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第九話: たたかえますか?

 冒険者ギルドにマサトを連れて、新規登録を行ったが驚く事が分かった。

 こいつ、俺より歳上だったんだな。

 フワッとした雰囲気だったから年下かと思ってたが、まさかの一個上だった。


「ほら見ろ、外見詐欺のせいでルシアンが固まってんぞ。」


「不本意!?」


 マサトからの短い反論を聞き流す。

 それよりもルシアンがちょっと嬉しそうに見えるのが気になる。

 自分の世界に入り込んでる様子で何か薄気味悪い。

 ……こんな受付嬢見た事が無いぞ。

 あいつが居る場面ならもう少し砕けた印象があるが、こんな様子は初めてだ。


「さ、さて。次は身体能力の検査や本人の戦闘能力の測定に移らせて頂きます。」


 飛んだ意識が帰って来たようでルシアンはそう伝えると、席を立ち上がり地下の修練場へ案内する。


 ギルドの実技は、昇格試験ならともかく、登録試験ならどんなに出来が悪くても大丈夫なはずだ。

 身体能力も一般人程度なら支障は無い。

 戦闘力が明らかに皆無なマサトでも、何とかなるだろう。


 階段を降りて、試験官を探す。

 あちこちで冒険者が修練しているから探すのに手間がかかる。

 それに、隣の建物の地下までぶち抜いてるだけあって、この修練場は広いのだ。


「そうだ!相手が怯んだとしても大技を繰り出すな!!」


 ……馬鹿でかい声で指導する声がする。

 試験官を探す必要が無くなったな。

 コザックなら煩い以外に害はないから、マサトの試験相手には悪くないだろう。


 三人で声のする方へ歩いて行く。

 ルシアンと俺は聞き慣れてるが、近付くにつれて声が大きくなるとマサトは我慢し切れずに両手で耳を覆い始めた。

 分かるわ、ただただ煩いもんな。


「コザックさん!」


 コザックの爆声の合間を見切ってルシアンは声を掛ける。

 いつもなら何度も叫ばないと気が付いてくれないが、声を掛けるタイミングが良かった。今回は一発でこちらに振り向いてくれた。


「なんだ、ルシアン! おお、ゼクトも一緒かぁ!!」


「毎度毎度うるっせぇんだ、コザック! 声量の調整どうなってんだ!?」


 奴の喧しさに怒鳴るが、本心では無い。

 近所迷惑な声と熊みたいな図体の割に人懐っこい性格だから、何だかんだ憎めない奴だ。煩いがな。

 こんな応酬はいつもの事で、この後にコザックが落ち込むまでがお決まりだ。


「すまん……。」


 ほらな、こうなる。

 第一、荒くれ集団の冒険者に指導なり試験する立場だ。

 威勢の良い奴らに対して威圧するにはこれくらいがちょうど良い。


「そんな事より新しい冒険者志望だ、検定してくれ。」


 いつものように謝罪には目もくれず、要件を告げた。

 俺の後ろに隠れていたマサトを紹介するが駄目だなこりゃ、完全に怯んでやがる。


「ま、真里です。」


「おう、コザックだ。よろしくな。」


 軽い挨拶を終えると、早速試験に取り掛かった。


 新人の査定は、得意な武器を使っての模擬戦を行い、試験官が戦闘能力を見極めて判定して貰うのが基本だとマサトに伝える。

 あれ、俺が殆どの事やってるからルシアンの居る意味無いんじゃ……。


「私はマサト君を見守る必要がありますから。」


 そう断言されたけど実技試験中って、受け付け係の立ち会い必要だったか?


 そんな疑問を持ったがそろそろ二人の手合わせが始まるようだ。

 武器を扱った事が無いと言うマサトは手始めに剣を使うようにコザックに指定されたらしい。

 右手には小ぶりな模擬刀を携えている。


 お互い距離を置き、一定の間合いが出来た所で試験官が合図を出す。


「やあぁ!」


 覇気の足りない掛け声と共に、不格好に模擬刀を構えて振りかぶるマサト。

 それを自前の剣で受け止め、弾くコザックだが一撃目を受けた時点で小さく唸った。


「これは……。」


 振り下ろした剣は強く弾かれて、マサトの体制が後ろへ崩れる。

 その勢いに身を任せて身体を捻り、横薙ぎを打ち込むが、コザックは剣の腹で剣の軌道を僅かに逸らして空振りさせた。

 剣の重みに振り回されるが体勢を整えて再び立ち向かい剣を振る。


 コザックは何か思案する様子で、マサトの攻撃を受けていた。

 少しして打ち合いを止めると、俺の方を向いて顔を顰て来た。

 ……何を言いたいのかは言われなくても分かった。


「弱過ぎないか?」


 そう、マサトは幾ら何でも弱過ぎたんだ。

 武器を手にした事がないとは言え、これは酷い。

 なるべく格好良く表現したつもりだが、実際は剣に振り回されて居るばかり。

 剣筋もヘナヘナだ。


「筋力が無いから攻撃に力は乗ってないし、剣筋も鈍すぎる。何よりへっぴり腰だ。打ち合う度にビビるのは性格由来だとすると、この子は戦い向きじゃあないぞ。」


 この子て。俺より歳上だぞコイツ。

 それはどうでも良いとして、コザックの指摘は真っ当、寧ろ優しく採点している位だ。


 その後も槍や斧なんかを使って模擬戦を行うが結果は大して変わらなかった。

 唯一、目に見張るところは弓の命中精度が申し分無く高かった点だろう。


「戦闘よりも、狩猟系の依頼を主に受けた方が良さそうだな。ひとまずこれで実技試験は終了だ。」


 多少動いただけで草臥れているマサトに、コザックは検定の終わりを告げる。

 後は上に戻って幾つかの質問を終え、ギルドの新規登録が完了するだけだった。


ーーーーーーーー


「それではマサト君。今から幾つか質疑をして行きますので、答えて言って下さいね。」


 地下室で運動を終わらせて元のカウンターでルシアンさんから質問を受ける。

 ついさっきまで限界まで動いてヘトヘトなのに、休ませてくれないのはちょっと酷いと思う。

 でもコザックさんは全然汗をかいてなかったから、僕の体力が無かっただけなのかもね。


「ご趣味は何ですか?」


「何でだよ!」


 ルシアンさんの質問にゼクトが突っ込みを入れた。

 ギルド登録時の質疑応答で決められている質問では無い事を聞かれたらしい。普通に答えそうになった。


 ゼクト曰く、この質問は言語機能や視力検査等の検査だと言う。

 ……そういえば、僕はどうして言葉が通じているのだろう。


「それでは改めまして、今から質問を始めますね。今から色が書かれた六つの板をお渡ししますので、同じ色を選んで下さい。」


 どうして言葉が通じるのか考えたかったけど、その前に六枚のプレートを渡された。

 赤、青、緑、黄色に紫、山吹で全く同じ色は無いみたいだけど、近い色なら良いのかな。

 とりあえず、黄色と山吹色だけを取ってルシアンさんに渡す。


「本当にこれで良いですか?」


 ルシアンさんは心配そうな顔をして、ゼクトさんは苦笑いをしてる。

 やっぱり全部違うって言った方が良かったかな。


「本当は全部違う色に見えますけど、やっぱり同じ色じゃないからダメですよね。」


「いえ、そうではなくて……。むしろ逆なんです。同じ色は後一つ、そして別の色が一組あるんですよ。」


 そう言ってルシアンさんは六枚の板を組み分けしていく。

 赤、黄色、山吹と青、緑の二組を分けたけど、こんなに差のある色が同じ色に分類がされるのか。

 少し考えたけど、多分瞳の色が関係してるのだろう。


 目の色が薄いと、黒目に比べて色の見え方が違うと学校の授業で聞いた事がある。

 今まで会った人は全員が瞳の色が薄かったから世界的に網膜色素が薄いのかな。

 つまり、僕の方が異常なだけで、この世界の人達にはこの組み合わせが正しいのか。


 ハウゼンさんが目立った行動は控えろと言っていたので、色の見え方については隠した方が良いかな。


「すみません。疲れていたせいか色がちゃんと見えてませんでした。」


「あらら、確かに先程まで疲れ果ててましたもんね。それでは色彩判定は問題無しとしましょうか。」


「試験管、良いのかそれで。」


 ルシアンさん、ちょっとだけ甘い気がするけど、僕にとっては有難いからスルーしよう。ゼクトも黙っててね。

 次は口頭での計算で、これは結構簡単な四則演算だったからスラスラと答えられた。


 ……二人ともビックリしてるけど。


「さて、最後に言語についての質問です。今から私の質問する言葉に答えて下さいね。」


 他にも地理とか動物の解体方法、植物の見分けを聞かれたけど全然分からなかった。

 言語の質問って多分、言葉のやり取りに問題がないかの確認かな。

 今までの会話が大丈夫だったから必要ないと思うんだけど。


「今日の天気はなんですか?」


「晴れですけどちょっと雲が被ってます。」


 うん、やっぱり簡単な問答だね。次行ってみよう。


「お名前はなんですか?」


「常結 真里です。」


 二人とも感心してるけど、流石に馬鹿にし過ぎじゃない?


「好きな食べ物はなんですか?」


「苺ですね。」


 今度は微妙な顔をし始めた。男が苺好きでも良いじゃない。次だよ次!


「マサトさんはとても可愛いですね。」


「……馬鹿にしてますか?」


「ん?」


「へ?」


 ゼクトとルシアンさんがほぼ同時に疑問の声を上げた。


 ちょっとムカッとしてトゲのある言い方をしちゃった。

 あれ、気分を悪くさせたかな……?

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