86話・恐怖心
「しらばっくれても駄目です、あなたが贔屓しているあの子ですよ!」
「私の贔屓しているって...シュンの事を言っているかな?」
グラスの言葉にメイーナが少し動揺するものの、それを気づかせない様、
ポーカーフェイスで話を続ける。
「ええ、その子です、その子!で...改めて言いますが、そのシュンって子に
何か仕込みを入れたでしょう?」
「どうして、そう思うのですか?」
「そう思われても、しょうがないでしょう!だって、シュンっていう子の
あの怯えを見せぬ行動力...あれはハッキリ言って異常LVですよ!」
グラスが人差し指を再び、ビシッとメイーナに突きつけると、蒼井の異常性を
訴えてくる。
「異常LV...ですか?」
「ええ...いくら貴女に貰ったアイテムや装備があるからって、殺意丸出しの
魔族相手に怯えがなさ過ぎます!」
「それは私特製のアイテムを信じて使ってくれたからじゃないかな?」
メイーナは自信満々な顔で、グラスの言葉に反論する。
「とぼけないで!どんな人物にも、最初の一手...そこには躊躇する心...
つまり『恐怖心』があります...例え、どれだけ強い力や武器を持とうとも...。
しかしあのシュンって子には、それが殆ど見られなかった...!」
「ふむふむ、それで?」
「形あるモノ...特に命があるモノを壊した時...普通なら後悔と自責の念で
押しされるものなのに...それも殆ど見られなかった!」
グラスが真面目な表情で、蒼井がいかに恐怖心が無いかを逸る様な口調で
語ってくる。
「道徳心は出してたじゃない?そのせいでグランキュード砲を撃たれそうに
なった訳だし...」
「道徳心...確かに出してはいたけど、ですが...それをも越えるのよ、あの子の
恐怖心のなさは!あれはまるで......」
「...洗脳アイテムを仕込まれたようだったと...?」
グラスが言いたい確信をメイーナが先に口にする。
「......違うんですか?」
グラスがその確信を信じた表情で、ジィィーッとメイーナを見てくる。
「仕込みは正解。でも、洗脳の方は不正解」
メイーナが慌てる事もなく、冷静沈着な言葉でグラスへ答えを
口に出してくる。
「う、嘘おっしゃい!そんなワケがあるはずないじゃない!」
自分の思っていた答えと違う言葉をメイーナに返され、グラスは動揺を
見せつつも、反論の言葉を投げた。
「そんな事を言われても...やっていないものは、やっていないしなぁ...」
「それを信じろと......?」
「信じなくてもいいわよ。別にあなたに疑われようと、私は痛くも痒くも
ないし...」
「なっ!?」
「でも洗脳なんかしてないのは本当ですよ。何故なら、シュンを洗脳して、
もしそれがバレでもしたら......絶対に嫌われるじゃないですかぁぁぁっ!!」
そんなの絶ぇぇ―――――っ対に、嫌ですっ!!堪えられませんっっ!!!
メイーナが蒼井に嫌われる事を想像してしまうと、この世の終わりの様な
顔をして、その身をブルガクとさせて叫声を荒らげる。




