
鋭い、が、その技量はヤズデギルドに劣る。ぼくたちには、彼が突きを繰り出す前に、軌道が見えていた。
体を捻ってかわすと、左ジャブをシムルグの頭部に叩き込む。
「なんだ!?」と、ギレアドの声。
ジャブ、ジャブ、ジャブ。
ぼくたちのパンチがさらにヒットする。
ギレアドがシムルグに聖剣を横薙ぎに払わせた。
ぼくたちは飛び上がってかわすと、後ろ回し蹴りをシムルグの腹に喰らわせた。
プロレスでいうローリングソバットだ。
シムルグが後方に吹き飛び、建物に突っ込む。火に炙られながら、かろうじて建っていたレンガ作りのビルは、大音響とともに粉々に崩れ落ちた。
ギレアドが念話でいう。
「なんだ? 俺は最強のはずなのに!?」
「おい! ヤズデギルドたちを逃すな!」割って入ったのはエプスの思念だ。
見れば、濡れシーツをまとった集団が、ぼくの足元を離れ、炎の壁に向かって走っている。
ギレアドの念話が戦場に響く。
「足りない? そう。足りないんだ。ヴァミシュラーに勝つには、何もかもヴァミシュラーと同じにしないと。複製だけを機能させるんだ」
「まて!ギレアド!」エプスが念話で叫んだ。さらに、シムルグ目指して巨人を走らせる。「そいつを自由にさせるな!」
エプスの巨人がシムルグに触れようとしたまさにその瞬間、シムルグが聖剣を一閃した。
エプスの巨人は首を飛ばされたまま走り続け、道を踏み外して急坂を転げ落ちていった。




