第七話: つかまりますか?
ポケ〇ンのオラシ〇ンを聴いてたら遅くなりました。
僕はこの世界の人間じゃない。誰でも荒唐無稽な話だと思うだろう。
でも、信じて貰えないと思っていたのに、ハウゼンさんは気付いてくれたみたいだ。
すぐに気が付くという事は、前にもこんなケースがあったのかな。
「どうしてそう思ったんですか?」
根拠を聞きたくて、僕は先程の問い掛けに質問で聞き返す。
ハウゼンさんは騙す形になって済まないと、前置きをした。
彼は懐をゴソゴソと漁ると、複雑な模様が彫り込まれた丸い玉を取り出した。
「マサト君の話を聞いている間、これを起動していたんだ。簡易真偽診断魔道具、簡単に言えば嘘発見器だな。尋問している相手に対して質問するんだ。相手が嘘を言えば光る。そんな感じだな。」
魔道具、如何にもファンタジーな物が出て来たなぁ。
先に魔法なんて物を見せられているんだし、驚きはしないけれどね。
「おやっさん、魔道具なんていつの間にか手に入れてたんだよ?」
「馬鹿、警備部隊の備品だよ。先月の中頃から試験的に運用してるんだ。ゼクト、お前がやっつけた犯罪者の聴き取りでも、一応お前に対して使ってたぞ?」
面白がってゼクトさんは玉に色々喋ってる。
驚きはしないけど、流石に効果は疑ってしまう。
「事実と違えば違うほど、光は強くなるぞ。」
「俺は道路を壊してません。」
ゼクトがそう言った瞬間、バッチリ玉が光った。物凄く明るいよ。
本当に嘘を見破る効果があるんだろうね。目が焼けそうだ。
「明るっ。」
「……。このバカは放っておこう……。」
ハウゼンさんは、未だに遊んでるゼクトさんへ嘘発見器を貸し与えて、僕の質問の答えを続けた。
「ニホンなんて国は存在しないのに、君の答えには反応しなかった。つまり、それは真実だと言う事になる。それだけでは、単に君の誤認という可能性はあったが、鞄の中に奇妙な物ばかりで確信したんだ。」
奇妙と言われても僕にとっては当たり前の物ばかり。
どの品について言っているのか分からずに僕は首を傾げるだけだった。
「布のように柔らかい硝子で覆われた小さな本には、君の顔に寸分違わぬ精度の人物画と見た事が無い文字が書いてあった。そして何より、薄く軽い石版。あの石版は、沈黙の迷い子と呼ばれる出来事で極稀に見られる品なんだ。」
学生証と携帯電話だろうか。
写真とビニール製の表紙は科学文明が進んでないと理解は出来ないよね。
日本語も文化が違うから読めはしないだろう。
でも、何故か携帯については少し覚えがあるらしい。
迷い子が何なのか知らないけど。
その沈黙の迷い子について、ハウゼンさんは簡単に説明をしてくれた。
どれほど昔から発生しているのか解明されておらず、大小様々な人智を超えた物品が、その出来事から時折発見されるそうだ。
見た事も無い言語が書かれた本や僕の持っていた石版に似た物、携帯電話だけどね。
これらが謎の肉塊と一緒に見つかる事が多いらしい。
この世界の学者さんが、沈黙の迷い子について研究中。現段階では解明出来ていない事がほとんどだとか。
学者さん達は、未来や異世界の人物が時空の壁を超えて来たと仮定しているらしい。
とある学者さんが提唱して、通説化してる一つの推論では、時空を飛び越える際に発生している歪みが原因だと言う。
物品が無事な理由は分からないが、人間は歪みに耐え切れず、物言わぬ肉塊となってこの世界のどこかに落とされる、と。
「そんな見解からこの事象は、沈黙の迷い子と呼ばれているんだ。」
恐ろしい事を聞いた。
今は身体中に違和感は無いけれど、もしかしたら僕は今ここには居なかったか、肉の塊になって街中に放置されていたかも知れない。
魔道具に飽きたのか、ゼクトさんはハウゼンさんに嘘発見器を返しながら疑問を呈す。
「でもマサトはグチャグチャになってないぜ?」
ゼクトさん、もう少し優しさに包んで物を言ってくれないかな?
「俺もこんなピンピンしてる迷い子なんざ聞いた事ない。マサト君、異変に気付いた時点で構わないから教えてくれ。君は初め、どこに居たんだ?」
ハウゼンさんも、ピンピンしてるって言わないで欲しいです。
今、自分の体に不調が無いかとても不安なんです。
どこと言われても、目を開けた瞬間には知らない場所に立っていた。
多少歩きはしたけど、門を潜ったり街の外に出た覚えは無いから対して移動はしてないと思う。
「多分、この街のどこかだと思います。私が気付いた時には街の中でしたから。」
「俺がこいつを見つけたのは商業区、大通りのド真ん中で立ち止まってた所だから間違いないぜ。」
ゼクトさんが補足してくれた。
……何を思い出したのか、ちょっと口角が上がってる点が気になるけど、その証言はありがたかった。
ハウゼンさんは少し唸りながら質問を続ける。
「という事は、もしかしなくてもフレイメルトの滞在許可証もこの世界の身分証も無いって事だな?」
「元の世界の学生証とか運転免許なら有りますけど、身分証は無いですね……。」
ふと思ったけど、僕の今の状況は不法滞在者だ。
目の前に警察元い、警備部隊の面々が居るこの状況って結構まずいのでは?
今の自分の立場がとても脆い状態だと気付く。
急に、彼らが恐ろしく感じてしまう。
人見知りタイム突入である。
「あ、あの……。僕、どうしましょう?」
急に挙動不審になった僕を見て、皆さんがキョトンとしていた。
「本来なら不法滞在者として拘留。事情聴取の後、良くて罰金だな。持ち金も無いんじゃ、街から追い出されるか犯罪奴隷として滞在分を稼いで解放って所か。だが君は迷い子としてここに居るから最悪の場合、研究機関に回される可能性もあるな。」
……うわぁ、ハウゼンさんからオブラートに包むこと無くあっさりと言い捨てられた。
研究機関なんて言われると嫌な予感しかないんだけど。
明らかに詰んでいる状況に慌てる。
そんな中、最後まで聞けと含みを持たせ、ハウゼンさんは諭す。
「だが、今回は事情が事情だ。誰も君を沈黙タキトゥスの迷い子とは信じないだろう。俺達もはっきり言って君の身柄についてアレコレするのは非常に面倒くさい。」
それで良いのか警備部隊さん。
後ろの部下さん達も首を揃えて頷いてるけど、絶賛不法滞在中の僕からしてもおかしいと思うよ。
「という事で、今から君の筋書きはこうだ。家族を全員殺害され、犯罪者に囚われたマサト君は、秘密裏にこの街へ連れて来られる。荷物に紛れ込ませて検問を通過し、街の中で奴隷商へ売り飛ばされる事に。取引の直前に一度は逃げたが、すぐに捕まり暴行を加えられていた所、ゼクトに助けられ保護されたんだ。行く当ての無くなったマサト君はこの街で生きる決意をし、独り立ちできる間、ゼクトに引き取られ……。」
「ちょっと待てぇ! なんで俺がマサトを引き取る話になってんだ!?」
謎のストーリーが滾々と展開されて、ゼクトさんの突っ込みが入った。
つまり、しばらくゼクトさんを隠れ蓑にしてこの街で生計を立てていけと言う事かな。
よくそんな話を即興で作りましたねハウゼンさん……。
僕としては現状、元の世界に戻れるか確証が無い中で、どこか拠り所が出来るならとても心強く感じる。
彼になら僕のコミュ障が発揮しなそうだ。
僕は一先ず、ハウゼンさんの考えに賛成した。
「ほら、マサト君も望んでるんだ。少しの期間なんだから良いだろうが。それと前々から思っていたが、お前は一匹狼過ぎるぞ? この機会に人との繋がりを大事に扱う練習しろ。」
……ちょっとだけ僕にも飛び火した様な気がする。
気にしたら負けだ。
二人の言い合いで成り行きが決まるのでハラハラしながら会話を見守る。
「人見知りはソイツの方が専門だ、俺は間に合ってるよ。第一、俺じゃなくおやっさんでも良いだろ。泊まる場所、大して変わらないんだし。」
「俺は仕事上、隠し事できないし業務外で急に呼ばれる事も多いからな。今日だって俺は休みなのに、今回の件で呼び出し受けてんだ。知ってるか? ゼクトの関係してる問題は全部俺が担当になるって暗黙の了解が警備隊の中で決まってんだ。少しは迷惑掛けてると思ったら引き受けてくれ。」
「全っ然思ってないから引き受けないぞ、俺も毎日カツカツなんだ、自分以外養うのは少し厳しいって。まぁ、マサトが働くなら分からなく無いけど。」
流石にヒモみたいな事はしない。
色々と相談するかも知れないけど、しっかりと自分の食い扶持は稼ごうと思ってる。
そう伝えると幾らかはマシになったけど、やっぱりゼクトさんの顔色は曇ったまま渋っているのだった。
「なるほどな、ゼクト。そこまで言うんなら仕方がない……。」
そんな様子に見兼ねたハウゼンさんは、僕にとっては助け舟、ゼクトさんにとっては爆弾発言を呟いた。
「確か石槍以外で、もう一つ魔法形跡があったなぁ。違反金一万五千プルーフ、請求しても良いん。」
「いつもハウゼンさんには世話になってるからな、うん。よし、しばらくの間は俺が面倒見てやるからな。マサト!」
ハウゼンさんが言い終わる前にゼクトさんは矢継ぎ早に告げてくる。
とっても黒いやり取りを見た気がする。
僕は知らないよ、何も見てないよ。
でも人見知りを馬鹿にしたのは見逃さないからね。
ともあれ、折角自分とって良い話に纏まってたのに、水を指して台無しにするのは愚かだから後に残すけど。
どれほどの期間、お世話になるか分からないけど、彼は面倒見てくれると言ったのだ。
しっかりと礼をしないとね。
「宜しくお願いします、ゼクトさん!」