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皇帝代理

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


典医の話では、皇帝は脳挫傷を負っていた。


起き上がることすら不可能なはずなのに、あのように皇位禅譲を己の口で告げたのは、まさに奇跡。これこそが神の託宣だと評議員たちはざわめいた。


皇帝は今度こそ昏睡状態に陥った。

再生液を微細なガラス管を使って、脳の奥に少しずつ流し入れているということだったが、当面、覚醒は期待できない。


半日後、官庁街の中心部に建てられた〝議場〟にて、臨時評議会が開かれ、ヤズデギルドが〝第一の市民〟として皇帝代行に選ばれた。貴族派の約半数が、皇帝の命をかけた推挙を見て、鞍替えしたためだ。


議場は、地面を掘って作られていた。ピラミッドを逆さまにしたような形で、屋根はない。そもそも、帝都は地下にあるため、雨や雪が降るということがないのだ。


ヤズデギルドが、いつものパイロットスーツではなく、真っ白なトーガ姿で、いちばん底にある演台に立った。所信を表明するためだ。


リガは議場穴の縁から、大勢の市民や兵士たちとともに、その様子を見守っていた。背後を振り返れば、すり鉢の斜面に張り付いた無数の家屋の屋根に、住民たちが這い上がっていた。遠くの家々までヤズデギルドの声が届くはずもないが、少しでも歴史的瞬間を共有したいということか。


ヤズデギルドは心を込めて、帝国市民の団結を説いた。


「貴族派も平民派もない。共に手を携え、偉大なる帝国を護り続けよう」


そう締めると、〝穴〟全体に響渡る様な万雷の拍手が湧き起こった。


⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


戴冠式は一週間後に決まった。

会場は例の中庭だ。全評議員および、周辺都市の有力者、諸外国の使者たちが見守るなか、ヤズデギルドは皇帝機に搭乗し、名実ともに新皇帝となる。


式典に向け、嵐の様な日々が始まった。


ヤズデギルドは、皇帝宮のある〝島〟ではなく、母艦を駐機した軍学校で政務を行った。軍学校は、ヘブロンの強い影響下にある。こちらのほうが、暗殺されづらいと踏んだのだ。


母艦内のヤズデギルドの執務室には、ひっきりなしに軍人や官僚たちが押しかけた。


リガが護衛として背後で見守るなか、ヤズデギルドは物凄い勢いで、伺いを処理し、助言を聞き、政策を定めた。


穴の上層部を暖めるための配管の増設。

皇帝就任の祝として周辺都市に送る熱の配分。

軍学校の入学試験制度の改訂。


ヤズデギルドは、最後の粘土板を眺めながら、背後のリガにいう。

「リガ、約束が間延びしてしまってすまなかったな」


「約束?」


「帝都に帰り着いた暁には、軍学校に入れてやるという約束のことだ」


そういえば、そんな話もあった。


「このあと、軍学校の校長のところに挨拶に行くんだ。すでに話は通っているが、礼儀を忘れてはまずいからな」


「わたし一人で、ですか?」


「もちろん、わたしも同行する、といいたいが、代わりに同行したいという奴がいてな。わたしも時間がない体だ。言葉に甘えることにした」


開きっぱなしだった扉から、ギレアドが颯爽と入ってきた。

「さあ、リガちゃん、未来に向かって歩き出すときだ!」

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― 新着の感想 ―
[一言] 面白い
[良い点] 可愛い女の子をハゲさせないで! [一言] ハンニバル兄貴が山越えしてきそう… そして女帝ヤズデギルドは洗脳に抗って第二のスキピオになるんだよォ!
2021/05/23 04:19 青いガチャピン
[一言] これはアレですねえ 戴冠時にヤズっちをぬっコロコロすれば リガは伝説になれますねえ 恨みを晴らすには最適ですね まあそんな暇ないんでしょうけど
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