39話・獣人の思い
「と、所でお兄ちゃんは...誰?あ...そうだ...ボク確か...あの魔族に刺されて...
あれ?あれれ?さ、刺された後が全然ない...!?」
獣人の娘が、既に消えている剣で刺された箇所をペタペタと確認する様に
手で触っている。
「ない...治ってる!刺されたキズがスッカリ治ってるよぉぉ―――っ!
...えっ!?こ、これは...っ!?」
「ど、どうした?どこか痛い所があるのか?」
喜びの表情から喫驚な表情に変わる獣人の娘を見た僕は、何か不手際が
あったのと、慌てて問いただしてみる。
「動く...産まれてから、今まで全く動かなかった右腕が動いてる!?
嗚呼!指もこんなに細かく動いてるようぅぅぅ――――っ!」
獣人の娘が動く右腕をぐるぐると回したり、指をグ―パーグーパーと
動かしては、狂喜乱舞の如く喜んでいる。
「うんうん、どうやらケガの方は完璧に治っているみたいだな!」
獣人の娘が驚いていたのが、不手際じゃなかった事にホッと安堵する。
「え...もしかして、このケガを治してくれたのって...お兄ちゃんなの?」
「あ、まぁ...一応そういう事になるのかな...?」
「うう...う...うわぁぁあぁぁんっ!お兄ちゃぁぁぁ―――――んっ!!」
「うぷっ!?」
突然、獣人の娘が大泣きし、僕のお腹へ目掛けて突進してくるかの様に、
ガバッと抱きついてきた。
「怖かったぁぁぁぁ!怖かったよぉぉぉ――――っ!ボク...ボク...
絶対にもう駄目だって...ここで...死んじゃうんだって...ぐす...だから...
祈ったんだ...ぐす...死にたくない...です...ボクは...まだ死ぬ訳には...って...
一生懸命...ぐす...祈ったんだ...」
「そっか...」
「でも...意識は消えていく...ばかり...で...うう...もう駄目なんだ...ここで
終わっちゃうんだって...そして...ぐす...とうとう...ボクの意識が...
消えようとした...その瞬間...誰かの声が聞こえてきて...気がつくと...
ボクは...生きてて...しかも...右腕が動く...動くんだよ...うう...ううう......」
「うわぁぁあぁぁぁ―――――んっ!!」
「そっか...それは良かったな...!」
獣人の娘は声を詰まらせながらも、怖さを脱ぎさりたいのか、自分の思いを
沢山...それは沢山と喋って、僕に語り聞かせてくる。
そして、僕はそれを静かに...ただ、静かに聞くのだった...。




