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第二話: ここはどこですか?

 ひとしきり謝罪をして膨れ上がった恥ずかしさを抱えながら、真里は一件の食事処に入った。

 西部劇の酒場なんかでよく見る扉を開いて、店の中に入る。

 そんな店の中も作り込まれており、人の服装も中世時代に合った服装で色々と芸が細かいと感服していた。……のだが。


「へぇ! 人見知りの割には大胆な事するじゃん!」


 先程、声を掛けてきた彼は私の向かいに座って、自分の腿をバシバシと叩きながら大笑いしている。


(人見知りって言わなければ良かった! チクショウ!)


 恨めしそうに睨み付けるが、それさえも笑いの種にされている。

 それはそれはもう本っ当にとっても楽しそうだ。人の事を馬鹿にしている彼が憎らしいよ。


「も、もう笑わなくても良いでしょう!」


「あははは、流石に笑い過ぎたな、悪かった。俺はゼクトってんだ。笑いすぎた詫びだ、好きなのを頼んでくれ。」


 彼はゼクトさんと言うらしい。

 奢ってくれるとはなかなかに太っ腹である。本当に肥えている訳では無い。

 寧ろスタイルは良い方で赤みがかった金髪の中々なイケメンさんだ、なんか腹立つ。


「あ、常結 真里です。恥は充分かいたのでこの食事が終わったらドッキリ終わらせて欲しいんですが。」


 ……なんで良く分からないって顔するのさ。なるべく尺稼いでもう1つ引っ掛けようって魂胆?


「ドッキリが何を指すのかよく分からないけど、見た事ない格好でおろおろしてたから、つい声をかけちまった。」


 ドッキリが分からない?

 何も聞かされてないエキストラさんだったのかな?

 でも、何食わぬ顔で流暢な日本語を話しているから、何だか裏がありそうだ。

 何より初対面だから警戒しておこう。


「で? なんでまたあんな傍迷惑な場所で立ち尽くしてたんだ?人見知りの、っふふ……割には目立つ格好で。」


 笑いやがった、ギルティ。

 ここでツッコミを入れても話が進まなくなるので止めておく。

 高校を卒業して18歳なのだ、大人だからね!


「何であんな所に居たか、こっちが聞きたいですよ。せっかく学校が終わって羽を伸ばせると思ったのに。何なんですかここは。」


「……あんた学校なんて行ってんのか。通りで高くて珍しそうな服着てる訳だ。顔立ちも良いが、見た事ないから遠い国の大商人の娘って所か?」


 大商人の娘なんかじゃありません。

 一般家庭生まれです。

 今日の服だって多少無理して買ったけど、買おうと思えば誰でも買える庶民派なブランドだし。

 ……確かにこんな中世の服装の中に入れば浮くに決まってるけどね。

 この企画の衣装さん凄いな。

 剣やら弓なんかを携えてるのはやり過ぎだと思うけどね。


「そんな訳ないじゃないですか、それよりもここは何です?」


「ん、飯屋だぞ。見て分からないのか?」


「じゃなくてここはどこって聞いてるんです!」


 流石に戯けるにも程がある。ゼクトさんは軽く驚いている。

 こっちは気が付いたら知らない場所に連れて来られているのだ。

 少しは怒っても良いだろう。


「こ、ここは聖アディア連国のフレイメルトって街だ。お前、本当に何も分からないのか?箱入りにも程が有るだろ。」


「そこまで調弄するんですね、分かりました。世界観を設定してるプロデュースさんに拍手です。」


「はぁ?」


 さて、ちゃんと説明して貰えない様だし、素っ頓狂な声を出してる人は放置だ。

 お言葉に甘えてこのお店で一番高いメニューを注文させて貰うとしよう。

 どうせ撮影セットの一部で本物のお店じゃないんだから問題ないでしょう。


 ゼクトさんは皮袋型の財布を覗いて焦っていたけどそんな事は知ったこっちゃない。

 精々演技が上手だな、で終わる位だ。


「あーあ、今日の稼ぎがパァだわ。人を馬鹿にするもんじゃないな。」


「もうそういう演技は良いです。バレてるんですから。」


「演技ってなんだよ、さっきからよく分かんない事ばかり言って。」


(ちょっと顔が険しくなった。やっぱり図星だ。)


 ゼクトさんは少しだけ焦った顔をしたけどもう遅い。

 しっかりと目撃してしまったのだ。

 ゼクトさんの背後にある店の入口で数人の男性がこちらを見ながら相談していたのが見えた。


「ちょっと便所行ってくるから待ってろ、すぐ戻るから。」


そう言ってゼクトさんはそそくさと席を後にした。


(しめた!)


 恐らく自分の行動が目に余るから企画側にでも相談しに行ったのだろう。

 待てと言われて誰が待つもんですか。


 テレビの撮影ならカメラマンが居るだろうから探せば良い。

 人目に付いたり入られて困るような場所。例えば撮影の拠点なんかがあれば、その前で演出者に扮した関係者が声を掛けてくれるだろう。

 会ったらそいつらに文句を言ってこの茶番を終わらせれば良いだけだ。


 方針だけを手早く決めて、さっさとこの店を抜け出した。


(なるべく人目が付かない場所……。路地裏かな。)


 真里は店を出てすぐに少し細い道を見つけると、居るはずの無い撮影者達を探すべく、細く暗い路地へと進み捜索を開始した。


 ーー背後を付け狙う四つの影に知らぬままに。

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