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005 聖女凱旋

 表通りに出ると、通りには蒸気を煙突から上げて走る屋根のない凱旋車が何台も並び、ゆっくりと世界樹の方へ進んでいた。沿道には人々がぎゅうぎゅうに押し寄せ、凱旋車に歓声を上げている。凱旋車には騎士と思われる鎧を着た者達が1台に10人ぐらいずつ立って乗っているが、リナの姿は見えない。


「お帰りなさいませー!」

「樹士団の皆様、魔獣討伐お疲れ様でしたー!」

「ありがとうございます……ありがとうございます……!」


 どれだ、どれにリナは乗ってる!? 前の方か!?


 俺は沿道の人混みをかき分け先頭の凱旋車両を目指しながら、1台1台見てはリナを探した。


「ちょっとイオ、いきなりどうしたのよ! てゆーか、あんた足速すぎ……はあ……はあ……」


 ルカが追い付いて俺の肩を掴んだ。俺は振り向きルカに急き込んで聞く。


「なあ、どれにリナが乗ってるかわかるか、俺、どうしてもリナと話がしたいんだ!」


 ルカは俺の勢いにびっくりしたように少し離れ、返す。


「ちょっと落ち着いてよ……リナって、まさか聖女様のこと?」

「そうだ、あんた達が聖女様って呼んでる女の子のことだよ。短めの黒髪で、白金の鎧を着て、あとやたらでっかい剣を持ってる」


 ルカは俺の焦り具合を見て、何かに気付いたように話す。


「あんた、もしかして……心に決めた人って、聖女様?」

「ああ、そうだ、だから教えてほしい」


 俺は即答した。一度死んだ身、今さら想いを隠すつもりもない。何が何でも会いたいんだ。


 ルカはため息をつく。


「はあ……聖女様なら、いつも先頭さ。……見ない方が良いと思うけどね」

「……? わかった、ありがとう!」


 俺は再び人混みをかき分け、先頭目指して走った。ルカも後を追ってくる。


 やがて先頭車両に追い付いたとき――俺は足を止めた。いや、足だけじゃない。声をかけようと準備していた喉も、色々言おうと考えていた頭も。全てが停止した。


 先頭車両にはリナが凛と前を向き毅然と立っていた。が、リナだけじゃない。その右横にはリナと同じ白金の鎧を纏った金の長髪の男が同乗し、リナの腰に左手を回し、笑顔で沿道に右手を振っている。


 ……誰だよ、あいつ……!


 それは"完璧"な男だった。ウェーブがかった煌めく金の長髪に、万人が見惚れるような整った顔、リナより頭1つ高い長身、見るものを離さない眼力に、指先まで溢れる大人の色気……見た目では、俺が敵う要素はひとつもない。


 そこにルカが追い付き、金髪の男を睨む俺に話しかける。


「……あれは聖樹士(せいきし)ユグドラ様さ。お二人は婚約されてる。今からちょうど3年後、結婚されることに決まってるんだ」

「……は!? 何だよそれッ!」


 ルカはまたため息をつき、話す。


()()()()だよ。聖女様は、20歳を迎えた時、その時の聖樹士様と結ばれる」


「……それでも俺、諦められないんだ! いま、"その時の"聖樹士って言ったな!? リナが20歳になるまでに俺がその聖樹士とやらになればいいんじゃないのかッ!? どうやったらなれる!?」


 ルカは可哀想なものを見るような目で俺を見た。


「……聖樹士様は、樹士団の中から選ばれるの。でも普通は、貴族とそれに連なる者しか樹士団に入れない」

「それじゃダメだ! 他にないのか?」


「普通は、って言ったでしょ。今の聖樹士様は、ブランチ出身だったわ。ブランチで一騎当千の活躍をして、白金等級――つまり英雄になったの。その功績を認められて樹士団に抜擢され、聖樹士に選ばれたのよ」

「よし、ブランチになって活躍すればいいんだな!?」

「そんな簡単な話じゃないと思うけど……」

「簡単じゃなくても、そうしないとリナと結ばれないなら、やってみせる」

「……あんた、たいしたヤツね」


 俺の目的はリナと共になること、その為なら、白金等級のブランチとやらになって、聖樹士だろうが何だろうがなってやろうじゃないか……!


 そうこうしているうちに、凱旋車は全て通りすぎ、城の方へ行ってしまった。あれだけぎゅうぎゅう詰めだった沿道の人波もさーっとはけていく。


 ルカが胸の前でパンと手を合わせ、俺に言う。


「……さて、凱旋も終わったし、仕入れの続き行くよ! イオ、手伝って。終わったら、ブランチギルドに連れて行ってあげるから。なーに、3年もありゃ男は見違えるってね、アタシ応援するよ!」

「おお! ありがとう! よし、ちゃっちゃと仕入れ片付けよう」

「あんた、意外とゲンキンね……いや、聖女様のこととなると、性格変わるって感じ……?」


……


 その後俺達は大量の肉や塩などを仕入れて回り、ようやくブランチギルドとやらに連れて行ってもらったときには、もう日が沈みかけていた。


 ギルドの建物の前で俺は車を降り、運転席に座るルカに礼を言った。


「ルカ、ありがとう。世話になった」

「いいのよ、こっちこそ助かったわ。イオ、すごい力持ちだもん、いつもより多めに仕入れちゃった。……そうだ、登録手続き終わったらうちおいでよ! 今日は夕飯特別に奢ったげる」

「いいのか? 楽しみにしてるよ」

「待ってるから! またねー!」


 そう言うとルカは手を降り、車を走らせて去っていった。


 さて、まだブランチが何なのかわからんが、とりあえず入るぞ――


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