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貴族派vs平民派

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


議論が続く中で、会場の評議員たちはハッキリと二つの勢力に別れた。


片方は、ギレアドが〝本家の老人〟と呼んだ、ヘト議員を中心とする大貴族の評議員たちだ。彼らは臨時評議会を開き、新しい〝第一の市民〟を選ぶべきだと主張した。彼らの皇帝候補は、エプスと呼ばれるヘトの孫。一度、ヘトが「エプス!」と呼んだが、会場に来ていなかったらしく、姿を現すことはなかった。


もう片方は、もちろんヤズデギルドの支持者たちだ。こちらは、平民派を自称していた。比較的若い評議員が多い。彼らの支持層は、穴の上層・中層部の貧民たち、交易商人、周辺都市だ。現状の、貴族優先の熱配分に不満を持ち、改革の旗手としてヤズデギルドに期待を寄せている。


口論が白熱するにつれ、場の緊張感が高まった。酒が入ってるせいか、あちこちで小競り合いが起きる。


貧相な三人組の平民派評議員が、大柄な貴族派に掴み掛かろうとし、互いの足をもつれさせてテーブルに突っ込んだ。


肉汁があたりに飛び散り、女性たちが悲鳴をあげる。


精悍な若者二人が殴り合いを始め、煽る様なヤジが飛び交う。分が悪かったほうが、テーブルから果物ナイフを取った。もう片方がグラスを叩き割り、破片を握り込む。


ヤズデギルドが声を張り上げた。

「お前たち、バカな真似はよせ! 我らは同じ帝国の民だぞ!」


ヘト議員も頷く。

「おふたりとも、頭を冷やしなさい」


だが、彼らのボルテージは下がらない。

それどころか、周囲にいたそれぞれの陣営の若者たちがつっかけあい、ついには会場全体で、男女入り乱れての大乱闘となった。


ヤズデギルドが「いい加減にしろ!」と叫ぶが、もはや誰も聞いていない。


ヘブロンが飛び交う皿を避けながら「殿下、こちらへ!」と叫ぶ。


ヤズデギルドが飛びかかってきた貴族派の男にパンチを見舞った。男は鼻血を出しながらノックアウトされる。


ヘト評議員が「なんなのですか。あなたたちはそれでも栄光ある帝国の評議員ですか!」といいながら、壮健な議員たちに守られて、出入り口の扉に向かう。


が、彼らが脱出せんとしたそのとき、突如、扉が中庭側に開き、ヘト評議員たちをふっとばした。


「みっともない真似はやめんか!」と、朗々たる声が響く。


現れたのは皇帝だった。

剃り上げた頭に血の滲む包帯を巻き、侍従たちの肩を借りて立っている。その目には強い力が宿っていた。


殴り合っていたものたちが、ぴたりと止まる。


皇帝が頭を押さえながらいう。

「議長、これはどういうことだ?」


ヘトが身を起こした。

「陛下のお言葉のいずれが真実であるのかについて意見が別れた結果です。今一度お聞かせ願えますか?陛下は誰を後継者となさるおつもりなのでしょう」


「もちろんーーヤズデギルドだ」


平民派の議員たちが沸いた。

ヘブロンが両手を突き上げる。


ヘトが冷静に頷く。

「そうですか。しかし、さきほど、陛下はヤズデギルド殿下を皇帝機シムルグには乗せないとおっしゃったように思うのですが」


「誤解するな。あれは、戴冠式までは乗せぬ、という意味だ」


「戴冠式?」


評議員たちがざわめいた。


皇帝がうなずく。

「そなたらもわかってのように、わたしはもう政を行える体ではない」


ざわめきがさらに大きくなる。

まさか!ここでか!?と、誰かがつぶやく声が、リガの耳に届く。


皇帝が続けた。

「ゆえに、帝位を禅譲する」


うめくような声と、喜びの歓声が同時にあがる。


ヤズデギルドの母親が「んまあ!んまあ!」と叫んでいる。


皇帝がよろめきながら歩を進め、ヤズデギルドの肩に手を置いた。


「あとは頼むぞ。シムルグと共に帝国を護るのだ」


皇帝は糸が切れたあやつり人形のように脱力した。



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― 新着の感想 ―
[一言] シムルグに乗せたいのは陛下か謎の意思か、どっちだろう。 長年乗せようとしなかったのが本人の意思なら、乗せようとするのは謎の意思、かなぁ。 陛下は皇帝の椅子に座りたいだろうし(。。
[一言] 何かの意思と皇帝の意思がせめぎ合ってるという感じでしょうか。その何かがシムルグなのか、ほかに何かがあるのか。ワクワクしてきます。
[一言] 面白い
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