暗殺同盟
エプスが長い髪をまとめ、後頭部でくくった。
掛け布団を丸めてクッションを作ると、身を横たえる。
ほっそりした手を、リガたちに伸ばす。
「二人とも立っていないで、わたしの隣に。共にくつろごう」
「おいおい、いまさっきまで男と寝ていた寝具に俺を招かないでほしいね」と、ギレアド。
「互いの熱を交わし合うのに、性別や年齢にこだわるなど愚かなことだ。家族、親戚、友人、どれもささいなことだよ。わたしと君、一度くらいは試してみてもいいんじゃないかな?」
「遠慮しておく。俺は成熟した女にしか興味ないんでね」
「それは残念だ。では、復讐者のお嬢さん、君はどうかな?」
リガは猛スピードで首を横に振った。
「けっこうです!」
「ずいぶんと警戒されたものだね」エプスがくすくす笑う。
ギレアドがテーブルに置かれたコップに、水差しの水を注ぎ、ぐびぐび飲んだ。息を吐いてからいう。
「エプス、俺たちは急いでるんだ」
「おやおや、ヤズデギルドのチビすけさんをずいぶんと恐れているね」
「そういうお前だって、煮湯を飲まされてるだろうが」
「あれは、わざとさ。わたしは皇位に興味などないし、ましてや結婚など。一生、性と愛に溺れて暮らせればそれでよかったんだよ」
「なら、どうして俺に暗殺を依頼したんだ?」
「彼女が、わたしが寒さを乗り切るために考案した〝熱緊縮〟に反対し、あろうことか周辺都市に熱をわけあたえる気だったからだよ。もし、そんなことになれば、ここの穴が下層部まで冷え切ってしまう。最悪だ。あたたかな身体でまぐわってこそ、心もあたためられるのだからね。周辺都市が脅してくるなら、逆に攻め落とすべきだったんだ」
エプスが布団のクッションに沈み込む。
「皇帝とは、皇族の熱を守るためにある。それを理解していない人間に、シムルグを渡すわけにはいかないね」
「まあ、どんな理由だろうがいいさ。本家の麒麟児がようやく本気になったんだ」
「本気のわりには、おチビちゃんの件は失策続きだけどね。毒、襲撃、事故、すべて躱された。わたしの人生で、こうもうまくいかないのは初めてだよ」
ギレアドが頭をかいた。
「だからこそ、このリガちゃんを連れてきたんだ」
エプスが座ったまま、リガに向かって優雅に頭を下げた。赤い髪が揺れる。
「復讐者のお嬢さん。君はたいそう信頼されているとか」
「はい。なぜだかは、わかりませんが、とにかく気に入ってもらえています」
「しかし、それでいて君は彼女に強い恨みを抱いている」
「はい」
「彼女を殺したいと思うほどに?」
「はい」
「なら、わたしたちは仲間になれる。君がヤズデギルドのおチビちゃんを討ったならば、その後の生活は保証しよう。家も恋人も熱も、なにもかも与えよう」
まったく信用できない言葉だ。この男は、リガがヤズデギルドを討ったならば、即座にリガを殺そうとせんとも限らない。
エプスが握手を求め、優美な手を伸ばした。
リガはほんの少しだけ躊躇したあと、その手を握った。