表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
146/172

一撃必殺

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


ジズの装甲がかすかに上下した。

右太ももから腰への力の流れが見えるようだ。

さらに右肩と右前腕部の動き。

ヤズデギルドはぼくたちの首筋を狙っている。


ジズが一歩踏み込むその直前、ぼくたちは前に出た。刃をジズの胸元めがけ突き出す。


完璧なタイミングだ。


しかし、ジズはこれまでの三度と同じように、やすやすとかわしてみせた。微かに身体を引いて間合いを外すと、伸びきったぼくたちの腕めがけて斬撃を繰り出す。


巨人の超絶的な反射神経がなければ、両腕を落とされていただろう。どうにか肉を切られる程度で済んだ。傷口から血が吹き出し、痛みがぼくたちを襲う。腕が燃えているようだ。


リガの肉体が痛みの感覚に思わず操縦桿を放し、一瞬、一体化が解けた。


くそ。ぼくは思った。ぼくはいい。傷つくのはもう慣れっこだ。だが、リガの身体は大丈夫なのか? いま、ぼくたちは高いレベルでリンクしている。ぼくの肉体が受けたダメージは、時間をおいてリガの肉体に転写されるぞ。


リガが〝わたしのことは気にしないでください。これはわたしの復讐なんですから〟といった。


彼女が操縦桿を握り直し、ぼくたちの心がまた溶け合う。リガの覚悟はぼくの覚悟となった。


ヤズデギルドが念話でいう。

「たいしたものだ。わたしに三度振らせて、まだ生きているとはな」


「何度斬られようが、ぼくたちは、絶対にアリシャの仇を討ちます」


「ぼくたち? そうか、リガとヴァミシュラー、お前たち二人はともに一体になっているというわけか。興味深くはあるが、これ以上、お前たちに付き合うわけにはいかない。エプスを討つのが遅れれば遅れるほどに、死んでいく民が増えるのだからな」


ヤズデギルドが、ふたたび正眼に構えた。


そして、ぼくたちに斬りかかる。


一見、何の変哲もない一撃だ。速度はぼくや熊よりも劣るし、狙いもあからさま。ぼくの太ももを狙っている。


ところが、じっさいの刃の軌道は、ぼくの肩口を狙ったものだった。


ぼくの巨人脳の強みは、膨大な処理力に裏付けされた予知レベルの洞察力にある。相手の攻撃がどこに来るか分かれば容易に捌ける。


この強みが、裏目に出ている。


コンマ数秒先の相手の動きが丸見えなために、ぼくの潜在意識は反射的に、それに対応した動きをとってしまうのだ。


さきほどまでの三撃で、ヤズデギルドの斬撃が予測したポイントと異なる位置に繰り出されることが分かっているのに、見えすぎる未来にどうしても引っ張られる。


ぼくたちは咄嗟に身体を捻ったが、肩の肉を装甲ごと飛ばされた。


くそ!!


ヤズデギルドはわずかな指の動き、足の踏み込み、装甲下の筋肉の動きで、本当の意図を偽装している。


ぼくたちは斬られて斬られて斬られまくった。


胸、脚、手、首、額、あらゆるところを切り裂かれる。


どれくらいの間、一方的にやられ続けたろうか。

全身血まみれで、もはや、切られていないところを探す方が難しいほどだ。


だが、致命傷は負っていない。


ヤズデギルドが弄んでいるのか?


ジズがまた刃を振るった。


ぼくの腰肉が抉られ、飛び散った血が炎に炙られる。


違う。ヤズデギルドが遊んでいるわけではない。


彼女の剣技と、ぼくの回避能力がぎりぎりのところで釣り合っているのだ。


ヤズデギルドも、らちがあかないと判断したのか、いったん、ぼくたちとの間合いを広げた。


背後にいるエプスが念話でいう。

「気をつけたほうがいい。決める気だよ」


ヤズデギルドは刃を一振りして、ぼくの血を振り飛ばすと、刀を鞘に収めた。腰を低くし、柄に手を添える。地球でいう〝居合い〟の構えだ。


攻撃の虚実がこれまで以上に判断しづらくなる。

とてもかわせる気がしない。


ぼくはヤズデギルド同様に剣を腰の位置に当て、身を沈めた。鞘代わりに左手の小指と薬指で、万力の力を込めて刃を挟む。


「おお!」と、エプスがうめく。「そうでるのか」


ヤズデギルドがいった。

「格好だけ真似てどうするのだ?」


もっともだ。居合対居合、技量の差がこれ以上ないほどに出るだろう。


しかし、こちらも勝負を長引かせることはできない。これだけ血を流しているのだ。時が経てば経つほど不利になる。


もう、次の一撃にすべてをかけるほかない。


ぼくたちはただひたすらに集中力を高めた。


空間を埋め尽くしていた、炎の燃え盛る音、建物の崩壊音、人々の悲鳴が遠ざかっていく。


ぼくたちはじわじわと互いに間合いを詰めていく。


世界に残るのは、ぼくたちとヤズデギルドのジズだけだ。


あとほんのわずか、あとほんの少しで互いの刃圏が触れ合う。


あとほんのわずか。


「いつまで睨みあっているーー」


エプスの念話が聞こえた瞬間、ぼくたちとジズは同時に抜刀した。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 虎〇流が刃をつまんだら用心せい!
[良い点] 戦闘シーンの描写本当にうまいなあ
[一言] 面白い
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ