40話・メイーナの怒り
「さて...そろそろ落ち着いたか?」
「ぐす...うん...あ...ご、ごめんなさい...服に鼻水がついちゃった...!?」
「いいって、いいって、気にするんな...!」
「はうっ!?」
服に鼻水をつけた事で顔を真っ青にし、オロオロとしてくるので、
僕は獣人の子どもの頭をわしゃわしゃと撫で回し、気持ちを
落ち着かせる。
「はうう...お兄ちゃんみたいな人がご主人様だったらなぁ...」
「ご主人様?君...あ、まだ君の名前を聞いてなかったっけ?」
「はう!命の恩人に名前も名乗らないなんて、とんだ失礼を!え...と、
ボクの名前は『ココ』って言います。あ、奴隷なので姓はありません...」
「え...君、奴隷なの?」
「は、はい...ダーツ商店会のマスターをしていらっしゃるダーツ様の奴隷を
しています...」
「ダーツ商店会...ねぇ...。それで重傷のココを置いてきぼりにして、
そのご主人様とやらはどこにいるんだ?」
「じ、実は......」
――――――――――
「な、なんだとぉぉ―――――っ!自分が助かりたいからって、ココを
魔族に投げつけて、そのまま逃げただとぉぉぉ―――――っ!!」
僕は子どもを盾にして逃げ出した人間がいる事に、目を丸くして驚いてしまう。
「で...でも、しょうがないんです...。ボクはダーツ様に買われた奴隷...
ボクの命の権限はダーツ様の物ですから...」
命の権限が自分にはないって...それはおかしいな...?だって、メイーナから
聞いた事と全然違うぞ...?
確か...奴隷にも意思権限があって、それを拒否した非合法な扱い、道徳心の
欠片もない事をするのも、させる事も禁止だったはずだが...。
これは恐らく、そのダーツとかいう小悪党と奴隷商人が結託してココに嘘を
教え込んだのだろうな...。
「なぁココ...その奴隷って言うのは、自分からはやめる事はできないのか?」
「それは無理です...。奴隷は奴隷紋と言うモノで縛られていて、女神メイーナ様の
名の元に契約されていますから、そう簡単には解除できないんです...」
自分の説明でココの表情がドンドン暗くなってシュンとする。
「メイーナ...だと!この奴隷紋の首謀者はあいつなのかぁぁっ!!」
僕がメイーナがこの奴隷紋の発端だと知るや否や、思わず怒りの叫声を
荒らげてしまう。
「ち、違うよ!それを作ったのは人間達で、私はいっさい関与してないよ!」
「あ!その声はメイーナなのか!?」
僕の怒りに慌てたのか、メイーナが突如、僕の心の中にあわあわしながら
否定の言葉を投げかける。
「で...今の話は本当なのかい?メイーナが関わっていないって言う話...」
「あ、当たり前じゃない!大体、何なの、そのクソみたいな縛り術に紋章、
私の美徳センスとは無縁の論外ですよ、ってな話だよ!」
奴隷紋に相当ご立腹なのか、怒り心頭な口調で自分のセンスとは全く違うと、
否定の言葉を述べてくる。
「そっか...でも良かった、メイーナがこんなヒドイ事に加担してなくて...。
本当にゴメンね、メイーナの事を疑ってしまってさ...」
「ホッ...!いいんですよ、気にしないで。私はシュンの誤解が解けただけで
なによりなんだからっ!」
メイーナは蒼井の謝罪の言葉を聞いて、取り敢えずの安堵に胸を撫で下ろす。
「でもヒドイ話だよ...ココみたいな子どもを騙す行為だけじゃ飽きたらず、
自分の盾にして、逃げだしちゃうなんて...!」
先程まで苦しそうに藻掻いていたココを思い出すと、僕の心はやりきれない
気持ちでいっぱいになり、悄然の表情になる。
「はわっ!?お、おのれ、そのダーツとかいうクソ人間ッ!わ、私のシュンに
こんな悲しい顔をさせやがって......絶対に許さんぞぉぉぉ―――――っ!!
このメイーナ直々の天罰を食らわせてくれるわぁぁぁぁ――――――っ!!」
「...って、あれ?ダーツとかいうクソ人間、もう死んじゃってるじゃん...?
ええぇいぃっ!一体、どこの誰が殺ったんだぁっ!このクソは私の手で
葬ってやりたかったのにぃぃぃぃ――――っ!!」
余程、無念だったのか、メイーナの声と一緒に地団駄をダンダンと踏む音が
僕の耳に聞こえてくるのであった...。




