5話・召喚
「これで皆様にギフトを授けて終わりましたよね?まだだと言うお方が
おりましたら、手をお上げになって下さいねぇ」
メイーナは集まったクラスのみんなをキョロキョロと見渡し、まだ
ギフトを授けていない者がいないかをチェックしていく。
「......上がらないところを見ると、どうやら無事、皆様にギフトを
授けられたようですね♪」
しかしメイーナ様の猫被りは見事だな。
女同士なら猫被りに気づくとか聞くけど、うちのクラスの女子達は
誰もメイーナ様の猫被りに気づかないし。
「では間もなく、アーチで一番大きな国『ランスロッド』が皆様の
召喚を始めると思いますので、各々その準備に備えて下さいね!」
「うわ...いよいよかぁ!ねえ、蒼井君。今から行くランスロッド...だっけ?
そこって、一体どんな所なんだろうね?」
「う~んそうだね?世界で一番大きな国らしいから、きっと色んな人達や
珍しい物が沢山あるんじゃないかな!」
「そっか~、それは楽しみだな♪そうだ蒼井君!あっちに行ったらさ、
一緒に色んな場所を見て回らない!」
「え、俺なんかと一緒で本当にいいの?」
「も、勿論だよ!そういう蒼井君こそ、私と一緒に回るの嫌じゃない?」
「そんな事ないよ!嬉しいに決まってるじゃん!愛野さんとのお出かけを
嫌だって言う奴、いるわけないって!」
「ホント?はあ~良かった。じゃあ、約束だよ蒼井君!嘘ついたら
許さないんだからね!針千本なんだからねぇっ!」
愛野さんが僕にそう言うと、ピンッと伸ばした小指を横に小さく何度か
振った。
「はは...それは怖いな。これは頑張って約束を守らなきゃね♪」
「そういう事、だから......あ!体が光ってきた......!?」
光っているのは愛野さんだけじゃない、クラスのみんなにもこの光が
纏っていく。
「おお!いよいよかぁ!異世界アーチ。一体どんな世界なんだろうな!
考えただけでゾクゾクするぜっ!」
「ああ...そうだな。不謹慎かもしれんが、俺もドキドキを隠せないでいる!」
「わかるわ~!だって私達の様な普通人が、アーチの世界では英雄扱いされる
らしいんだから、これがワクワクしない方がおかしいってんだ!」
「ハア~獣耳娘...いるかな?いたらいいな~!もうワクテカが止まらない!」
奥村君に続き、光牙院君もワクワクを隠せないみたいだ。
それに井上...あいつ、男が言いそうなセリフを言ってるな。
はは...鈍山君。別の事でワクワクしてるな。
まあ、僕もその意見には同意だ!
あ...みんなの身体が更に輝きを増し出した。
「いよいよだね蒼井君。......って、あれ?蒼井君、何か身体が全然光って
いない様な?」
「......うん。だって僕、ギフトを受け取るのを拒否したからね」
「え...!?じゃあ、蒼井君はランスロッドには行かないって事...なの?」
「......うん」
だから、ごめんね...愛野さん。
さっきの約束...今はまだ果たせそうにない。
けど...いつか会えた時に、きっと......
「そ、そんな~!じゃ、じゃあ、私もギフトなんていらないっ!
いらないから蒼井君といっ―――」
愛野さんはその言葉を言い終わる前に、僕の前から姿を消した。
「うむうむ、どうやら無事にランスロッド国へ召喚されたようだねぇ♪」
メイーナ様が愛野さん達がさっきまでいた場所を見渡す。
「さて...今度はキミの番だけど......だがその前に、キミの名前を教えて
もらってもいいかな?」
「......へ?女神様が僕達を召喚したのに、何で名前を知らないんですか?」
「当たり前だろう?だって、私はただキミ達を召喚しただけだし。そもそも
さっきのクラスメイト連中の名前だって、誰一人として知らないからね!」
だ、誰一人も知らないって。
そこは女神様なんだからさ、知っておこうよ、メイーナ様。
しかもドヤ顔だし......。
女神様の見せる理不尽なドヤ顔に、僕はニガ笑いをこぼしてしまう。




