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巨人解剖。脳以外のすべてを奪い取られました。

ドストエフとお嬢様は、ぼくを〝処分場〟に送る前に、使えるパーツを全て取り外した。


装甲はいうにおよばず、コクピットをブロックごと外し、両足を太ももから切りはなし、神経の配線も引きちぎった。


都度、ぼくはおぞましい苦痛にさらされた。

歯医者で、麻酔なしで歯を抜かれるなどという生やさしいものではない。

ドストエフたちは、各パーツを傷めないよう丁寧に丁寧にぼくを分解してくれたのだ。おまけに、ぼくの身体は人間よりもずっと再生力が高いので、大量出血で気絶することすらできなかった。


内臓系統も利用可能なものはすべて摘出された。

巨人の内臓構造はよく分からないが、ドストエフとお嬢様の会話から判断して、残されたのは心臓と肺、それに脳と目と耳くらいのものだった。


ああ、脳、これほどの苦しみを与えるくらいならば、まっさきに脳を潰してくれればよかったものを。


脳が機能し続けたおかげで、ぼくはあらゆる種類の痛みを極限まで堪能した。


せめて気が狂ってくれたらまだしも幸せだったろう。


だが、巨大な巨人の脳は人間のそれに比べて、レジリエンスに優れていたらしい。それとも、ぼく個人の魂が単に地獄にすら耐えられるものだったというだけか。


ドストエフたちは、ぼくをバラしていく一方で、そのパーツを使い、新しい機体を組み上げていった。新巨人のベースとなるのは、ドストエフが苦戦した二機の巨人だ。太った巨人と蒼い装甲の巨人。そこにぼくを加え、都合三機から、美しく逞しい巨人を作り上げた。


ぼくは自分から奪われた手足や臓器が、新機体に装着されていくのを見守るしかなかった。


ともかくも、ぼくは達磨以下の残骸となり、馬鹿でかい鉄のカゴに放り込まれ、ほかの巨人の手で〝処分場〟へと引きずられていった。


都市の子供たちが、運ばれるぼくのまわりに群がる。


ぼくから剥がれ落ちる皮膚や筋肉のかけらを拾い上げ、大喜びで家に持って帰るのだ。


新鮮な巨人の肉は、彼らの家の食卓のごちそうになるのだろう。


ぼくは固定された視界の中、灰色の空と舞い降りる雪を眺めながら、ようやくこの悪夢が終わるという喜びに包まれていた。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


処分場は都市の端、城壁のきわに位置していた。


地面に空けられた大きな箱型の穴だ。一辺はおよそ百メートル。学校のグラウンドほどの大きさか。


この城塞都市の建造物としては珍しく、屋根がなく、雪の中で吹きっさらしとなっている。


都市で発生した生活ゴミ、ひび割れた巨人の装甲、何かよくわからない動物の骨、あらゆる不要物がここに集められ、うずたかく積み上げられていた。


大勢の人間がそうしたゴミ山に群がり、まだ使えるものがないかと探し回っている。


ボロボロの布切れをまとった5歳ほどの男の子が、歓声をあげて両手をつきあげた。わずかに肉のついた骨片を握っている。


もっと大きな10歳ほどの少年が、男の子に突進し、強引に骨を奪った。男の子が泣き出す。さらに別の子供が、骨片を奪い取った男の子に襲いかかった。


ゴミ山とゴミ山の間には、巨人のパーツや都市の建材が種類ごとに分別されており、大人たちが汗水垂らしながら人力で引きずっていた。こちらは何らかの形で再利用するのだろう。


ドストエフの部下が操る巨人がカゴをひっくり返した。


ぼくは泥まじりの雪の中に放り出された。


視界がぐるぐるまわり、ゴミ山のひとつを向いて止まる。


山に群がっていた子供たちが吠え声のような声をあげて、一斉に駆け降りてくる。


その前に幾人かの大人たちが立ち塞がった。

この処分場の職員らしい。

一応はそろいの黒いコートを着込んでいる。

みな、手に槍のようなものを握っていた。


リーダーと思しき縦も横も大きな巨漢の男がいった。

「くおら、がきどもお! こいつに手を出すんじゃねえ!」


子供たちは蜘蛛の子を散らすようにしてゴミ山に戻った。


リーダーの右隣に立っていた、かかしのように細い男がいった。

「珍しいですねえ、ボスはいつもおこぼれをくれてやるのに」


リーダーが左隣に立つ小柄な人物の背を叩いた。その人物は槍をしっかりと構え、何者もぼくに近づけさせまいとしているようだった。


リーダーがいう。

「こいつが、次に巨人が運び込まれた時は〝再生〟させてくれっていうもんでな」


「再生?」細い男が怪訝な声をだした。「ここに運ばれてくる巨人は、あらかたの肉取り、パーツ取りが終わったものだけですよ? まともな設備もないのに、どう再生するっていうのですか?」


「まあ、そういうな。こいつはずいぶんながく格納庫勤めをしてたから、やらせてみてもいいじゃねえか。もし、うまくいってみろ、処分場に〝巨人〟が加わるんだ。作業がすげえ楽になるし、なにより、街の連中に俺たちだってやれるってとこをみせられるじゃねえか」


小柄な人物が頷いて、ぼくの方に顔を向けた。


「まかせてください、ボス」


ぼくは思わず声をあげそうになった。いや口があれば確実に音を出せていたと思う。


小柄な人物は、お嬢様に格納庫を追い出された少女、アリシャだった。


主人公、どこまで不幸になってしまうんだ…と思いながら書いていましたが、ようやく希望の光か見えてくる展開になりました。さすがに今回が底だったかと思います。

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― 新着の感想 ―
[一言] あらすじによるとまだどん底に落ちるようですが!?
[一言] ここでガラクタボディになって、さらに底辺とかなったり… やっとヒロインきた⁈
[良い点] ウニから来ました。 まさかこのジャンルでジュヴナイルな創元やハヤカワSFが読めるとは思っていなかったです。極寒の無慈悲な世界で繰り広げられる人の営み(かーにばる含む)のリアルさに読むのが止…
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