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滅亡興隆 [1]起因 (2017c)

作者: 長矢 定

 時空跳躍は、『宙棲進化②飛躍』でも扱ったテーマですが、今回のお話とは何の関連もありません。

 宇宙を舞台にしたお話で、広大な世界を飛び回ることになりますが、距離と時間の問題がないがしろになることがあります。まあ、架空のお話ですから、それも仕方ないでしょう……

 “ワープ”が当たり前のように登場し、宇宙を縦横無尽に駆け回るお話もありますが、時間と空間を跳ぼうというのですから、その開発・実用化に厄介な問題も出てくると思います。そこに引っ掛かりました。


 ただ、理屈っぽい話にはしたくないです。(そう思いつつも、理屈っぽくなるのですが……)

 小難しい話の整合性をとるのも大変ですから、そうしたことには極力触れないように話を進めることにします。

『滅亡興隆①起因』は、続編のための導入としての意味合いが強く、展開の強引さや、ご都合主義が気になるところです。

 それを受け入れることができたなら、『②究明』を読んでみてください。


●登場人物

 時空跳躍有人試験船:ブルーアース(乗員7名)

■スアード・バルジャン(36)乗務員

□ヴレク・オーベン(63)船長

◇レイリー・ロイマー(48)乗務員

□モンタル(45)乗務員

□ヴェルト・ラロッシュ(68)発案者。学術チームのリーダー

◇リラ・セスタ(40)学術チームの一員

□メルビー(51)学術チームの一員


    プロローグ

   

「これは、非常に危険な試験計画ですね……」

 大きな机を前にして五人の審議員が並び、真ん中に座る年配の男性が呟くような小声で言った。

「戻ってこれないかもしれない。そうなると、乗員は命を落とすことになります」

 その対面に一人で座る五十代の男性は、身じろぎ一つしなかった。じっと五人の視線を受け止める。

「そのようなリスクの高い計画に、優秀な人員を送り出すことには気が咎めます。世論も反発するでしょう」と端に座る男性が言う。

「それでも、この計画に着手すべきなのですか」と別の一人が計画の提案者に尋ねた。

 向き合う男性がゆっくりと頷く。

「ご承知のように、時空跳躍の実証試験は行き詰まっています。これまでに放った無人試験船は一隻も戻っていません。跳躍に突入し試験船は消失しましたが、目的の場所に到達したのか、それさえも不明な状況です。戻ってこない原因を考えると数多くの憶測が出てきますが、その解明には同様の無人船を何隻使って試験を繰り返してもダメでしょう。時空跳躍論に精通した科学者を乗せて跳び、跳躍した先で問題解決に取り組み地球帰還への手法を確立する。そうするしかありません」

 その無人船の試験も打ち切りが検討されている。別の取り組みが何としても必要だった。

 低く唸った一人の審議員が口を開く。

「しかし、跳躍そのものに失敗し船が大破したという憶測を拭うことはできない。もし、そうした失敗ならば搭乗員は何もできずに命を落とすことになる」

「跳躍が上手くいっているという確証はあるのかな?」と別の審議員が追い打ちをかけた。

「確証はありません……」と問い掛けられた男が答え、言葉を続けた。

「しかし、跳躍には成功したが、何等かの理由で地球帰還ができない。搭載した人工知能では解決できない問題がある。そうした可能性があります。その場合は、生身の人間が乗っていなければ先へは進まないでしょう」

「私には、危険な賭けのように聞こえるが……」

「時空跳躍の研究は暗礁に乗り上げています。これを打破するには危険を孕んだ賭けに挑まなくてはなりません」

 審議員が項垂れ、弱々しく首を横に振った。

「それは無謀というものです。認めるわけにはいきません。少なくとも問題なく跳躍できることを確認しなくてはなりません。もう一度、理論の基礎から見直し、短距離跳躍の実現を目指すべきです」

 計画の提案者は小さく息を吐き、目を閉じ俯いた。その手法の糸口を掴めないでいることは、この部屋の誰もが承知している。地球近傍で試験を行おうとすることで無理が生じ、試験船を遠くへと弾き跳ばしているのではないか、そう考える者もいた。

 提案者が顔を上げ、鋭い視線を五人の審議員に投げ掛けた。

「危険を承知の上で有人試験に取り組む以外に、時空跳躍の実現はないと考えます。今一度、ご検討をお願いします」

 その強い口調に、審議員の五人は顔を顰める。重苦しい空気が、その部屋に漂っていた。




    一

   

 三人がゼロGのアクセスチューブをやって来た。スリムな体型で髪が短く、険しい顔をしている。

 スアード・バルジャンはランチのエアロックで背筋を伸ばし出迎えた。

 先頭は高齢の男性、この有人試験計画の提案者であるヴェルト・ラロッシュ博士。十五年以上、この計画に関わり、ついに決行となる。感慨も一入だろう。一瞬、目が合ったが、そのまま船室へと入っていった。

 その後ろを五十代のメルビー博士が追う。髪の毛は年長者のラロッシュより薄い。彼も目の前を素通りする。バルジャンは二人の科学者に声を掛け損ない、短い髪の頭を掻いていた。

 少し遅れて女性がエアロックに入る。四十歳のリラ・セスタ博士だ。彼女も女性にしては短すぎる髪をしている。長期の試験飛行に挑むための覚悟を表していた。

 彼女は壁のグリップに手を掛けて体を止め、微笑む。

「あなた、確か、一番若い乗員の……」

「バルジャンです。よろしくお願いします。まあ、若いといっても三六歳ですけど……」

「迎えにきてくれたの、ありがとう。前の二人は気付かずに中に入ったようね。ごめんなさいね。悪気はないのよ」

 試験船に乗り込むメンバーの顔は知っていたが、会うのは初めてだった。それも仕方ないとバルジャンは苦笑いをする。

「構いませんよ。ちゃんと挨拶ができなかった私が悪いんです。どうぞ中に入ってください」

 バルジャンは彼女に続いて船室に入った。窓はなく、モニターディスプレイがあるだけの狭い部屋の壁には搭乗者が体を固定するベルトが備えてあり、先に乗り込んだ二人の科学者がそれと格闘するようにもがいている。ゼロGに馴染んでいない高齢の観光客のように見えた。

「手伝います」

 バルジャンはそう言ってラロッシュに近付いた。

「ありがとう、すまない……」

「彼、ブルーアースの乗員よ。気付かなかった?」とリラが言う。

「そうなのか、ランチのスチュワードだと思ったよ。悪かったね」

「いえ、大丈夫ですよ。バルジャンと言います」と微笑みながらラロッシュの固定作業を手伝った。

「迎えに来てくれたのかな?」隣からメルビーが尋ねる。

「ええ、船長の言い付けですが……」

「忙しいのに面倒を掛けたね」

 バルジャンは、メルビーに笑みを投げた。

「そんなことはないですよ。正直に言うと、船の最終チェックはそれほど忙しいものではありません。専任の検査要員が何人もブルーアースに乗り込んでいますからね。私たちはその作業に立ち会っているだけなんです……。きつくないですか?」

 バルジャンは実情を話してから、ベルトの固定具合をラロッシュに尋ねた。

「ああ、ありがとう。大丈夫だよ」

 バルジャンは一つ頷いてから隣のメルビーのベルトを見る。彼は既に装着を済ませていた。

「ブルーアースまでは、二時間ほどかかるそうだね」

「ええ、そうですね」

「またも、狭い部屋に缶詰だな。まったく宇宙での扱いは荷物と変わらない」

「すみません。もう少しだけ辛抱してください」

「君が謝ることはないよ。しかしブルーアースに行っても、少しだけ広い部屋に閉じ込められることになる。密閉空間に変わりない。げんなりするね」とメルビーは引き攣った笑いを見せる。

「それを言うなら地球だって密閉空間だわ。あそこから一歩も出ずに人生を終える人が沢山いるのよ」とリラが返す。

 メルビーは不服そうな顔をし、バルジャンが口元を緩める。

 それを承知の上で、この計画に志願したはずだ。後悔しているのか? それとも、いよいよ試験船に乗り込むことになり緊張しているのかもしれない。愚痴の多い科学者なら、この先少々厄介だ。

 リラもベルトの装着を終えていた。

 バルジャンは彼女の隣へ行き、壁に体を固定する。

「ブルーアースは、どんな様子なの?」とリラが話し掛けてきた。

「バタバタしてますよ。検査要員が大勢乗ってますから、然程広くない船内が一層狭く感じます」

「それじゃ、最終チェックが終わるとガランと広く感じるかもしれないわね」

 バルジャンはニコリと笑みを返す。

「でも、私たち三人が乗船すると更に狭くなるわ。困るわね」

「大丈夫ですよ。このランチで仕事を終えた四人の検査要員をここまで送ってきたんです。ブルーアースの人口密度は下がりましたから」

「私たちが入れ替わって乗船するということね」

「ええ、そうなります。これで七人全員が揃います」

「いよいよね」

「ええ、大詰めです」

 船内システムの最終チェックが滞りなく進めば、作業を終えた検査要員が順に船を去っていく。七人の乗員だけになったら、ついに時空跳躍の有人試験が始まる。初めて人間が時空を跳ぶことになる。

「心配ないわ。きっと上手くいく……」

 とリラが呟いた。その言葉を時空跳躍論の専門家から聞くと不安になる。それほど不確定、危険を伴う試験なのだ。彼女もその不安を乗り越えようとしているのだろう。

 当然だ。不安は日に日に増している。早く跳んでくれた方が気が楽だ。

 ほどなくエアロックの外壁扉が閉じ、四人が乗ったランチがターミナルステーションを離れた。周回軌道上で新造された有人試験船へ向かう。




    二

   

「見えたわ、あれね」とリラ・セスタが言う。

 それにスアード・バルジャンが頷いた。

 ランチのモニターディスプレイに淡く輝く球体が映っていた。二三世紀の科学技術の粋を集めて建造された有人時空跳躍試験船ブルーアースだ。

「殺伐とした星のようね。なぜ、青く塗らないのかしら。あれだとシルバームーンという船名のほうがぴったりだわ」

 船体の中心に生まれる時空の特異点が、そこから放射状に広がり船を包み込むため、時空跳躍船は球形であることが望ましい。

 その球体の外壁に丸い大きなクレーターのように窪んだ場所がある。電波望遠鏡だ。時空跳躍の後、宇宙に点在する規則正しい電波を発する天体・パルサーを観測し、船の位置を測定する。海を行く船が灯台を頼りにするように、時空跳躍船はパルサーから居場所を知ることになる。重要な設備の一つだ。

 壁に固定され居眠りをしていたメルビーを科学者チームのリーダー、ラロッシュが起こした。

「着いたのですか……」

 この状況で眠ることができるのは大した度胸だとバルジャンは思う。時空跳躍に挑む心構えはできているということか。あるいは、単に寝不足で疲れているだけかもしれない。

「ブルーアースだよ。早く船を見たいと言っていたじゃないか」とモニターを指さす。

 そう言われ、メルビーは食い入るようにモニターを見た。低く唸る。

「尻尾のように突き出た物がありますね」

「拡張されたエアロックだよ。船の建造中はエアロックが沢山あった方が都合がいいからね。作業用プラットホームの役割もある。このランチもあそこにドッキングするはずだ。違うかな?」

 最後の問い掛けはバルジャンに投げたものだった。

「ええ、あそこにドッキングします」と答える。

 計画の提案者であるラロッシュ博士は、建造中から何度か船を見に来ていた。ブリッジ要員のバルジャンよりも詳しい事情を知っているだろう。

 ランチは彼の言葉通りに拡張エアロックへ近付き、一回り大きな作業船の隣にドッキングした。

 ブルーアースは大きな船だが、人が活動する居住部は狭かった。大出力の動力装置、複雑な時空跳躍装置、様々な観測機器……。必要な装備は数多く、その隙間にコンパクトな居住施設を押し込んでいる。狭く曲がりくねったパイプ状の通路が、幾つかのユニットを繋いでいた。住み心地が良いとは、お世辞にも言えない。

 バルジャンが先導してブルーアースのエアロックから狭いパイプ通路を抜け、居住部で一番広い部屋に出た。周囲の壁には様々な装置、コンソール、モニターディスプレイなどがビッシリと配置されている細長い部屋だ。ブリッジと呼んでいるが、船の管理・操作をするのは基本的に搭載している人工知能の役目だった。

「想っていたより、狭いな……」とメルビーが呟く。

「検査の人たちがいるからよ」とリラが応じる。

 確かに検査要員の姿があった。メルビーはそれを除いた状態を想像しているような顔付きをする。

 通用口前に漂っている新参者のところへ、奥から二人が近寄ってきた。年配の男性が船長のヴレク・オーベンであることは直ぐにわかる。もう一人は女性乗務員のレイリー・ロイマーだ。

 バルジャンが型通りの紹介をする。

「ようこそ、ブルーアースへ。歓迎します。ここが皆さんの住まいであり、仕事場となりますので、どうか馴染んでください」と船長が笑顔で言う。

「これで六人ですね。あと一人、モンタルは自室で眠っているのかな……」とバルジャンはレイニーの顔を見る。

 彼女は小さく頷いた。

「船の検査は二四時間体制で行っています。誰かが立ち会わないといけませんので……。でも、食事の時間には全員が揃います」と船長が付け加えた。

 その横でレイリーとリラが挨拶を交わす。女性乗員は二人だけだ。早くも結束を固めようとしているようだ。

「とりあえず、船内設備をぐるっと案内し、個室で締めようと思いますが、ラロッシュ博士はどうされますか」

「もし、時間があれば、オーベン船長と話しがしたいのですが……」

「ええ、いいですよ。ブリッジの業務はレイリーに任せますから」と船長が応じた。

 二人はブリッジの一角へ漂いながら話しを始める。バルジャンはメルビーとリラの顔を見た。

「それじゃ、案内します。まず、ブリッジの中をざっと説明しますが……」

 レイリーはリラに目配せしてから中断した作業に戻っていく。

 ブリッジに人が溢れ、一段と窮屈に感じた。

   

 食事の時間となり、七人の乗員がダイニングルームに集まった。ただダイニングといっても円筒形のガランとした味気無い空間だ。全員が集まりプカプカ浮いていると、やはり窮屈に感じる。それに、豪華な晩餐というわけにいかない。

 乗員は長期の試験期間を覚悟しなくてはならない。

 食料は、必要なカロリーや各種栄養素に加え、窮屈な環境でも平静を保てるように精神安定などの薬剤が含まれる専用の固形食を食べることになる。この船に積む食料は、長期保存が可能なこの淡泊な調整食のみ。食事というよりは、取り決められた栄養摂取だった。

 乗員はこの質素な食事に耐えることになる。メルビーも、この不条理には愚痴を零さなかった。とっくに諦めているのだろう。

「全員が揃い、私もホッとしています」とオーベン船長が話しを始めた。

「既に、ご存じでしょうが、船内システムの最終チェックに大きな問題はありません。まあ、細かなことは幾つかあるのですが、概ね良好と言えます。予定通り、二週間後には地球軌道を離れることになるでしょう。今日乗船した学術チームの皆さんも、早くこの船の環境に馴染んでいただきたいと思います」

 船長は狭い空間に集まった全員の顔を見回してから、最年長の男性に視線を向けた。

「では、この試験計画の提案者であるラロッシュ博士に、ご挨拶をお願いしたいと思います」と畏まった。

 ラロッシュは微かに顔を顰めたが、直ぐに頷き、少しの間を空けた。

「まずは皆さんにお礼を申し上げたい。この無謀な試験計画に志願し、参加してくださることに感謝します。ありがとう……」そう言って見詰める顔と順に目を合わせる。

「この計画を審議会に提出してから、十五年が経ちます。すんなりと進むはずもなく、数々の手間を掛け、ようやくここまで来ましたが、今、振り返ると、あっという間の十五年でした。この短い期間に、有人試験船を建造し決行にまで辿り着けたことは、大きな驚きでもあります。それ程、時空跳躍の研究が行き詰まっていたということです」

 ラロッシュは、ここで大きな息をした。もう一度、皆の顔を見回す。

「この間にも、私たちは時空跳躍論の検証を重ねてきました。しかし、残念ながら、無人試験船が戻ってこない原因は掴めていません。跳躍の際、致命的な損壊を引き起こすかもしれない。その疑念を払拭することはできませんでした。一瞬のうちに皆さんの命を奪うことになってしまう、そのリスクは残っています……」

「皆、覚悟はできています。それを承知の上で志願したのですから」とオーベン船長が乗員の気持ちを代弁した。

 ラロッシュが険しい表情で頷く。

「考えれば考えるほど、様々なリスクが頭を過り、不安が募ります。それは、おそらく皆さんも同じでしょう。本当に、命を懸けるほどの取り組みなのか。発案した私だけでなく、皆さんを巻き込んでしまったことに心苦しさを感じます……」

 ラロッシュはゆっくりと顔を動かし、全乗員を見回した。もはや後に引けない。

「この有人試験が成果をあげ、全員が無事に、ここへ戻ってくることを切に願います。その目標を達成するために、皆さん、全力で取り組みましょう」

 最年長者の力強い言葉に、狭い空間に漂う全員が決意を新たにし、覚悟を込めて頷いていた。




    三

   

 ブルーアースには船外活動用の小型ポッドが二台装備されている。スアード・バルジャンがポッドの手入れをしていると、二人の女性乗員が現れた。

「お邪魔かしら?」とレイリー・ロイマーが笑みを浮かべて尋ねる。

「そんなことはないけど、どうしたの? 手伝いに来てくれたのかな?」

 二人はバルジャンの側へ漂ってくる。大小二対のアームを広げたポッドの姿は、二人の女性の訪問を歓迎しているように見えた。

「私たちにできることがあれば、手伝うけど……」

「いや、自分も手持ち無沙汰だからポッドを磨いているだけなんだ。特にやることはないよ」

「じゃあ、しばらくここでお喋りしても構わないかしら?」

「お喋り? 構わないけど、女性同士の内緒の話なら、自分はどこかに消えた方が良さそうだね」

 二人の女性が微笑む。

「大丈夫よ、単なる雑談だから。メディアの取材が入ってブリッジが窮屈になったの。ここなら気兼ねなく手足が伸ばせると思って逃げて来たのよ」

 船外活動ポッドの格納スペースは、作業空間としての役割もあった。ポッドが通過する大型のエアロックがあり、備蓄品の搬入作業もこのスペースを利用する。今は、変形した空間に荷物などはなく、伸び伸びできた。

 バルジャンは時刻を確認する。

「随分と遅れたね」

「そうね。向こうに何かトラブルがあったそうよ。船長とラロッシュ博士が対応してるわ」

 バルジャンは、ふ~んと頷く。それを見て、リラ・セスタが話を始めた。

「さっきレイから聞いたのだけど、ポッドで外に出るそうね」

「ええ、ポッドの飛行管制の最終チェックですよ。船の周りをぐるっと回るだけですが……」

「ポッドには、もう一人乗れるそうね。補助要員のスペースがあるって聞いたわ」

 バルジャンは作業の手を止め、リラの顔を見た。

「私も乗せてくれない?」

「えっ!」と驚く。

「……これに、乗りたいの?」

「ええ、ポッドには、まだ乗ったことがないの。一度乗ってみたいと思ってたのよ」

 そういうことを言う人がいるが、時空跳躍論を研究する科学者の口から、その言葉が出てくるとは思ってもいなかった。意外だ。

「別に構わないけど……」

 バルジャンは口籠もりながらレイリーの顔を見た。ニコニコしている。彼女からポッドに二人乗れることを聞いたのだろう。

「中はどうなってるの? 見せてもらえる?」

「いいけど、狭いよ」

 小さな卵形のポッドには背面のハッチから潜り込む。手狭な内部には操縦装置のスティックやスイッチが並び、操縦者は丸まるような姿で台座の上にベルト一本で体を固定する。補助要員はその背後の斜めの内壁にベルトで括られることになる。同じように丸くなり、操縦者の肩越しに窓の外を見ることができた。この狭さに二人が乗ることは、やはり窮屈だ。広大な宇宙に出ると、どこへ行っても窮屈さが付き纏う。

   

 三日後、二人はその狭いポッドに乗り込み、ブリッジからの指示を待っていた。

「苦しくないですか」

 とバルジャンは正面を見たまま、リラを気遣った。後ろを振り向くのは、厳しい。

「大丈夫よ、じっとしているだけだから」

 耳元に彼女の息遣いを感じる。

「レイリーとは、仲良くやっているようですね」

「もちろん……。それ、どういう意味?」

「どういう意味って、そのままですよ。でも、敢えて言うなら、女性同士って時に啀み合うことがあるじゃないですか。この船は、どちらかといえば男社会ですから、二人きりの女性の仲が悪かったら面倒だと話していたんですよ」

 そう言ってバルジャンは笑い声を付け足した。表情が見えない会話で、深刻ではない下世話な雑談だとアピールしたかった。

「男性陣は、そんなことを話しているの。ご心配なく、仲良くやってるわ。でも、男同士でも妬むことがあるでしょ。そっちのほうが問題ね」

「大丈夫ですよ。女性ほど、ねちっこくないですから」

「ねちっこい? そうかしら……。でも、男も女も関係ないわね。諍いが起きるようなことは避けないといけないわ」

「そうですね、平穏無事が一番です」

 とバルジャンが頷き、話題を変えた。

「以前、レイリーから聞いたのですが、あなたが学術チームに加わったから、ブリッジ要員として女性が選ばれることになったそうですね」

「あら、私はその反対の話を聞いたわ。ブリッジ要員に女性が選ばれたから、学術チームに私が入ることができたってね。乗員が男ばかりだったら、無理だったと思うわ」

「そうなんですか。どっちが本当なんだろう……」

 危険を孕んだ任務だったが志願者は少なくなかった。皆、優秀だ。どうして自分が選ばれたのか気になるところだが、その理由を知ることはない。選考理由は内密になっている。

 もっとも、男ばかりで編成すると何かと物議を醸し出すものだ。男五人、女二人が一つの落とし所だったのだろう。バルジャンはそう考え、一人で頷いていた。

「ポッド2、準備が良ければエアロックに進んでください」

 無線通信からレイニーとは別の女性の声が指示をした。バルジャンは、もう一人女性がいたことを思い出す。船に搭載された人工知能のアイだ。彼女のことを忘れては叱られてしまう。

「了解、エアロックに入ります」

 バルジャンがコンソールを操作すると、大型エアロックの内壁扉が開き始め、ポッドを掴んでいた搬送アームがゆっくりと動き出した。全開した扉を潜り、エアロック室にポッドを押し込む。室内にある支持アームがポッドを掴むと、搬送アームが引っ込み、内壁扉が閉じてエアロック室内の空気が吸引される。

 真空になったところで外壁扉が開き、今度は外壁から突き出たアームがポッドをエアロック室から引き出した。

「今、外壁アームから離れました。管制誘導に従って進みます」

 バルジャンはそう報告してからポッドを操り、ゆっくりとした速度で船から遠ざかっていく。

「一旦、船から離れます」

 それが自分に向けられた言葉だということに気付くまで、リラは少し時間を要した。

「ポッドを操縦している時、話し掛けても平気なの?」と尋ねる。

「平気ですよ。管制誘導で飛ぶのは、実はとても簡単なんです。ちょっとした講習を受ければ、誰でも飛ばすことができますよ」

「私でも?」

「ええ、もちろんです。ただ、完全なマニュアルコントロールになると、少々厄介ですが……」

「マニュアルも習得しないといけないのでしょ?」

「ええ、作業をするのに必要です。一つの資格ですね」

「そうなると、私には無理ね。四本の腕をどうやって操ればいいのか、イメージが湧かないわ」

 リラの言い分にバルジャンが笑う。

「大丈夫ですよ。基本的に、二対を同時に操作することはしませんから」

「あら、そうなの。でも、どこかの宇宙施設の外壁で、四本の腕を使って作業しているポッドを見たわ」

「えっ、そうですか。おかしいな。普通は、大きな腕で施設の構造物を掴み、小さな腕を使って細々した作業をするのが基本になるのですが……」

 リラは上目をして記憶を探った。そう言われると、四本の腕がバラバラに動いていた覚えはない。彼女は無言のまま頷いた。

「作業用ポッドはともかく、跳躍試験が上手くいって戻って来たら移動用ポッドの免許を取ったらどうです? 今回の試験飛行はゼロG環境の長旅になるでしょうし、船にはトレーニングジムがありませんからね。足がやせ細りひ弱になることは確実です。体も心臓も弱っています。帰ってきて喜んで地球に降りても立つことすらできないでしょう。月面でも苦しいぐらいです。下手をするとポキリと骨が折れてしまう。焦れったくてストレスが溜まるでしょうね。移動用ポッドが操れるなら、気晴らしをすることもできますよ」

「そうね……。戻って来た時の具体的な計画はないけど、周回軌道上の施設を渡り歩くのも、面白いかもしれないわね。それぐらいのご褒美は、もらえるかしら……」

「もらえますよ、きっと……」

 無事に戻る。

 誰もがそれを願っているが、有人試験の計画では乗員の帰還後の生活については余り配慮されていなかった。トレーニングジムを設けて激しい運動をして、バクバク食事をするようになっては困る。食料備蓄にも限りがあった。

 試験計画に激しく体力を消耗するような作業はない。痩せた乗員が穏やかに長く活動できることの方が重要だった。乗員は皆、スリムで少食だ。全てが上手くいき、無事に帰還した後のことは、その時考えることになる。これはそうした無謀な計画だった。

 会話が途切れたのを機に、バルジャンはポッドの姿勢を変えた。

「あれは何? 船の外壁から何か大きな物がロープで繋がっているわ。来た時には無かったと思うけど……」

 正面の窓からの眺めにリラが反応した。

「あれを見ておこうと思い、ポッドの姿勢を変えたんです。ブルーアースを地球周回軌道から引っ張り上げるための大型ロケットユニットです」

「大型ロケット……」

 有人試験船は開発された時空跳躍装置を備えているが、通常の宇宙を進むための推進装置を持っていなかった。船に各種装備を詰め込むために割り切って取り除いた設備の一つだ。船には姿勢を変える能力はあるが、宇宙を移動することはできない。

 しかし、時空跳躍に突入する際、空間が歪み強い衝撃波が発生するため、地球周回軌道で跳躍を行うわけにはいかなかった。そこで、ロケットユニットを取り付けて周回軌道を離脱し、地球から十分離れたところで跳躍試験を行うことになる。ブルーアースは大柄のため、外部に取り付けるロケットも大型のものが用意された。

「周回軌道を離れたらどうなるの?」

「根元から切り離す。船はそのまま地球から離れていき、ロケットユニットは月を回って地球に戻る軌道に乗り、回収・整備されて他の用途に使われるはずです」

 リラは、ふ~んと頷く。

「数日前に運ばれてきて取り付けましたが、せっかく外に出るのだから、直に見ておこうと思ってね」

 リラがもう一度、ふ~んと言う。

「ねえ、他の物も直に見たいのだけど、ポッドの向きを変えられる?」

「他の物? 何ですか」

 その問い掛けに、少し間が空いた。

「地球よ……」

「地球……」バルジャンは、その言葉を繰り返した。

「ブルーアースには観察窓が一つもないでしょ。船外カメラで見ることができるけど、できれば窓越しに見ておきたいの」

 バルジャンにも、その気持ちは理解できた。故郷の星を直に見たい……だから、ポッドに相乗りすることを望んだのだ。納得できた。

 バルジャンはポッドの姿勢を変えた。正面の窓いっぱいに故郷の星が広がる。

 きっと、戻ってはこれない……

 その深刻さは、バルジャンのような乗務員よりも時空跳躍論の専門家のほうが切実なのかもしれない。

 二人は黙ったまま、故郷の星を見詰めていた。

   

 拡張エアロックが外され、船内システムのチェックを終えた最後の検査要員もランチに乗り込みブルーアースを離れた。時空跳躍試験に挑む七人だけとなり、船内がガランと寂しくなる。

 いよいよ、出航だ。

 七人はブリッジに集まり、壁に取り付けられたベルトで体を固定する。パイプ通路の通用口ハッチが全て閉じられ、念のため不測の事態に備える。後は、人工知能のアイの役目だ。

 カウントダウンが進行し、ゼロになると船体が振動した。特殊素材の強靭なワイヤロープで繋がれた外部ロケットユニットがフルパワーで始動。大きな船体のブルーアースを地球の周回軌道から引き上げていく。体に微かな重さ、弱い加速を感じた。

 長く続いた加速が終わった。アイが予定のコースに乗り、船体に異常がないことを告げる。乗員はベルトを外し、手足を伸ばした。この先、何度か加速を繰り返し、地球から離れていく。

 バルジャンは船外カメラの映像をモニターに映した。青い地球が見える。徐々に離れているはずだが、その変化を映像から感じ取ることはできなかった。




    四

   

 母親が泣いていた。父親は怒っているようだ。

 なぜ、そのような危険な試験に加わったのかと問い詰めてくる。やめて一緒に暮らそうと懇願する……

 スアード・バルジャンは目を覚ました。

 細長い箱型の狭い空間、ブルーアースの自室。その内壁に取り付けられたゼロG用の寝袋の中だ。壁に組み込まれた時計を見ると、起床時刻の少し前だ。短い髪の頭を掻き、バルジャンは寝袋を出た。

 船は慣性航行を続け、地球から遠ざかっている。壁の端末装置を操作して現在位置を確認する。それが目覚めの日課になっていた。

「おはようございます」人工知能のアイが起床に気付き挨拶をする。

「おはよう。順調かな?」とジャンプスーツに着替えながら尋ねた。

「はい。大きな問題はありません」

「小さな問題がある、ということか」

 これからブリッジの当直に就くことになる。問題があるなら把握しておかなければならない。

「船に支障はありませんが、体調を崩した方がいます」

「誰?」

「ラロッシュ博士です」

 バルジャンは顔を歪めた。

「どうしたんだ?」

「発熱です。それほど深刻ではありませんが、頭が重いようです」

 七十間近の高齢者だ。周回軌道を離れ、気が緩んだのだろうか。それとも日に日に小さくなる地球を眺めて気弱になり、体調を乱したのか……

「今、どうしているんだ?」

「自室で眠っています」

「そうか。跳躍試験の日までに治ってくれればいいが……」

 まだ日にちはあるが、高齢の科学者の回復力がどの程度のものなのか疑問を持ち、バルジャンは不安を覚えた。初めての有人跳躍の日に、学術チームのリーダーが体調不良というのは、些か心許無い。できれば全員が万全の体調で挑みたいものだ。

 着替えを終えたバルジャンは、狭い自室を出てパイプ通路を進んでいった。

 ブリッジ当直といっても、お飾りのようなものだ。全てはアイが無難に熟す。それを知ってか、二人の科学者も頻繁に顔を出し、暇つぶしのお喋りに加わるようになっていた。

「いやいや、テラホーミングは言うほど簡単ではないよ。気が遠くなるような時間と膨大な手間が掛かる。その間に、どんな変化が起こるのかわからない。未知の細菌やウイルスが次々に湧いて出てくる、そんな事態に成り兼ねないな」とメルビーが断言した。

「でも……」バルジャンは眉間に皺を寄せる。

「地球環境に似た星を探すのは、宇宙探査の目的の一つですからね。真っ向からテラホーミングを否定すると、大衆の興味が半減します。新しい星に降り立ち、気密服を脱ぎ捨て、広い草原を駆け回る。このイメージが必要でしょう」

「バカな。そんなことをしたら、得体の知れない病気にかかり命を落とし兼ねない。無益な幻想を振り撒くのはやめたほうがいい」

「そうなると……」今度はリラ・セスタが口を開く。

「学術調査主体の宇宙探査になるわね。知識は増えても一般大衆の関心は薄くなる。これまでの宇宙開発が抱えてきた問題が出てくるわ」

 その話にメルビーが目を細めた。

「金、の問題か……」

「そうね。人々の関心が低いと、何でそんなことに高いお金を注ぎ込むのか、って文句が出てくる。すると宇宙開発の予算が削られ、大衆が関心を持つ身近なことへ回される……」

「宇宙事業には金欠が纏わり付く。厄介だな」

「この有人試験が実現したのは、ラロッシュ博士を中心とする人たちの奮闘があったからだけど、大衆に不条理を訴え、大宇宙に人類が進出する様をイメージとして与えた戦略が良かったのね」

「不条理か……」とバルジャンが怪訝な顔をする。

 リラが目を大きくしてその顔を見た。

「不満があるようね。私たちは広大な宇宙に生まれたけれど、大半の人はその片隅にある小さな星の表面でうごめき、命を終えている。それはある種の不条理でしょ。別に、どこかの星を侵略しようなどとは考えないけど、異星の様子を覗き見ることぐらいはやってみたい。私たちは、この広い宇宙で暮らしているのだから……」

「確かに、宇宙の片隅だけで終わるのは歯痒いですが、そこまで大袈裟にすることもないでしょう」

「大袈裟か……。しかし、それで予算が付くのなら、こんな楽な話はないな」とメルビー。

「結局、人が暮らしていけるのは、やはり地球しかないと思う。でも人間は、目先ばかりを見て環境を壊してきた。広い宇宙をさ迷えば、地球の大切さに気付くと思うわ」

「気付くだろうか……。いや、既に気付いている。ただ、徹底的に壊して修復できないところまでいかないと、人間の行いは治らないと思うな。性だよ。人間の本性は壊し屋なんだ」

「いざとなったら、どこかの星に移住すればいいというのは、やはり甘い考えなんでしょうか」とバルジャンが問う。

 メルビーが大きく息を吐いた。

「まずは、跳躍を成功させることだな。見聞を広げなくてはならない」

「もしかすると、質の悪い壊し屋を宇宙に拡散させることになるかもしれませんよ」

 目を見開いたメルビーがバルジャンを見る。

「怖いことを言うね……」

 すでに歯車は回りだしている。これを止めることもできない。試験の成功が望ましいことなのか? 人類繁栄のために必要なことなのか?

 時として論争になるテーマだ。考え方は人それぞれだ。何が正しい答えなのか、それは誰にもわからなかった。

   

 二週間の慣性飛行。十分に、地球から離れた。

 全乗員がブリッジに集まり、通路のハッチを閉じて壁のベルトで体を固定した。

 アイが淡々とカウントダウンを進めていく。

 船に問題はない。オーベン船長が、時空跳躍試験の決行を宣言した。

 一光年の距離を跳ぶことになる。

 一瞬のうちに船がバラバラになるかもしれない。この体も粉々になる。その不安が一気にバルジャンの心を支配した。

 大きな呼吸をする。

 泣き叫びたい衝動が突き上げてきた。それをグッと抑える。もう、どうすることもできない。壁に縛られたまま、その時を迎えるしかない。運が良ければ、生き続けることができる。全てが運命だ、祈ることしかできない……

 3・2・1・ゼロ!

 船体がガクンと大きく揺れた。

 だが、恐怖を感じるような激しい衝撃ではない。振動が長く続き、徐々に小さくなった。

 跳んだ、のか……?

 アイが緊急の警告がないことを告げる。この後、船内の各システムに支障がないか詳細なチェックが始まる。それには人工知能の機能チェックも含まれていた。

「それじゃ我々も、身体機能に問題がないか確認することにしよう」

 船長は皆の緊張を解そうと、戯けてみせた。笑いはなく、乗員がノロノロと動き出す。

 バルジャンは自分が力んでいたことに気付く。跳躍に対して精一杯の身構えをしていた。一度全身の力を抜き、大きく息をする。痛みなどはない、感覚はある。手の指、足の指を動かしてみた。異常はない。時空を跳んでも体に変調はない。それがわかっただけでも大きな成果だ。

 バルジャンはベルトを外した。

 それでも、体のどこかに感じ取れない支障があるかもしれない。

 時空を跳ぶという荒業だ。

 体の組成がバラバラになり原子レベルで宇宙に拡散しても不思議ではない。そうならない理屈を時空理論で解説してもらったが、バルジャンはそれを完全に理解することができなかった。ともかく、体の各部が繋がっていることに感謝する。時空跳躍論の正当性の裏付けだ。科学者の言い分は間違っていなかった。

「船が回っているの?」

 近寄ってきたリラが不思議そうな顔で尋ねた。

 バルジャンは目を閉じ感覚を研ぎ澄ませた。微かな動きを感じる。

「回転しているようだね。跳躍の衝撃が原因だと思う。もしかして、気分が悪いの?」

 リラは機嫌を損ねたような表情を見せた。

「そこまで、か弱くないわ。平気よ。ただ、回っているように感じたの」

 バルジャンが頷く。

「感覚が鋭いね。でも、特に緊急性がなければ姿勢制御も船内チェックが終わってからになる。それまではこのまま回り続ける」

 リラが、ふ~んと頷く。

 驚くほど平穏だ。船にも、中の人間にも目に見えるような支障はない。

 しかし、それならばなぜ、無人の試験船は戻ってこなかったのか……

 安堵しつつも、この次に控えているものに怯えていた。




    五

   

「お馴染みの星が見つからない。完全な迷子だ。ここがどこだかわからない」

 船体を回転させ、外壁の電波望遠鏡で全周囲を観測した。規則正しい電波を放出する天体を幾つか捉えたが、どれも既知のパルサーに該当しなかった。パルスの周期が違う。

「船は時空を跳んだが、ここが目的の場所でないことは明らかだ。どこかわからない……」

 学術チームのリーダー、ヴェルト・ラロッシュ博士が、ブリッジに集まった面々にそう告げた。事態にショックを受けているのか、体調が悪いのか、顔色がよくない。

「メルビー博士、状況を説明してくれないか……」

 そう言われ、メルビーは小さく頷いた。

「考えられるのは、とんでもない距離を跳んだのか、あるいは遠い過去か未来へ長い時間を跳んでしまったのか、その両方かもしれない。何れにしても、時空跳躍論に不備があるのだろう。あるいは、跳躍のコントロールに問題があるのかもしれない」

「船や我々の体に支障がないのは、奇跡のようですね」とモンタルが言う。

「跳躍そのものは上手くコントロールできているようだ。問題は、その跳び方なのだろう。跳躍の踏み切りなのか、跳んでる最中の姿勢なのか、着地の仕方なのか、どこかで何かを間違えているようだ」

「どこが間違っているのか、当てはあるのでしょ?」 とレイリー・ロイマーが尋ねる。引き攣った笑みを見せた。

「それをこれから調べることになる」とメルビーが答える。

「時間が掛かる、ということですか」

「それは、今の段階では何とも言えない」とメルビーは顔を顰めた。

 皆、沈黙する。

「無人船が一つも帰っていないんです。厄介だということは最初からわかっていましたよ」とバルジャンが声を張った。

 ただ、楽観的観測が蔓延っていたのも事実だ。人工知能には無理でも人間の知恵と発想力が加われば、問題は必ず解決できる……。その根拠のない自信が真実であることを願うしかなかった。

「ともかく、学術チームは跳躍データの解析に取り組んでもらいたい。我々はもう一度、電波望遠鏡のチェックをする。ポッドを飛ばして基準パルスを送る試験もやってみよう」

 オーベン船長の指示にそれぞれが頷いた。正念場はこれからだとバルジャンは思う。

   

 漆黒の闇がこれほど深いものであることをバルジャンは初めて知った。コンソールのインジケーターがやけに明るく感じる。太陽のありがたみ、心強い存在であることを改めて感じた。

 バルジャンはブルーアースから離れつつ、電波望遠鏡の正面に回り込むコースにポッドを進めた。

「陽気な音楽が欲しいね……」と独り言を呟く。

 窓の外の暗闇とポッドの低く唸る作動音に取り囲まれると気が滅入ってしまう。孤独に耐えながら長い時間をかけ、予定のポイントに近付いた。

「ポッド2、その乗り物はノイズの塊だな。うるさいぐらいに騒がしいよ……」ブルーアースからモンタルが呼び掛けてきた。

「それなら迷子になっても見つけることができる」

 モンタルは安心させようと思い、そんなことを言ったのだろうか? しかし、肝心の母船が迷子状態なのだから頼りにはならないと思う。

「それは意外ですね。自分の耳には小さな唸り声しか聞こえません。ちょっと待ってください。ポッドを静止させます……」

 バルジャンはポッドを操作して船との位置を固定した。ゆっくりと向きを変え、ブルーアースを正面に見る。外壁照明を点灯させた球形の船体は、荒れ果てた星のように見えた。

「基準パルスを発信します。まずは、A波から……」

 時間をかけて基本的なチェックを行った。

 その結果、電波望遠鏡の機能に問題がないことが確認された。そうなると天空に既知のパルサーがないということの証明になる……

「それぞれが規則正しいパルスを発しているが、それは時間の経過とともに変化し周期が遅くなる。既知のパルサーについてはその傾向を掴んでいるから、周期の変化から時間経過を推測できる。過去か未来か知らないが、幾つかのパルサーの素性が明らかになり、時間の変化量が同じなら、今がいつなのかはわかる」

 ブリッジでは、モンタルが捲し立ててきた。

「しかし、これを求めるには膨大な計算をしないといけない。こうした計算を得意にしてるのはアイということになるが、彼女は今、とても忙しい。とてもそこまで手が回らない」

「パルサーの寿命も関係するわ」とレイリー・ロイマーが口を挟む。

「どれぐらいの期間、パルスを出しているのかわからないわ。それを超える時間を跳んだのなら、既知のパルサーはどこにも存在しない。どんなに計算をしても解は得られないわ」

 オーベン船長が頷き、口を開いた。

「とにかく、観測を続けることにしよう。学術チームが何かの糸口を見つけたとき、パルサーの観測データが必要になるはずだ」

 船長の指示に、二人のブリッジ要員が頷く。




    六

   

「何を見てるの?」

 ブリッジに入ってきたリラ・セスタが、当直のスアード・バルジャンの側に漂ってきた。

 跳躍から三カ月が経ち、乗員がブリッジに集まることも減っていた。状況を打開する方法が見つからない。閉塞感が支配し、自室に籠もることが多くなっている。

「光学望遠鏡で観測した周辺の星、太陽のカタログだよ。このなかのどれかが、故郷の星かもしれない」

 上も下もわからない場所で、強いパルスを発する星を基準に星図を作成し、明るい星に光学望遠鏡を向け観測をする。更には電波望遠鏡も使い、ラジオの電波でも拾えないかと耳を澄ます。しかし、歓喜が湧き起こるようなものはない。背景ノイズが聞こえるだけだった。

 二人は幾つかの太陽の映像を見ていた。

 バルジャンが大袈裟な咳払いをする。

「それで、進展はあったのかな?」

 リラが顔を顰めた。

「わかるでしょ」

 もっともだ。喜ばしい進展があったのなら、こんなにのんびりしない。バルジャンは肩を竦めた。

「時間を大きく跳んだという見識に変わりはないわけだ」

「そうね。ただ、過去か未来かもわからない状況よ。何か裏付けがあるわけでもないわ」

 学術チームとして情けない話だが、それが現状なのだろう。

 バルジャンは肩を揺らし、鼻から息を吐いた。

「ラロッシュ博士の体調は、どんな様子なのかな?」

「どこがどうというわけじゃないけど、体調は良くないようね。熱が出たり、頭やお腹が痛くなって顔を顰めるわ」

「精神的なものなのかな?」

「そうね。それに高齢だから……。この狭く閉ざされた空間に馴染めないのかもしれないわ」

 バルジャンが短く唸る。こうした事態は想定の一つではあったが、他の乗員を窮地に引き摺り込んだことを気に病み、責任を感じ体調を崩した。そう考えることもできた。

「リーダーがそんな状態では困るね。もう一人のメルビー博士は、ずっと部屋に籠もっているのかな。最近、顔を見ていないけど……」

「端末に齧り付いているみたいね。私との連絡も通信回線を使うのよ」

「データ解析に没頭しているのか。食事はちゃんと食べているのかな?」

「食べてるみたいよ」

「体を壊したりしないのかな。メルビー博士まで体調を崩すと、学術チームは辛くなる。リラ、あなたも気をつけてください」

「私……、私は大丈夫よ。こうして息抜きもしているでしょ」と微笑む。

 バルジャンはフッと息を吐き、笑みを返した。

「そうなると、自分たちの提案は届いていないのかな?」

「提案……?」

「船長がラロッシュ博士に話したと言っていたのですが、二回目となる跳躍を試みて、新たなデータを得るという提案です。三カ月が経ちましたからね」

「ああ、それね……」とリラは大きく頷いた。

「聞いているわよ。でも、何か一つでも糸口を見つけ、それに対して条件を変えて試験を行うべきだわ。今は、残念だけど、そうした手掛かりも掴んでいないの。闇雲に跳んで、何かトラブルを起こす可能性もあるわ。こういう時こそ、安易な行動は謹まないといけない。そうでしょ?」

「冷静だね」

「知らなかったの、これでも科学者よ」

 そう言われ、バルジャンは口を尖らせて頭を掻いた。

「でも、何もしないで時間だけが過ぎている。我々に与えられた時間は、そんなに多くない。できる時にできる事をやっておく、それも一つの手法だと思う。それに跳躍データが増えれば、何か見えてくるものがあるかもしれない」

 リラは眉間に皺を寄せ、その話を吟味した。

「それが、そっちの意見なのね。覚悟があるの?」

「覚悟?」

「最初の跳躍は、たまたま上手くいったのかもしれないわ。二回目が成功するかわからない」

「覚悟か……。覚悟は最初から決めていたんだけどね」

 リラがその目を大きくした。

「そうね、そうだったわね」

 バルジャンは彼女に向かって頷いた。体調不良のラロッシュは、リーダーシップを取れていないのだろう。そんな気がした。

「メルビー博士にも伝えて、もう一度検討してくれないかな。おそらく、博士は、新たなデータを欲していると思う」

「……そうね、伝えてみるわ」

 思案顔のリラがそう答えた。




    七

   

 船内には倦怠感が充満していた。

 二年が経ち、跳躍試験は十回を数えていたが、答えを見つけることはできていない。時空を跳ぶことはできるが、どこに跳ぶかはわからない。ここがどこで、いつの時代にいるのか、見当すらできなかった。

 スアード・バルジャンは星図の作成に取り組んでいた。跳ぶたびに初めての宇宙になる。星を観測し星図を作り、これまでのものと比較するが、関連を見いだすことができない。途方に暮れる始末だ。

 それでもバルジャンは部屋には籠もらず、ブリッジで作業するように心掛けた。誰もいないブリッジは、寂しい。船の機能が削がれたような気がして、遣る瀬無くなる。

 七十歳になったヴェルト・ラロッシュ博士は、すっかり気力を無くしていた。彼にとってのゴールは有人跳躍試験を実現することだったのかもしれない。その試験に自身が加わることは考えていなかったのだろうか。

 狭い居住部に閉じ込められ、どこかわからない宇宙に跳び、気が滅入ってしまった。無謀な試験計画を提案したことを後悔しているように見えた。

 それでもヴレク・オーベン船長は、ラロッシュ博士に学術チームをまとめて問題の解決に取り組むようにと説得を続けていた。

 時間が余り残っていない。

 今できることをできる間に全力で取り組む。それで結果が得られなかったら、素直に非力を認め、潔く命を終えよう……




    八

   

 少し離れた場所で、スアード・バルジャンは耳を欹てていた。ブリッジに科学者三人が顔を揃え、論議を続ける様を見るのは久しぶりだ。

 何があったのか?

 船長はどうやって説得したのだろう……

 他の乗員もブリッジに集まり、学術チームの動きを見守った。

 議論を終え、学術チームは解散した。そこからリラ・セスタが、一塊になっている乗員のところへ漂ってきた。

「何か進展があったのですか」とモンタルが尋ねる。

「進展と呼べるようなものはないわね。ただ、方針を少し変えることにしたわ」

「方針……?」

「ええ、視点を変えると言ったほうがいいかしら。これまでは問題を解決する方法を探っていたの。でも、行き詰まっていたわ。それで、少し視点を変えて、上手くいっていることに注目し、そこからアプローチすることにしたの」

「上手くいっていること?」

「そうよ。時空跳躍そのものは、これまでに何度も成功しているわ。船や乗っている私たちに何の支障もなく跳んでいる。考えてみると、これは凄いことよ。私たち、時間と空間を平然と跳んでるの。ただ、どこに到着するかわからないだけ。それはちょっとした不備なの。一番重要なところは上手くいっている。そうでしょ?」

 バルジャンが目を丸くして頷く。

「確かにそうだね。もう何度も時空を跳んでいる。これは凄い実績だよ。驚くべきことだ」

「ええ、だから視点を変えて上手くいっているところを突っ突いてみることにしたの。別な捉え方ができるかもしれないわ」

 そんな方針転換で状況が打破できるのか? バルジャンはそう思ったが、それを口に出すことはしなかった。ともかく、学術チームが活動的になることが大切だ。期待したい。

   

 学術チームの動きが活発になり、跳躍試験の周期が短くなっていた。食料の残りを気にして焦っているようにみえる。なんとかして故郷に戻る方法を見い出さなくてはならない。

 十五回目の跳躍が終わり、バルジャンは星図の作成に取り掛かっていた。

「三つ目のパルサーです。位置が若干ずれ、パルス周期も短くなっています。やはり前の二つと同じで、三〇〇年ほど過去の推計値と合致します」

 人工知能・アイの報告に、バルジャンの体が震えた。

「間違いないな……。全員に報告してくれないか。それと他のパルサーの観測も続けよう」

「了解しました。でも、大半の人が就寝中です。起こしますか」

 バルジャンは少し考えた。ここは冷静にいこう。

「起こす必要はないよ。目覚めた時のニュースにしてくれないか。今、起きている人だけに報告してくれ」

「了解です」

   

「アイから聞いて驚いたわ。凄いことよ」と興奮したリラが言う。

 目覚めのニュースを聞いて次々とブリッジに来る人に、バルジャンは同じ対応を繰り返していた。

「全天の電波の強いパルサーの観測を終えました。十五回目の跳躍は、1・27光年の距離と、二九六年過去へ跳んだことになります。それは確定値です」

「凄いわ、同じ時代に跳んだのね。初めてだわ」

 そう言う彼女に、バルジャンは二度頷いた。

「何がその結果に繋がったのかしら、調べないといけないわね。ラロッシュ博士はどこ? まだ起きていないの」

「ええ、まだ寝ているようです」

「起こしたほうがいいわね、起こして。私は、メルビー博士と話してくるわ」

 そう言うと、彼女はバルジャンの返事を待たずメルビーのところへ向かった。

 バルジャンは思案した。

 体調の良くない高齢の学術チームのリーダーを起こすべきなのか……。よし、博士を起こして、自分は一眠りすることにしよう。

   

「依然として、この時代がいつなのかは不明だが、試験を繰り返して跳躍による時間の変位を数十年に抑えることができるようになった。跳躍する空間距離・方向もコントロールできている。これは素晴らしい成果だ……」

 オーベン船長はそこで言葉を区切り、集まった乗員の顔を順に見ていった。

「我々は、長くこの時代に留まっている。そうすると気になってくるのが近傍の太陽だ。もしかすると、故郷の星がそこにあるのかもしれない。もしそうなら、その太陽系の第三惑星に接近して観察をすることにより、ある程度の年代を推測することができるだろう。そこから、我々が暮らしていた時代に戻ることも可能になると期待している」

「時間変位を抑えることができるようになり、更に跳躍試験を繰り返してきたが、実は、一番気になる太陽を目標にして、この何回かは跳躍をしてきた。今、その太陽系に進入することが可能な距離にいる……」

 船長はそこで長い息を吐いた。

「次の二十回目の試験で、第三惑星を観察できる位置に跳ぶことにする」と宣言した。




    九

   

 大きな衝撃、激しい振動!

 警報が鳴り響き、アイが船体の破損を報告した。

 二十回目の跳躍は、これまでとは違う。トラブルだ、事故が発生した。

 壁にへばり付いた乗員に恐怖が襲う。また、大きく揺れ。女性の甲高い悲鳴が耳を劈く。船体が軋み、体に伝わる振動が長く続いた。船が歪な回転をしているのがわかる。

 動揺が広がったが、壊滅的な事態を目にすることはなかった。徐々に振動が治まる。

「アイ、警報を切ってくれないか」オーベン船長が声を張った。

「ブリッジ要員は船の状況を確認してくれ、学術チームはそのまま待機」

 スアード・バルジャンはベルトを外し、コンソールに向かった。ディスプレイに無数の警報が並ぶ。

「ブリッジは気密が保たれています。生命維持システムも正常に作動中。他の居住ユニットやパイプ通路も気密されていますが確認をした方がいいでしょう」と大声で叫ぶ。

 それに続いてモンタルが怒鳴った。

「船体に損傷。被害は外壁部の一部に集中しているようですが、居住部からは離れた場所です。それと、船体中心部の主要システムに深刻な被害はありません。動力システムも正常」

「船が回転していますが、姿勢制御の一部に破損が認められます。船も衝撃に押し出されたようで移動していますが、方向・速度などは不明」とレイリーが続いた。

 壁の支持グリップを掴み、体を安定させた船長が頷く。

「モンタル、被害が拡大する可能性はあるのか。事態は収拾しているのか」

「不明です。事故の原因が掴めていません」

 船長がもう一度頷く。

「船の振動は治まったようだ。だが、注意を怠らないようにしてくれ。当面はブリッジから出ることを禁止する……。アイ、何があった?」

「詳細は不明です。跳躍の到着時に何らかの事故が発生したようです。原因はわかりません」

 船長が顰めた顔をラロッシュに向けた。

「状況調査をしてくれませんか。また振動が起こるかもしれませんので衝撃には注意してください。全員防護ヘルメットを着用するように」

 ラロッシュは無言のまま青い顔で頷いた。メルビーとリラが先に動き出す。

   

「何かの装置が爆発したような事故ではないようです」とモンタルが報告する。

 オーベン船長は顎を摩りながら唸った。

「爆発ではない? では、何があったんだ?」

 そう問われ、モンタルは険しい顔で首を横に振った。

「時空跳躍が絡んでいます。衝撃や破損の原因も普通のものではないようです」

 船長はもう一度唸った。

「普通じゃない、か。厄介だな」

「ええ、厄介ですね。ポッドを使って外から被害や破損状況を確認したいと思います。許可をお願いします」

「モンタル、君が出るのか」

「ええ、見てきます」と頷く。

「いや、バルジャンに出てもらおう」

「どうしてですか。前回、彼が出ていますし、船は回転を続けています、私の方が経験が長いですから……」

「船の回転なら、彼にだって対処できるだろう。君にはブリッジを守ってもらいたい」

 モンタルは目を細めたが、船長のその判断に頷いた。

「バルジャンは、まだ戻っていないのか」

「ええ、他の居住部の気密確認に出ています。先程の報告では、問題はないようですが」

「戻ってきたら、外に出る準備をしてもらおう。損傷箇所を確認し、船体の他の部分に問題がないか、ぐるっと回ってもらう。特に、残りの姿勢制御装置に支障がないかチェックしないといけない。破損して飛び散った破片が突き刺さっていたりしていたら大変だ。気付かずに作動させて爆発、などという失態は避けたい」

「そうですね」とモンタルが頷く。

   

「見えますか?」

 船外に出て、母船の歪な回転を相殺させたバルジャンは、ポッドを一際明るく輝く星に向けた。正面のカメラがそれを捉える。

「太陽に近いな。目的の場所への跳躍は上手くいったようだ」とモンタルが答えた。

「ええ、そうですね」

 ただ、その到着時に何かが起きた。事故だ。どれほどの被害なのか気になるが、ともかく太陽の存在が嬉しい。それが近くにあるだけで心強かった。

「少し離れて、船の全体が映るようにします」

「了解」

 バルジャンはポッドの正面を船に向けて、後ろに下がるようにゆっくりと離れていく。回転する球形の船は、周回軌道から眺める月のように見えた。満月だ。

「あそこですね」

 大きな破損箇所が見えてきた。電波望遠鏡の縁の部分が大きくえぐり取られている。確かに爆発したようには見えなかった。飛散した破片もない。ごっそりと消失したように感じる。

「酷いな、大破だ……」とモンタルの声が聞こえた。

「何周か記録を取りながら待ちますので、映像を解析してください。他に気になる場所があるようでしたら、後で見にいくことにします」

「了解、そうしよう」

 しばらく船体の映像を撮った後で、バルジャンは大破した場所へポッドを近付けていく。巧みに操り、船の回転に同調させて破損箇所の位置で静止する。その直径は十メートル以上、ぽっかり空いた穴だった。そこで正面のライトとカメラを操作し、破損状態を大写しにする。頑丈そうな船体構造まで、ナイフでスパッと切ったように消えてなくなっていた。

「その部分の空間が、分子レベルで宇宙全体に飛び散ったのかもしれない」

 それはメルビーの声だった。全員がポッドからの映像を凝視しているのだろう。ブリッジでの会話をアイが捉え、ポッドに送ってくれていた。

「ブリッジの部分でそれが起きていたら、私たちも一瞬で消えていたのでしょうね……」レイリーの声だ。

「運が良かったんだ」と誰かが言った。

 運が良かったのか?

 この後に悲惨な最期が待っているかもしれない。一瞬のうちに消失していた方が楽だったかもしれない……

 バルジャンは顔を顰めた。ポッドの中で悲観していても仕方ない。ただ、時空跳躍には、まだ明らかになっていない危険が潜んでいることは確かだった。




    十

   

「修復は不可能なのか……」

 その報告に、オーベン船長は重苦しい声で聞き返した。

「船の修復システムは、部分的な故障に対応している程度です。ごっそりと消失していては手の施しようがありません」とモンタルが答えた。

「使えない機能は何があるんだ?」

 それにはレイリーが答える。

「まず、観測システムが軒並み使えません。装置の多くが消失しています。船体の歪みがパラボラアンテナにも及んでいるようなので、装置があっても正確な観測はできないでしょう。光学望遠鏡も装置の一部がなくなっているようで、使用することができません」

「視覚と聴覚を奪われたということか。現在位置はわからないし、近くの星を見ることもできない……」

「はい、そうなります。あと、大きな損失としては、破損箇所周辺の姿勢制御装置が使えません。集約してコントロールしていた装置が無くなっているようです。ですから、使えなくなったものを除外して船の回転を止めることになります」

「それは可能なのか。残っている姿勢制御装置は正常に働くんだな」

「はい、船の別な場所にあるものは正常に動作するはずです。ただ、回転を止めるための制御手順の修正をする必要があります。船の状況を把握しシミュレーションします」

「細かなところは後回しだ。まずは回転を弱めてくれないか。気分が悪くなっている者もいるようだし、回転が弱まれば、バルジャンも帰りやすくなる」

「そうですね、わかりました」

 レイリーが船長の指示に頷き、コンソールに向かった。

「船の主要システムに支障はない、それは確かなのか」と船長はモンタルを見た。

「船の中核部分に警報は出ていません。ただ、詳細なチェックをするには時間が掛かります」

「跳躍は可能なのか」

「今のところ、システムに問題はありません。しかし、船に穴が空いた状態で跳躍して支障ないのか、これについては検討する必要があります」

 それを聞き、船長は眉を顰めて唸った。

「それは学者先生に相談することになるだろう。回転を弱める姿勢制御の準備ができたら教えてくれないか。それとバルジャンには、それまで外で待機するよう伝えてくれ」

「わかりました」とモンタルが答える。

 オーベン船長は指示をした後でブリッジを漂い、一角に集まる学術チームに加わった。

「何があったんだ?」とラロッシュに尋ねる。

 高齢の科学者は、青白い顔の眉間に深い皺を寄せた。

「跳躍データをどう読み解くか、だな」

 その側でリラ・セスタが浮いている。彼女も顔色が悪い。船の回転に敏感なようだ。

「これまでとは違う跳び方をしたのか」

「跳び方というよりは、着地だよ」

「着地……。どういうことなんだ?」

「彼は、太陽や周囲の惑星と干渉したのではないか、と言っている」

 そのラロッシュの言葉に、コンソールを向いていたメルビーが振り返った。

「もっと時間を掛けて解析しないと何とも言えないのですが、これまでの跳躍は、いずれも虚無の宇宙に着地していました。太陽系の中へ跳んだのは、今回が初めてです」

「近くの星の影響を受けたのか。十分な距離がなかったのか」

「データでは、周辺に惑星と思われる重力源は見当たりません。十分離れた場所に跳んでいます。ただ、距離とは違うかもしれません。踏み切る時と、着地の時とでは星との干渉の仕方が違っています。着地の時には、別なことにも注意を払わないといけないのでしょう」

「注意を怠ったため、船の一部が消失したのか」

「太陽と惑星の間に重力の関係しか無いと考えるのは浅はかだと言う人がいます。もっと高い次元で複雑に絡み合うのが太陽系という構造です。もちろん実証はされていませんが、そうした関係性が強い場所に船が時空を超えて跳び込んだら、大きな歪みが起きてもおかしくはありません」

「跳躍をする際に発生する衝撃波も、その一つなのか」

「かもしれませんね。あれは現象として確認していますが、そのメカニズムはわかっていません。いずれにしても一つの推論です。時間をいただいて詳しく解析しないと何があったのかはっきりしないでしょう」とメルビーが言う。

「時間か……」

 どれくらいの時間が必要なのだろう。そもそもこの跳躍は、最初から時間に振り回されている。とオーベン船長は顔を顰めた。しかし、科学者を焦らせても仕方がない。待つしかないのだろう。

 食料が底を突き、餓死したとしても……




    十一

   

 単調な日々を過ごしていた。

 短い周期で跳躍を繰り返し、忙しく働いていたことが嘘のように思える。

 淡泊な固形食を毎日、毎食、食べ続けていると食欲が失せていく。しかし、そんな不満も言えなくなる。食料の残りが心細くなってきた。これが無くなると食べる物がない。餓死が待ち構えている。のんびりしていられない。

 学術チームは船を破損させた原因の調査を放棄している。それよりも古巣に戻る方法を探ることの方が重要と判断していた。

「宇宙は常に膨張してるわ。だから空間の広がりと時間経過が絡んでいるの」とリラ・セスタが解説する。

 だから、どうしたんだ? とスアード・バルジャンは心の中で叫んだ。学者先生が何を言いたいのかわからないが、そこから時間を超越して元の時代に帰る手法を編み出したらしい。ただ、その理屈を尋ねようとは思わなかった。聞いたところで理解できないのは明らかだ。

「もちろん、上手くいく保証はない。だからといって慎重に構えるわけにもいかないわ。食料がなくなってしまう……」

「今、ここがいつなのかわからない状況で元の時代に戻れるのですか。その、ここから何年跳んだらいいのかわからないと思いますが……」とモンタルが尋ねた。

「そうね。でも、時空跳躍によって時間を超越すると、そこには過去も未来もない、すべての時間が混在しているの。そこから私たちの時代をチョイスする。今いる時代との時間の隔たりは関係ないのよ」

 それで全てを説明できたと満面の笑みをみせるリラに、モンタルはぎこちなく頷いた。どうすればそうしたことができるのか、その大きな疑問について誰も尋ねようとはしなかった。

 メルビーが話を継ぐ。

「あとは太陽と反対の方に跳び、星と干渉しない虚無の宇宙に着地します。そうすれば前回のような事故は避けられるでしょう。ただ、問題は、観測システムが使えないということです。周囲を観測することができませんから、目的通りの跳躍ができたのか確認できません。どこかわからない、いつかわからないという状況で、ただ、漂っているしかないでしょう。運が良ければ、何年か時が経ち、私たちの子孫が船を見つけてくれるかもしれません」

「経緯を伝えることができる、ということですか……」

「だとすると、最後の跳躍、ということになりますね」モンタルが顔を顰めて言った。

「そうなりますね。何もしないか、一か八か跳んでみるか……。船体に大穴が空いた状態で時空を跳べるのか、それも含めた懸けになります」

「船体強度が不足した状態で跳ぶと、どうなりますか」

「何とも言えませんが、弱い場所から崩壊していくことは間違いないでしょう。船全体に被害が及ぶかもしれません」

 オーベン船長は、ブリッジに集まった全員の顔を見回した。皆、険しい顔をしている。

 船長は、ゆっくりと大きく頷いた。

「何もしないで飢え死にするより、跳ぶことを選択しよう。この有人試験計画の意義は、最初から無茶を承知で跳ぶことにあったはずだ。跳ばなければ進展はない。ここで尻込みをしては、これまでの成果も意味がなくなってしまう……」

 船長の話に対して乗員の中に頷く顔がある。誰もが深刻な表情ではあったが、揺るぎない決意と覚悟が滲み出ていた。




    十二

   

 振動は大きかった。

 しかし、前回の船体が破損した時のような激しさはない。それでも船体の軋みが酷い。船全体の構造が歪んでいるのかもしれない。不安な心を揺さぶるような振動が長く続いた。

「跳躍は成功です。新たな船体被害もありません」

 長い時間が経ち、アイが報告した。壁に張り付いていた七人の乗員が顔を見合わせ、動き出す。

 二一回目、最後の時空跳躍が終わった。

   

「これまでの試験データをまとめる作業に取り掛かるが、それにどれほどの意味があるのか疑問だ……」とメルビーが言う。

 久しぶりに聞く彼の愚痴だ。

「あら、研究資料を残すことは科学者にとって大切でしょ。どうしてそういうことを言うの?」とレイリー・ロイマーが返す。

 故郷には戻れない……

 スアード・バルジャンは、この計画に参加した当初から頭にあった事態を受け入れ、残り少ない時間をどう過ごすのかを話し合う場に加わっていた。部屋に籠もっていじけるのは、まだ早いと思う。

「どうしてって……。人工知能の記憶システムにも限界がある。動力が切れてから一〇〇年持つか、二〇〇年持つか、いずれにしてもその程度だろう。電子機器に頼っても仕方ない。それに、この虚無の宇宙まで来ることができたのなら、跳躍データを渡しても意味はない。役に立たないデータだ」

 メルビーのその言い分にレイリーは沈黙した。

「データの取りまとめはやらない、ということですか」とバルジャンが代わりに尋ねる。

「いや、やるつもりだよ。私も科学者だからね。自分が関わった試験のデータは整理して残しておきたい。ただ、それが誰かの役に立つとは思っていないということだ」

「不条理に歯向かう無骨な科学者、ですね」とバルジャンは笑ってみせた。

 メルビーは鼻で笑う。

「そんな格好良いものじゃないよ。私は、そんなことしかできない不器用な人間なんだ……」

 その口調が物悲しく聞こえ、皆が沈黙した。

 最年長のラロッシュが咳払いをしてから口を開く。

「試験データの記録は、基本通りの手法で進めるとして、それとは別に、この有人試験計画の側面についても記録に残すべきだろう。可能なら、個人的な想いも残したい。電子機器の記憶装置に頼るのではなく、この部屋の壁に文字を彫るような手法で……」

「洞窟で暮らしていた昔の人たちの壁画ですね」

「そう、それだ。それなら記憶装置よりずっと長く残るだろう。ただ、大量の試験データを残すには壁が少なすぎると思う。それをやるなら経緯を大雑把にまとめないといけないな」

「いいわね。でも、手で彫るのは大変そう……」とリラ・セスタが言う。

「何か、文字を彫刻する装置が作れるでしょう。人力でやっていては時間も掛かりますからね」とモンタル。

「だったら自分の部屋の壁は、その人の自由なスペースにしない。好き勝手なことが書けるの」

「あら、いいわね、それ」とレイリーが同調する。

 バルジャンは、きっと遺書になるな、と思うが、それを口にはしなかった。残り少ない余生を何かをして過ごす、それでいいではないかと納得させた。




    十三

   

「ブリッジに居座るのが好きなのね」

 リラ・セスタがフワフワと近寄ってきた。微笑んでいる。

「ここにいる方が落ち着きます。お気に入りの場所なんですよ」と笑みを浮かべる。

 他の乗員は、随分前に自室へ下がっていた。最後の跳躍を終え、陽気に振る舞っていても何かの瞬間に気が滅入ってしまう。そうなると自室に籠もって自分を見詰めたい。その気持ちも理解できた。

「そっちは、どうしたんです?」

「眠れないのよ。話し相手がいないかと思って来てみたの。あなたがいてくれて良かったわ。誰もいなかったらアイとお喋りしようと思っていたのよ」

 バルジャンは笑顔で頷いた。

「私で良ければ、お相手しますよ」

 リラも笑みを返す。

「ありがとう……」

 そう応え、リラは話題を探った。話しをするために出てきたのだが、この状況の中で会話に適した話題が見つからない。

「終わったわね……」絞り出した言葉が、それだった。

「そうですね、終わりです……。でも、この有人試験の最後がどうなるのか、これまでにあれこれ考えてきましたが、予想外に穏やかですね。その……、もっと壮絶なことばかり考えていました」

「そうね、穏やかね」

「でも、何と言うか、ジワジワと命を吸い取られるような、忍び寄ってくる恐怖を感じます」

 リラが頷く。

「一瞬のうちに命を落とした方が気が楽でしょうね。醜態を曝さずに済むわ」

「そうですね。みっともない真似はしたくないですが、正気を保ったまま死ぬことは難しいのでしょう。迷惑はかけたくない」と強ばった笑顔を見せた。

「そうね……」とリラは険しい顔をした。

 会話が途切れた。沈黙が長引く前にバルジャンが言葉を出す。

「何か、やり残したこととかありますか」

 口に出した後で、取り繕うように笑顔をつくる。深刻な会話にはしたくなかった。

「やり残したこと……。結婚、出産、子育てかしら。女性としての本然を放棄してきたわ」

 バルジャンが頷く。それを口にする中年の女性が何人かいた。彼女も同じ、後悔というよりは、心残りなのだろう。

「あなたは? 何かやり残したことはあるの?」

「そうですね……」と思案する。

「結構、好き勝手に生きてきましたからね。選択の失敗もありましたが、だからといって、他方の選択肢が良かったとは思えないですし……」

「選択の失敗って、この有人試験のこと?」

 バルジャンは声を出して笑った。

「違いますよ。この選択は失敗ではありません。貴重な経験ができましたからね。故郷にいて、ダラダラと暮らしていたらできないことです。これは私の人生にとって最も意義深いことでしょう。後悔とかはありません」と断言する。

 本音に限りなく近いが、僅かなわだかまりが、ないわけではない。

「リラ、あなたは、どうしてこの計画に参加したのですか」

 それはこの船では、タブーとなっていた質問だった。バルジャンがそれを口にした。

「そうね……、人生が上手くいっていなかったからかしら……」

 リラはあやふやに答えたが、これまでの会話の流れとバルジャンの真っ直ぐな視線に屈した。

「プライベートと仕事の両面で行き詰まっていたのよ。状況を打破するには何か大きなことに手を出すしかない、そう思ったの。この計画への志願は、閉塞した暮らしから逃げ出すための手段だった。後悔ではないけど、どうしてあの時、その決断をしたのか、いま冷静に考えるとわからないわ」

 バルジャンが話を聞きながら何度か頷く。リラは、彼が何に対して頷いているのかわからなかったが、それを問い詰める気にはならない。笑顔を見せて、その話を終わりにした。

 バルジャンも笑顔をつくる。

「人生なんて、こんなものですよ。最後は諦めが肝心です」と達観した言葉を口にする。

「そうね、過去の細かいことをグチグチ言っても仕方ないわ」と調子を合わせた。

 二人は暗い気持ちを吹き飛ばそうと笑った。だが、弱々しい笑いだった。

「すみません、通信が入っています」とアイが口を挟む。

「通信、誰?」と返す。

 バルジャンは当然、船内通信だと思った。誰かが何かをやらかしたのだろう……

「スペースパトロールと言っています。無線通信チャンネルです。既に船名、船籍は伝えました。向こうも驚いているようです」

「スペースパトロール? 何だ、それ」

「乗員との会話を求めています。回線を繋ぎますか」

「ああ……、繋いでくれ」

 少しの間があった。

「ブルーアースの皆さん、お帰りなさい。御苦労さまでした。こちらはスペースパトロールです。空間歪みを観測し状況の確認に来たところです。乗員の皆さんはどんな様子ですか……」

 バルジャンは口をパクパクさせていた。質の悪いイタズラのように思えた。

「ブルーアース、聞こえますか……。応答願います……」

 バルジャンはゴクリとツバを呑み込んでから、それに応じた。

「こちらブルーアース、ブリッジ要員のバルジャンです。救助を求めます。乗員七名、全員無事ですが、食料が残り少なくなっています。自力での航行が不可能、漂流している状況です」

「救助要請、了解しました。もう心配はありません。救助に向かいますので受け入れ準備をお願いします。可能ですか」

「はい、可能です。二カ所のエアロックが使用できます」

「了解、少しだけ待ってください」

 バルジャンは大きく目を見開き、リラの顔を見た。

「救助? 本当なの?」

 バルジャンが怪訝な顔をする。

「アイ、今の通信はどこから発信していたんだ?」

「不明ですが、通信状態から考えると、それほど遠くない場所でしょう」

「ウソや悪戯ではないんだな?」

「ええ、通信フォーマットやデータにも不審な点はありません。救助は本当だと思われます」

 二人は顔を見合わせた。

「どういうことなんだろう……。とりあえず、船長に伝えてブリッジに来てもらおう。アイ、頼むよ」

「了解しました。伝えます」

「他の人たちには伝えないの?」

「船長に判断を委ねるよ。本当なら大事だけど、どうも素直になれない……」

「そうね。少し待つようにって言ったけど、どれくらい待てばいいのかしら」

「そうだね。それに疑問は他にもある。この時代がいつなのか、それも気になるね」

 リラが頷く。幾つもの疑問が湧き出ている顔をしていた。

「向こうに聞いてみよう」

 バルジャンはそう言ってから通信チャンネルを開いた。

「スペースパトロール、教えてください。今はいつになりますか」

 短い間の後で答えが届いた。

「ブルーアース、現在は二七世紀です。皆さんが地球を発ってから四〇〇年が過ぎています……」

「四〇〇年……」

 二人が同時に呟き、互いの顔を見た。

 そこへアイが報告を入れる。

「船外カメラの一つに船影が映りました。通信相手の船だと思われます。そちらのモニターに映します」

 二人はモニターディスプレイに視線を移し、息を呑んだ。

 それはブルーアースに似た、球形の船だった。




    エピローグ

   

 四〇〇年前の有人試験船が帰還したニュースは、遠く離れた地球を駆け巡り、大きな話題になっていた。

 その様子を伝え聞いたブルーアースの乗員は、驚き、興奮する。

 時代が異なっても地球の人々は、帰還を喜び、歓迎してくれる。

 バルジャンも意気揚々と故郷に帰れることが嬉しかったが、反面、知り合いが一人もいないことに寂しさを覚えた。

 それでも、故郷へ帰れることに胸を踊らせていた。


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