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見えない帝都

⭐︎⭐︎⭐︎⭐︎


リガとヘブロンは母艦の甲板で向き合っていた。


その周りを、ヤズデギルド、ギレアド、それに大勢の歩兵と操縦士たちが取り囲んでいる。


ヤズデギルドは真紅のマントを、ギレアドは白銀のマントを羽織り、兵士たちも礼装に身を包んでいた。兵士たちはみな上機嫌で、わいわい騒いでいる。


ギレアドがヤズデギルドにいう。

「殿下、これはいったいなんなんです? どうしておやっさんとリガちゃんが立ち会いを?」


ヤズデギルドが含みを持たせるような笑みを浮かべた。

「試験だそうだ。リガを認めるかどうかは、直接手合わせしてから決めると」


「おやっさん、まだリガちゃんを疑ってるんですか? もう帝都に着こうっていうのに」


「そういうわけでもないが。まあ、入城の刻限まで多少間がある。皆が楽しめる、よい余興だろう?」


彼女のいうように、母艦は巨大な門の前で停止していた。門といっても、その両脇には本来あるはずの城壁がない。雪原に、ただ、巨人の背丈の四倍はあろうかという巨大な門だけが聳えているのだ。


母艦の両サイドは、軍団の巨人四機が固めている。

それと向き合うように、帝都のものと思しき巨人が四機、直立不動で立っていた。


リガの位置からは見えないが、艦の周囲には大勢の人間がいるらしい。人いきれが感じられる。ときおり、金属を叩くような音が聞こえた。リズミカルなメロディ。なんらかの楽器だろう。


不思議なことに、艦の前方には都市の姿が見えなかった。尖塔や集合住宅の一つもない。ぼくはリガに、甲板を船首まで進んで欲しくて仕方なかった。


帝都とはいったいどんな都市なんだ?


「集中せぬか」ヘブロンがいった。


彼は上半身裸だ。

よく鍛えられており、胸板は分厚い。

あちこちに白っぽい傷跡が走っている。


リガが「はい」といって、腰を落とす。

彼女は体にピタリと張り付くパイロットスーツ姿だ。

マントも支給されているが、そちらは脇に畳んで置いてあった。


ぼくはリガにいった。

〝ヘブロンは寒くないのかな?〟


〝今日はとても暖かな日ですから〟と、リガ。


ぼくがリガの身体を通して感じる外気温はマイナス十五度から二十度ほどだ。


この世界の人々にとっては、これくらいが小春日和ということなのか。


ヘブロンが「いいのか? ゆくぞ?」といって身体を沈めた。


〝ヴァミシュラーさん、本当に代わらなくて大丈夫なんですか?〟


〝代わらないわけじゃない。君は普通に逃げ回る。ぼくは適切なタイミングで瞬間的に代わって、また君に身体を返す。これなら、君の負担は最小限になるはずだ〟


ヘブロンが突っ込んでくる。


リガが思念でいう。

〝お願いしますよっ!〟


ヘブロンの馬鹿でかい拳が飛んできた。

病み上がりの相手に対して加減しているのだろうが、リガは兵士でも何でもない、ただの女の子だ。まったく反応できていない。

ヘブロンもそれに気づいたのか、あわてて拳を引こうとしたが、まったく間に合っていない。

このままでは、リガの顔面は陥没するだろう。


ぼくは拳が当たる直前に、彼女の身体を掌握し、首を捻った。


拳は顎に命中したが、衝撃はほぼ流れた。

ぼくはそのまま甲板を蹴り、後方に吹っ飛んでみせた。

円陣を作っていた操縦士たちにつっこむ。


歩兵たちが「さすがオヤジ!」と沸き立ち、ヘブロンは自分の拳を見て怪訝な顔をした。


ヤズデギルドとギレアドがあわてて駆けてくる。

「リガ!? どうした?」と、ヤズデギルド。


ギレアドが横からいう。

「本当にどうしたんだい? 君はおやっさんより強いはずなのに」


リガが顎をさすりながら、身を起こした。

「お二人ともわたしを買い被りすぎですよ。ヘブロンさんに敵うはずないじゃありませんか」


そう、ぼくが長時間、リガを操れない以上、こうするしかない。

さっさと負ける。これがいちばんだ。


リガが貴族の養子になるのは悪くないが、ヘブロンだけはまずい。彼はヤズデギルドの側近中の側近だ。あまり長くいっしょにいると、こちらがヤズデギルドを狙っていることに勘付かれるかもしれない。


ヤズデギルドがいった。

「ヘブロン、もう一度やってくれ! リガはこんなものではないんだ」


「いや、一度で十分です」ヘブロンがいった。「さきほどの件は前向きに考えましょう。家に帰り次第、マグダに話してみます」


いや、なんでそうなる?


⭐︎⭐︎⭐︎


入城の刻限が近づくにつれ、甲板にあがってくる兵士はますます増えた。


ふだんは、なんとなくいがみ合っている歩兵、パイロット、船員の三派閥も打ち解け合い、士官、下士官の区別なく談笑に興じている。


ヤズデギルドはニコニコ笑顔で、ヘブロンと、リガの処遇について詰めている。


ギレアドは艦の横に立っている巨人に向かって身振り手振りで何か伝えている。どうやら、甲板にいることに飽きたらしく、自分が巨人で警護したいといっているようだ。バクークが諫めていたが、ギレアドは彼女を振り切って艦内に戻った。


しばらくすると、ぼくの巨人の目でギレアドが格納庫に入ってくるのを見た。〝先生〟と一言二言交わし、何か箱のようなものを受け取ってから、自分の機体に乗り込む。


彼の機体の前の装甲板が開き、出撃する。

それと入れ替わるように、一騎が艦内に戻ったところで、ぶおおおおん!という巨大な汽笛のようなものが、艦の前方で鳴り響いた。


母艦がゆっくりと動き出す。


甲板の兵士たちが我先にと手すりに向かう。


ヘブロンがリガの肩を叩いて艦内に戻った。

ヤズデギルドがリガの手を握る。


「よかったな!これで、お前も貴族だ。さあ、いっしょに船首まで行こう、もうすぐ帝都が一望できる。なかなかの光景だぞ?」


帝都が一望? まわりには一棟の小屋すらない。


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― 新着の感想 ―
[一言] そりゃまあ、明らかに反応してなかったのにヘッドスリップで衝撃を流されたら興味も持つでしょうw 格闘戦の心得があるなら直撃した筈の手応えと違い過ぎて上手くいなされたと分かるよね あ、本来のヘッ…
[一言] ジオフロントの巨大都市かな?
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