巨人再生液でお肌ツヤツヤ
あのとき、暗殺者はリガの身体にのしかかり、首を絞めた。リガの筋力では跳ね返せなかった。なので、ぼくは相手の小指を掴み、折った。
リガは、そのことは、ヤズデギルド、ヘブロンほか誰にも話していない。
いま、ギレアドは笑いながら小指を動かしている。
〝ヴァミシュラーさん〟リガが繰り返した。
〝わかってる〟と、ぼく。〝ぎりぎりまで待つんだ。君は脳も身体も酷使されすぎてる。少しでも間を稼いで、ほんのわずかでも回復させるんだ〟
リガが唾を呑んでからいう。
「指が、どうかしたんですか?」
ギレアドが眉をひそめた。
「いや、ほら。指だよ、指。君、殿下を襲ったやつの指を折ったろう?」
「ギレアドさんのは折れてませんけど」
そう。その通りだ。襲撃から間を開かずして、ぼくはギレアドを巨人の眼で見ているが、指はいたって普通だったはずだ。でなければ、さすがに犯人だと気づいている。
彼が小指をなでた。
「巨人の再生液だよ。君の治療のときに、話に出たろう? 再生液は細胞の寿命を奪う代わりに、短期間で傷を修復できる。二時間もつけておけば、腫れを引かせ、切れた腱も元通りだ。割れたガラスで傷だらけになった皮膚も、この通り、赤ちゃんのようにつるつるさ」
リガの背中に汗がにじみはじめた。
「なるほど。よくわかりました。ギレアドさんがあの男だったということですか」
彼女は不安を感じさせない口調でいった。
「つまり、わたしが負傷している隙に、復讐しようと?」
「いやいや。俺はリガちゃんには何の恨みもない。あのときは、〝場の流れ〟でああなっただけだよ。リガちゃんが予想外に強かったもんだから、つい滾っちゃってね」
リガが扉をちらりと見た。
あの向こうには歩兵四人が控えている。
ギレアドが小さく頷いた。
「そう、あのときのやりとりは最高だった。リガちゃんもそう思うだろう? できるなら、もう一度お手合わせ願いたいよ。いま、ここで始めたいくらいさ」
〝声をだしますか?〟と、リガ。
〝いや、向こうはまだ話したがっている〟
ギレアドが肩をすくめる。
「とはいえ、俺もリガちゃんも本調子じゃない。こんな状態でやっても〝高み〟には辿り着けないさ」
「なら、どうして自分が暗殺者だったと明かすのですか?」
「リガちゃんを仲間に誘うためだよ」
「仲間?」
「そう。リガちゃんもヤズデギルド殿下を殺したいんだろう?」