84話・ナナーシュの懸念
メイーナはミミの部屋から出て、自分の神殿へ帰ろうと天空ロードを
歩いていた。
「う~ん...そろそろ私も、自分専用のテレパス通神器を作るべきかな?」
メイーナは今まで人族との通信になんて、まったく、興味がなかったので、
自分の部屋にテレパス通神器がないのだ。
「でも、シュンのアイテム作りの為に素材をフルに使用したから、殆ど素材が
ゼロに近いんだよね...」
それにテレパス通神器も作りたいですが...まず、シュンへ渡した私のアイテムの
パワーアップの課題の方が先ですし...。
「とにかく!魔族如きにしてられたというこの屈辱感を払い、絶対に
汚名を返上してやるんだからっ!」
メイーナが決意を露にすると、その瞳はメラメラと燃えている。
「ちょっと、そこうるさいわ......って、あら、メイーナじゃない?」
うるさく声を上げるメイーナに、ベンチへ座っていた人物が文句を
言おうとして立ち上がると、それが見知った人物...メイーナだと気づく。
「あ...ナナーシュ?どうしたの、そんな所でボーッとして?」
「ボーッとしてないわよ!本を読んでいたんですよ、本を!」
ナナーシュが持っていた本を、メイーナの目線へ映る様に見せてきた。
「へえ...ナナーシュが本を...ね?それで、何の本なの...?エロ本?」
「んなワケあるかぁ!歴史の本だよ、エルフ族の歴史のっ!」
くだらない発言をしてくるメイーナに、ナナーシュが目の色を変えて
本のタイトルを指でトントンと差して見せてくる。
「なんだ、チェ、つまらん...」
「つまらんって...」
軽く舌打ちをするメイーナに、ナナーシュが呆れた顔をして見ている。
「でも、あなたが自分とこの歴史の本を見ているなんて、一体どうしたの?
あなたも私とまでいかなくも、自分とこの管轄に不干渉だったのに...?」
「ん...あいつのせいだよ、あいつの...」
「あいつ?」
「魔王の事だよ、魔王のっ!たく...あいつ、私の管轄エリアにも侵略を
開始しやがって、そのおかげでこちとら、てんてこ舞い状態だよ...」
ナナーシュは魔王の事を思い出し、膨れっ面で激おこしている。
「そっか...それはお気の毒さま...。あいつ、かなりしつこいから
頑張ってね♪」
「おいおい、そんな他人事みたいに......」
「え...他人事ですけど?」
感情のこもっていないメイーナのエールにナナーシュが呆れていると、
更に呆れた言葉をメイーナが返してきた。
「何をのたまう事をぬかしているのよ!魔王の被害は、あなたの所が
1番、被害を被っているでしょうが!」
「いや、別に人族がどうなろうと、知った事じゃないし♪」
「ハァ...流石の私も、本当...人族には同情しちゃうわ...」
メイーナのまるで興味なしという態度に、自分の管轄...エルフ族に
似た様な態度をしていたナナーシュも、流石に呆れて同情の言葉を口にする。
「いいんですよ。だって、あいつら...少し私に依存し過ぎなんだよ...
何かあれば、すぐ私に祈ってくるし...」
「め、女神が信仰をうざがるとは......」
「まあ、私はテレパス通神器を持っていないから、お告げなんてできないし、
あったとしても、マトモに聞く気もないんですけどね♪」
「こいつ...マジで酷いな...!?」
メイーナの態度を見て、ナナーシュはやっぱり、こいつは女神じゃなく、
他のみんなが言う邪神だと、改めて認識するのであった。