87話・メイーナとグラス
「じ、じゃあ、何を仕込んだというのですか!」
メイーナの慌てふためく態度を見て、洗脳と決めつけていた確信が脆くも
ガラッと崩れさると、グラスがその動揺を隠しきれずにあたふたしている。
「はあ...それを言うとでも思ったの...?あなたさ...私の敵って立場を
理解している?洗脳じゃないって教えただけでも、特別サービスなのに...」
「ぐぬぬ...た、確かに、敵に手の内を教えるわけないか......」
深い嘆息を吐いたメイーナが、ジト目で正論をかますと、グラスが困惑な
表情をして苦笑を浮かべ納得する。
「大体さ、異常を口にするなら、あんたが依存している魔王さんと魔族の方が、
よっほど異常で非常識だと思うんですけど?」
「あれは異常じゃなく性格なの!最初から持っている人格的なものなの!
だから、あの子達の行動は、別に異常でも非常識でもないんですっ!」
グラスの言っている事は正論なのだろうが、メイーナにはその言葉は、
支離滅裂にしか聞こえない。
「はあ...それって、あなたのテリトリー...つまりは管轄内のお話でしょう...
それをこっちの人族に持ってこられても困るんですけど...!」
「ううっ!そ、それは......」
グラスの自分勝手な発言に、メイーナは思わず嘆息を吐く。
「第一、グラス...。異常を提にするなら、あなたが魔王に手を貸す事が一番、
異常なんですからね...!あの魔王は、私達女神の管轄外なモノなのだから...」
「うう...」
メイーナがギロ目で睨みつけ、グラスと魔王の事に対しクドクドと文句を述べると、
次第にグラスの両の瞳がウルウルとしてくる。
「それを棚に上げて、然もありなんの様に自分だけ文句を言ってくるなんて...
図々しいにも程があるわ...それにあなたは―――」
「ち、畜生ぉぉぉっ!覚えていろよ~!うぁぁぁ――――んっ!!」
グラスがメイーナに子どもじみた捨てセリフを吐くと、脱兎の如く
メイーナの研究施設から出ていくのあった。
「それ...女神の言う捨て台詞じゃないわよ......」
その憐れな姿に、メイーナは思わずニガ笑いがこぼれる。
しかしグラスの奴め、まさか『仕込み』に気づいてくるなんて...くさっても
女神ですか...くさってもですけど...うふふ♪
ま...仕込みと言っても、あなたがそこまで騒ぐ程、大袈裟なモノでもないん
ですけどね...
あの時、何度もシュンにこの世界の危険性を問うて聞かせたけど、やっぱり
心配になってしまい、装備アクセサリーの1つに『ある学習アイテム』を
仕込んだだけですし...。
グラスが負け惜しみを吐いて出ていったドアを見つめながら、仕込みをした
理由を、ふと思い出した。
「これくらい...いいよね。シュン、怒んないよね...ゆ、許してくれるよね?」
グラスのあまりにもしつこい執拗なせめに、急にメイーナがそれを心配になり、
オロオロと動揺する姿を見せてしまうのだった。




