42話・斜め上な内容
「ふう...これでその娘から奴隷紋は消え、新たに私の紋章...女神紋が
刻まれたわ!」
「そっか...ありがとうメイーナ!さっきは嫌いとか言ってごめんなっ!」
「おおぅ...その屈託のない爽やかな笑顔...あの冒険者の娘がボヤいていたけど、
その笑顔...本当に卑怯だよね...」
蒼井に聞こえないくらいの、かぼそい声でメイーナがそう呟くと、頬を真っ赤に
染め上げる。
「で...どうだ、ココ...身体は痛くないか?」
「う、うん...ボクは大丈夫だよ!それよりお兄ちゃんの方こそ、さっきから
ボーッとしてるけど...も、もしかして、ボクが突進した時にどこか変な所を
ぶつけちゃったかなっ!?」
ココが蒼井の事を心配そうに見ており、それが自分のせいではないのかと、
気が気ではないようだ。
「あ...そっか、ココにはメイーナの声は聞こえていないんだっけ...?」
「め、メイーナ!メイーナって、まさかあの女神メイーナ様ですか!?」
「はい!その通り、女神メイーナですよ、泥棒ネコさん♪」
「はうっ!ボクの頭の中に女性の声が!」
自分の頭の中に突如聞こえてくる女性の声に、ココが目を丸して
驚いている。
「おいおい、その泥棒ネコって...」
「わっ!今度はお兄ちゃんの声が聞こえてきた!?」
今度は蒼井の声が聞こえてくる事にココが喫驚してしまう。
「お、お兄ちゃん!これって、一体どういう事なの?何でお兄ちゃんや
メイーナ様の声がボクの頭の中で聞こえちゃうの!?」
あわあわと取り乱す様に困惑したココが、今の状況の説明を求めている。
「う~ん、そうだな...何故僕達の声が聞こえるかと言われれば、ココ...
お前の奴隷紋を消して、そして新たにメイーナの紋章...女神紋に上書きを
したからだよ!」
取り乱すココに理解できる様、簡単ではあるが僕はわかりやすく状況の
説明をした。
「ぼ、ボクの奴隷紋を消した...!?嗚呼っ!本当だ!?奴隷紋が消えて、
なんか変な紋章に変わっている!」
蒼井にそう説明を受け、ココが慌て様に自分の奴隷紋がある場所を見て
みると、そこには見た事のない紋章が刻まれているのを確認する。
「変な紋章って...失礼しちゃうなぁ...!この完全無敵のビューティフルな
女神の紋章...女神紋を変なモノ呼ばわりとは...!」
「女神紋っ!?こ、これって、メイーナ様の紋章なんですかっ!?」
「ええ...そうですよ。そこのシュンに頼まれちゃいましてね...!」
「へ...何でお兄ちゃんの頼み事を、女神様が聞いちゃうんですか!?」
メイーナのその言葉にココは、まるで信じられないといった表情で目を丸くし、
喫驚してしまう。
「そ、そりゃ聞きますよ!だって、言う事を聞かないとシュンが嫌いになるって、
言うんだもんっ!」
「嫌いに...それだけの事で、女神様が言う事を聞いちゃうんだ...」
「それだけの事ってなんですかぁっ!私にとって、シュンから嫌われるのは
死活問題なんですよ、死活問題っ!!」
「はううっ!?すす、すいません、メイーナ様!こ、言葉が過ぎましたっ!?」
女神メイーナ様から食らう叱咤攻撃に、ココが慌てふためき、速攻で間を入れず
頭を垂れて謝った。
「全く...言葉には気をつけて下さいよ...。コホン、とまぁ...そう言う事だから、
これであなたは晴れて奴隷から解放されて、自由の身って事だよ!」
「じ、自由の身...ボクが...奴隷のボクが自由...にっ!?」
ココはその言葉が信じられないのか、表情をボーッとしている。
「だから、ココはもう命を捨ててまで、他人に従う事はしなくていいのさ!」
「はうっ!?」
蒼井はニコリとした笑顔でそう言うと、ココの頭をわしゃわしゃと撫で回す。
「さて...ココの事もこれで収集がついた所で、そろそろクエストに戻ると
しますか...」
「クエスト...?お兄ちゃんって、冒険者さんなんだ?」
「まあね。そんな訳で今はクエスト中だからさ、取り敢えずココは僕に
ついてきてよ。流石に君をこんな所に置いてはいけないしね...。
それで町に戻ったら、そこから身の振り方を考えるといいと思うよ!」
「それは大丈夫だよ、お兄ちゃん!ボク...身の振り方はもう決めてあるんだ!」
「へえ、早いな...もう決めたんだ。で...どんな身の振り方なんだい?
僕にできる事や手伝える事なら、何でもするから遠慮なく言ってねっ♪」
「本当に!じゃ、遠慮なく言うよ...!お兄ちゃん!ボクを...ボクを...」
「ボクをお兄ちゃんの奴隷にして下さいっ!」
ココの発した身の振り方は、蒼井の想像を越えたかなり斜め上な
内容だった...。




