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002 最悪の再会

 170cm弱の背丈に、いつも左耳だけ髪をかけた黒髪ショート。何よりその凛とした顔立ちは見間違えようがない――リナだ。


 が、その服装はいつもと全く違っていた。金銀の装飾が施された白金の鎧を纏い、どう見てもその細腕で振るえそうにない大振りの装飾剣――その長さは150cmはあり、刀身幅が20cmはある巨大な両刃剣――を背負っている。


「……リナ!?」


 俺の呼び掛けにリナが驚く。


「!? 魔獣め、何故私の名を知っているッ!」


 ――しまった! つい呼んでしまったが、今の俺は黒い体毛に覆われた獣――自分の体を見回すに、人狼のような感じだろうか?――の姿をしている上、身には狼の返り血が飛び散り、極めつけは女に悲鳴を上げさせ逃げられている。


 怪しさ満点で、リナが俺だとわかるはずもない。


「リナ、俺は――」

「黙れ魔獣ッ! 我らが()()には指一本触れさせんぞ! 成敗してくれる!」


 リナの隣にいる騎士が俺の言葉を遮り、リナを庇うように前に出ると、両刃剣を俺に向け中段に構えた。


「おいおい、待ってく――」

「問答無用ッ!」


 俺の制止も聞かず、騎士が剣を横凪ぎに振るうと、その切っ先から燃え盛る炎が上がる!


「おわっ!?」


 俺は炎に驚き飛び退く――ズチャッ。巨狼の流す血の河に着地し、ぬめっとした嫌な感覚が足に伝わる。剣先は躱したものの炎が胴を掠め、体を覆う黒の体毛の先がチリチリと熱い。


 何だ今のは……! 魔法!? 剣の間合いより遠めに距離を取った方が良さそうだ。俺が騎士に目を取られている間に、


 ――ザンッ!


 リナが背負っていた大剣を両手で握り勢いよく地に刺した。リナは燃えるような激しい憎悪の目で俺を睨んでいる。


「黒き魔獣よ! 何故貴様が四魔王の一柱"灰の冥狼(マーナガルム)"の眷属を殺したか知らないが、貴様が滅すべき魔獣であることに変わりはない……! むしろ、如何にその眷属を殺し得たのか、その力こそ脅威ッ!


 我が"樹法(じゅほう)"をもって今この場で灼き尽くす――"大地噴炎陣(グランド・ノヴァ)"!!」


 リナがそう叫ぶと、全身から赤い光の奔流が立ち上ぼった。その光の奔流がリナの両手から柄、刀身へと大剣を通じて地に流れると、幾筋もの赤き閃光となって縦横無尽に地を疾る――


 マオウのケンゾク? ジュホウ? リナは何を言ってるんだ……何より、そんな目で俺を見ないでくれ……! いや、考えてる暇はない――閃光が足元に迫り、俺は反射的に思い切り飛び上がった!


 ――ドオオオオンッ!!


 突如大爆発が起きる!


 ――瞬間、俺は()()のことに驚く。あまりの驚きに、世界がスローモーションに見えたぐらいだ。



 ひとつはもちろんその爆発のことだ。疾る赤き閃光が巨狼の遺体に触れた途端、大きな爆発を起こし地から激しい炎が噴き上がった。灼熱の爆風が周囲の木々を吹き飛ばしながら灰と化し、巨大な炎塊は一瞬にして身の丈10mの巨狼を包む。


 爆発を引き起こした張本人は、球状の光の膜のようなものに包まれ、大剣を地に刺したまま毅然と立っていた。隣の騎士は両手剣で身を覆うように防ぎ、踏ん張って熱風圧に耐えている。


 もうひとつ驚いたことは、俺がそれらの光景を()()()()()()()()眺めていたことだ。


 俺はただ、閃光から逃げようと跳んだだけだ……なのに、俺はいま森の遥か上空――高さはスカイツリーの展望台くらいか?――から世界を見渡している。


 眼下には広大な緑の森が地平線まで続き、幾筋か森を切り開いた道が見えた。正面の遥か先には、蜃気楼のようにぼんやりとだが、天を貫く巨大な山――赤、青、黄など色とりどりの葉が茂る山が見える。


 俺は、森の道のひとつからドカドカと軍靴を鳴らし先ほどまで俺がいた場所に迫る軍隊を見つけた。その数、数百はいそうだ。


 リナと騎士の2人だけじゃなかったんだ、あんな数に囲まれたらたまらない……! 幸い、リナ達は俺を見失っているようだ――まさかこんな上空にいるとは思うまい――。ここはいったん退くか……この姿のままじゃ、話も聞いてもらえない……。



 やがて跳躍の頂点に達し、急速に空を落ちていく。パラシュートなしのスカイダイビングなんて自殺行為そのものだが、俺は不思議と落ち着いている。何故かはわからないが、"大丈夫"だという確信があった。


 ――ザザァッ、バキバキバキッ、ズドッ!


 俺は枝葉を折りながら爆心地からかなり離れた地点に着地すると、リナ達と反対の方向に駆けた。普通なら即死する高さから落下したというのに、俺の身は傷ひとつない。


 巨木の間を縫うように走りながら、俺は状況を整理する。


 遥か上空へ跳ぶ跳躍力、さらにその高さから難なく着地する靱やかさ――間違いない。俺の身体能力は超飛躍的に向上している。星核(コア)の言う"本質"を高めるってやつだろうか?


 だが、目覚めた時は普通の体だった。何か変身するトリガーがあったのか……巨大な獣を一撃で屠るこの力は一体何なのか、色々確かめたいところだ。


 ……俺が何もわからない一方、リナはこの世界にすでにとけ込んでいるようだった。聖女とか呼ばれてたし、マオウだの何だの……。一緒に転生したのに、この世界に来た時点が違うんだろうか。


 さらに、大爆発を起こす魔法――ジュホウ?を使ってたな。なんだあれ、めっちゃ凄かったぞ。こんな姿だから仕方ないが、リナにあんな仇を見るような目で睨まれ、命を狙われるのは耐えられない……。


 しかし、俺って奴は、あんな目にあってもリナのことが好きで堪らない。元の姿に戻って、今度こそ想いを告げたい……!

 

 ……と言っても、今はこの場から逃げないと殺されてしまう。この姿ではリナの前に出られない。まずはこの世界や俺自身についてもっと知らなくては……。



 ――……後に俺は、この時の判断を長らく後悔する。どんな目で睨まれようと、命を狙われようと、必死で話すべきだった。この時は、リナがもう遠い存在になってることを理解してなかったんだ……――



 俺はどこまでも続く大森林を当てもなく駆け続けた。が、甚大な身体強化の反動か、突如意識が薄れていく。



 何だ……力が……抜けていく……

 





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