第一話: どうしてこうなった?
どうも初めまして。
担ぎ上げられた神輿。元い、吊るし上げられた兎です。
正式名称、常結 真里と申します。
何故か私は今、一国の王としてこの[死刑台]に立ってます。
「数々の策謀を企て! 数多の民を危険に晒したのだ! 何人も許さぬこの罪は、神さえもお救いにはならないだろう! ならばすべき事はただ一つ、この者に死の断罪を!」
馬鹿でかい声で呼び掛ける彼は、やたらめったら活き活きと熱弁している。
そんな急き立てられる演説を受け、この広場に集まる民衆もヒートアップして行く。
この男が声をかける度に、何万倍もの怒号が響き渡る。
そんな中でただ一人、顔面蒼白になりながらプルプルと震えて佇んでいるのが私です。
……何でこうなったんですかね?
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高校の卒業式が終わりました。後はゆったりと歩いて帰るだけ。
卒業式と言えど定時校だったから大抵の人はラフな格好で、自分もそれは例外ではなかった。
まぁ、多少は見栄えよくカジュアルなスタイルだったけどね。
仲の良い友達なんて居なかったし、卒業打ち上げなんて話もあったけど、予定あるからと辞退して。
……本当はそういう空気が苦手だからなんだけどね、声掛けられた時は心臓止まるかと思ったけどね!
両親は海外出張で滅多に顔出さないし、卒業式如きでわざわざ地球の裏側から飛んで来ることも無い。
家に帰っても誰も居ない。卒業後の進路は就職だけど、在宅の仕事な上、不定期だから次の仕事の依頼まで人に会う機会も無い。
うん、正にコミュ障促進日程だ。
学校が終わった開放感に包まれて、今日の夕食は何にしようか考える。
……卒業したからと言って、豪勢にする必要は無いかな。どうせ一人だし。
桜並木を歩きつつ、そんな物思いに一喜一憂する。すると突然、強い風が吹き荒んだ。
「うわっ!?」
その風は桜の花弁を全て巻き上げ、桃色の波が視界を覆っていく。
余りに勢いが強くて目を閉じ小さな悲鳴を上げさせた。
驚いて声が出たけどちょっと恥ずかしかった。誰も見てなければ良いんだけど……。
風の勢いが次第に弱まり、身体を撫でる桜吹雪が少なくなった。
恐る恐る目を開けていく。
風の轟音が遠のくと同時に、街の喧騒が蘇ってきた。
……けれど、何か違和感がある。
目に映る街は、日本では当たり前な冷たいコンクリートが埋め尽くす、現代的な街並みでは無かった。
耳に入る喧しい音は現代社会で当然の、無機質な車の唸るエンジン音でも無く。
そこには木材を枠組みとして石やレンガで作られた街並みがあった。
人々の声が盛んに行き交い、荷馬車が人の間を縫うように進んで行く。
正に中世のヨーロッパと言われても疑わない物がそこにあった。
(……っへ!?)
頭の中にはハテナマークいっぱい。ナニココ状態。
キャッチコピーであったよね、トンネルを抜けると所では無く、目を開けるとそこは別の世界でした。それを地で行くのだから理解が全然追いつかない。
(外国人さんしか居ないし、チラホラ剣持ってる人いるしこれって夢? いやいや、あそこにある出店から凄く良い匂いするから有り得ないかな……。それよりもここ何処?)
グルグルと同じ思考が繰り返される。
真里が所謂ゲーム脳であれば答えは直ぐに出たのだろう。
だが災難な事に、混乱した脳内では何を思ってかテレビ番組のドッキリと思い始めていた。
(ドッキリだとしたらどうやったのかな? 凄いトリックだね、どうやってここに運んできたのかな。幾らお金を注ぎ込めばこんなセット組めるんだろ。あの突風も演出の一部? ドッキリだって分かったらちょっと余裕が出てきた。面白そうだから少し散策してもいいよね。)
そんな見当違いの感想を抱きながら、見知らぬ街の石畳を歩いていく。
「小道具作り込まれてるなぁ。全部本物みたい。」
思わず口から出た言葉に自分で少し焦った。
しかし、こんな喧騒の中では自分の発した小声程度は掻き消えるのが分かると、気を取り直して散策を再開した。のだが……。
(な、なんかジロジロ見られてる! ドッキリって理解したのがバレちゃった?)
少し前から真里はあちこちから怪しげな視線を向けられていたのだ。
心に多少の余裕が出来て気付きはしたが、視線の理由は違っていた。
ある者は見た事も無い風貌に見蕩れて。
ある者は不慣れな様子に微笑ましくて。
そして、ある者は絶好のカモだと確信して。
(ななな、なんでそんなに見るの!?)
半分恐慌状態になっている真里はその場で立ち止まった。
青ざめる真里の背後に人影が浮かぶ。ゆっくりと近づく人影は真里の肩に手を置いた。
その思ってもみない衝撃で、真里は心臓を止めかけた。
「っほぁ!?」
「おいおい、落ち着けって何でそんなにビクついてんだよ。」
驚いて肩に置かれた手を払いながら後ろを振り向くと、右手をヒラヒラと振るう男性が立っていた。
「驚かせて悪かったよ。でも、先ずはそこを避けた方が良いぜ?」
言われて周りを見渡すと、自分のせいで馬車が渋滞を起こしてると分かった。
その場をすぐに退いて物凄い速度のお辞儀を披露してしまった。赤っ恥である。
「すみません、すみません……!」
暫く間、真里は羞恥心を抱えながら謝り続けるのだった。
(……あぁ、やっちゃった!)