第六話: かんちがいですか?
※この話は後日大幅に修正するかもしれないです。
「だぁまぁぁさぁぁれたぁぁぁぁ!!」
ゼクトさんが大絶叫しているが、僕は悪くないよ。
勝手に勘違いした人が悪いのだ。
周りを見ると現場検証に来た人達も大なり小なり驚いていた。
軒並み揃って失礼な人達だね。
「お前、自分の事を私って言ってたじゃねえか!」
「初対面相手なら当たり前でしょう! 本来なら一人称は僕って言ってますよ!」
「それじゃあ、何でお前の顔そんなに性別が行方不明なんだよ!」
それについては生まれた時からこんな顔だと言う他が無い。
今まで数え切れない程女性と間違えられていた。
大体の人達は皆、顔で判断してばかりだった。これだから人付き合いは嫌なんだ。
あまりにも失礼な物言いなのでゼクトさんには全然人見知りが発動せず、先程まで抱えていた恐怖心もどこかへ飛んで言ってしまった。
ついでと言っては何だけど、周りで未だに驚いてる警備隊の人達にもあまり警戒心が出て来なかった。
「好きで行方不明してるんじゃありません!」
「その喋り方もおかしいわ! 敬語と女言葉が混じった言葉遣いしやがって!」
「それはごめんなさい!」
「なんでそこは素直に謝んの!?」
人と話す事を苦手にしている内に、男らしい言葉遣いは忘れてしまったのだ。
コミュ障と罵られても仕方が無い事だから、それは申し訳なく思う。
しかし、騙されたとは如何な物かと。
見た事が無い外見で判別付けにくいとは言うが、女性だと決め付けず聞けば良いのに。
「あーあ、助けて損したな!」
「それは流石に酷くないですか!?」
「嘘だ!」
ゼクトさんが小声でボソボソ唱えてる。
言葉に耳を傾けると、勘違いに嵌ってしまったのは食事処で僕に大商人の娘か聞いた時だという。
その時は否定したはずだ、そんな訳が無いと。
僕は商人の子でも、ましてや娘でも無く、その両方を間違えているのだから。
「そもそも名前覚えてましたか? 常結 真里ですよ。完全に男の名前でしょうが!」
「マサトなんて名前自体聞かねぇんだよ!」
逆に怒られた。
やっぱり違う国だと馴染みが無いのかな。それとも……。
認めたく無いけど、やっぱり違う世界と認識した方が良いのか。
聖アディア連国だっけ。
ドッキリなんて概念に囚われていたから、設定された国の名前だと聞き流していた。
よく思い返してみると連合国なら分かるけど、連国なんて国家の存在を僕は知らない。
「あの、部隊長さん。」
ゼクトさんは一旦、意識の彼方に置いといて話が通じそうな人、ハウゼンさんに色々と聞いてみよう。
どこからか、無視するなって抗議が有るけど全然聞こえないね。
「ど、どうした、マサト……さん、君?」
「僕は君ですよ? それは良いとして、ここってどこなんでしょう。」
未だに理解し切ってなさそうなハウゼンさんに強めの訂正を入れて話を聞いていく。
まずはゼクトさんから聞いた話とハウゼンさんの話を擦り合わせだ。
別の人物から情報を得ればそれは真実と裏付ける事が出来るだろう。
他にも知らない情報を教えてくれるかも知れないし。
詳しく聞けば聞く程、信じたくない結果が見えてくる。
ここは僕がいた世界じゃないと嫌々ながら確信した。
物理法則なんて完全に無視した魔法という現象が、目の前で起こっている時点で明らかなんだけどね。
科学文明は殆ど発達しておらず、中世ヨーロッパの雰囲気が漂う、このフレイメルトの街でさえ先進的な街並みなのだそうだ。
「キカイってなんだ? 空を飛ぶ羽根が付いた馬車に地面の下を走る鉄の蛇? 何の事かさっぱり分からん。」
飛行機や地下鉄は無いみたいだけど、蒸気機関車はどこかの国に存在しているらしい。
ハウゼンさん達が知らないだけで、もしかしたら存在はするのかも知れない。
他にも沢山聞きたい事があったけど、ハウゼンさんに制されて今度は僕が問いかけられた。
「マサト君……。君の言っている事は我々の常識とかけ離れていて、どうも要領を得ない。あまり疑いたくは無いが、潔白を晴らす為に聴取をさせてくれ。」
そうですよね、意味の分からない事を聞かれて疑われない訳が無い。
深い所まで聞かれるのは嫌だな、と思いながら僕は頷く。
「済まないな、君が危険人物じゃない事を確かめる為だ。まず、どこの国の者か答えてくれないか?」
そう言われて僕は固まる。いきなり深い所来ちゃった。
……言い難いなぁ。別に話しても困らないけど……。
本当の事を言っても信じて貰えるのかな、異世界から来たなんて。
下手に取り繕う必要も無いし、素直に話そうか。
嘘をつくと逆に心象が悪くなりそうだ。
どんな反応をするか分からなくて少し怖いけど、それ以外に僕には答えようが無いからね。
僕は意を決して、生まれた国の名前を告げる。
「日本。って言っても分からないですよね?」
「ニホ? 悪いが俺は聞いた事が無いな。……持ち物の検査もしたいが良いか?」
ハウゼンさんは自身の懐の奥へ一瞬目を向けた後、同意を促す。
下手に出ているのはあくまでも敵対したくないという心の表れなのだろう。
彼の優しさが窺える。
僕は頷き、鞄をハウゼンさんの部下に手渡した。
見慣れないのかチャックの開け方が分からないみたいだった。
一度返してもらいチャックを開けて再度、部下さんに預けた。
「これは……。」
ハウゼンさんだけでなく、部下の人達まで沈黙する。
何か見られてまずいものでも入っていたかな。
確か財布と学生証、携帯と上着程度な筈だけど。
もしかしたらこの世界には無い物ばかりで困惑しているのかも知れない。
「沈黙の迷い子か……。」
ふと、何かを理解したようにそう呟くハウゼンさんは、鞄の中身を漁る事を止めた。
開いたままの鞄を私へとそっと返して、こちらを見る。
その顔には驚きに満ちており、どこか不安を煽らせる影を見せていた。
「マサト君。君はこの世界の人間じゃないな?」
警備部隊の小隊長は、核心を突く発言を緊張した面持ちで口にした。