8話・母親LV
「それじゃメイーナ。今度こそ転移したいから、準備の方をお願い
してもいいかい?」
「うう...その屈託のない笑顔。私と離れるのがそんなに嬉しいんだね、
シュンはっ!」
メイーナが僕に対し、膨れっ面の上目遣いでジッと見てくる。
「え、えっと...そ、そんな事ないぞ、うん。メイーナと話すのは
結構楽しかったし♪」
「......ホント?」
「ああ、ホント、ホントッ!」
うぐ...そ、それ以上はやめてぇええ!
でないと、年齢=恋人いない歴の俺はきっと勘違いしちゃって、
貴女に惚れしまうからぁぁああっ!
「べ、別にね。メイーナとの時間を蔑ろにとかじゃないんだ。
ただ、ギフトを否定してまで行きたかったファンタジー世界に
早く行ってみたいんだよっ!」
俺は冒険に憧れる心でいっぱいの、爽やかなキラキラ笑顔で
メイーナにそう語る。
「うう...もうそんな笑顔で熱く語られたら、何も言えないじゃんか。
しょうがない。私的にはシュンとまだまだいっぱい語り合いたかった
けど、シュンを送り出すのも私の役目だしねぇ......」
冒険したいという熱を語ってくる蒼井に、メイーナは諦めの入った
表情を浮かべ、そしてしぶしぶながらも転移の準備を始める。
「こっちの準備は整ったけど、そっちの準備はオッケーかな?」
「ああ、準備オッケーだ!いつでもどうぞ!」
「......よし!それじゃあ、転移を開始するよシュン!」
メイーナはそう言うと静かに深呼吸してから持っていた杖を掲げると、
閃光が部屋中へ広がって、光に包まれる。
「いい、シュン。転位したら直ぐどこかの町を探して、そこでギフトの
判定をするんだよ!」
「ああ、分かった!」
確かギフトの判定って、ギルドで判定してもらうんだったよな?
「それから、生水には気をつけるんだよ!致命的なダメージを
受けてしまう可能性があるからさ!」
「な、生水を飲んだだけで、致命的なダメージだとっ!?」
腹をこわすとはよく聞くけど、致命的なダメージを受けるのか
この世界の生水はっ!?
「それから、それから。知らない人についていっちゃ駄目だからね!
勿論、良い物をあげるって言われてもだよっ!」
ちょっと、メイーナさん!
忠告がだんだん母親LVになってきてますよ!?
「それから、それから、それから...」
「...って、メイーナ!その忠告、いつまで続けるおつもりなの!」
「え...あと、200ちょい...かな?」
「日が暮れるわぁぁあっ!」
「うう...こっちは心配で言ってあげているのにぃぃい......!でもまあ、
もしもシュンに何かあったら、さっき装備させた女神メイーナ特製が
火の粉を払ってくれるから、少しは安心か......」
「はは...これね......」
そう、さっきのアイテム紹介の時にもしも僕に何かあったらと、
メイーナに強引に装備させられたアクセサリーたちの事だ。
ちなみに取り外し不可らしい。
それって完全に呪いアイテムだよね!?
僕がその事でニガ笑いを浮かべていると、体が光を纏っていく。
「こ、この光はさっきのクラスメイト達と同じ光......」
...って事は、いよいよ召喚開始か。
「それじゃ、シュン!ホントに色々気をつけて冒険するんだよっ!」
「ああ!メイーナこそ、本当に色々とありがと―――」
手を振りながらニコリと笑顔を見せ、別れの挨拶をすると蒼井の姿が
メイーナの前から消えた。
「あ...行っちゃった......いってらっしゃい、シュン!」
メイーナは蒼井のいた場所をジッ見つめ、沈痛な表情でいつまでも
見ているのであった。