食肉工場行き
丘から都市を見下ろして四日後、
敵巨人の剣がぼくの腹部を貫いていた。
痛いなどというレベルではない。
真っ赤に焼けた鉄の杭がぼくを体の中から焼き焦がしている。そこにありったけの唐辛子をぶちこんで、電流を流されたかのようだ。
気が狂いそうなほどの苦痛が脳をゆさぶる。いっそ狂うことができれば、よほど楽だったろう。
敵は強かった。
すらりと均整の取れた体格に、真っ青な装甲をのせ、刀身の蒼い日本刀を振るった。
それが四機、連携して攻め込んできた。
哨戒に出ていた二機がたちまち惨殺され、緊急出撃したドストエフとジャムリが城壁の手前で立ち塞がった。
ジャムリが敵の一機と格闘戦に持ち込み、ドストエフとぼくは残り三体を同時に相手にすることになった。
ドストエフは、ぼくの右手と引き換えに敵一機を両断し、いま、腹を貫かれながら、また別の一機の首を刎ねた。
助けて、助けて、助けて。ぼくは苦痛の波のなかで念じた。だが、ドストエフには届かない。
彼は三体目が振り下ろした斧を額で受け止めた。
何か硬いものがぼくの頭のどこかで砕けるような感覚があった。
死んだ。そう思ったが、意識はいまだにこの体に張り付いている。
ドストエフが健在なぼくの左手で、敵のコクピットを潰した。
ジャムリもどうにか敵を仕留めた。
決着だ。
ジャムリが「隊長、やばかったっすね!」と叫ぶ。
ドストエフが首を横に振った。
「いや、これはどうやらーー」
ぼくの足から力が抜けた。
ぼくはその場に両膝をつき、そのまま前のめりに雪原に倒れた。
⭐︎⭐︎⭐︎
ぼくは再生槽のなかで、頭のすぐ脇で交わされるドストエフたちの会話を聞いていた。
「あなたのせいではありませんよ、お嬢様。機体の寿命だったのです」と、ドストエフの声。
姿は見えない。ぼくの視線は真上、ハンガーの天井を向いたままだ。
市長の娘の声がいう。
「そんな、でも、きっとなんとかなるはずです」
「残念ながら、無理でしょう。ここまで破壊された機体を修復できる整備士などおりません」
「でも、機体がなければ、あなたはどうするのですか?」
「大丈夫。遅かれ早かれ、こういった事態になるのは承知しておりました。だから、ここしばらくは敵の機体を無傷で鹵獲することに努めていたのです。あれらを使えば、新しい機体を組み上げることができるのでは?」
「ええ、できます!ドストエフ様。きっとできますわ!」
「よかった。ではさっそく取り掛かりましょう」
ぼくはいったいどうなるのか。
その疑問はドストエフがすぐに答えてくれた。
「まず、この古い機体を処理場に運ぶところから始めましょう。きっといい肉になると思いますので」