210話・リリ王女の懇願
「え!カトンの町に...ゆ、勇者を...ですか?」
「はい。それなので何かしらの情報を欲しいと思いまして、シュン様に
聞いてみた次第なのです!」
「なるほど...ガッコの討伐指令か...」
それなら、僕が無理に戦いをしなくても良かったのかな?
『いいえ、そんな事はありませんよ。だってあの夜、もし主様がガッコと
戦っていなかったら、確実に屋台市場は壊滅していましたし、その後の
カトンの町も、一体どうなっていた事やら...』
そっか...そうだよね...僕の行動は、間違いじゃなかったんだよね。
僕はナヒのお褒めの言葉を聞いて、自分のやった事を誇らしげに感じる。
「あの~それで、ガッコは今どんな感じなのでしょうか?」
「え!?」
ガ、ガッコがどんな感じかって...?
「それは...ですね...どう、なっているん...でしょうねぇ...」
うう~ん、ま、参ったなぁ...
ガッコのオッサンは、とっく昔にあの世へ旅立っていますよ!
なんて、言っちゃ不味いんだろうなぁ...
あいつ、くさっても貴族様なんだろうし......。
先程、ナヒと思考した貴族の厄介事を思い出すと、ガッコを討伐した
事実を口に出すのを躊躇ってしまう。
「お願いします、シュン様!そんな茶を濁さないで、本当の事を教えて
下さい!今、ガッコがどんな行動をしているのか、その手下達の動きとか...
そんな些細な情報だけでもいいですから!」
茶を濁して誤魔化そうとする蒼井に、バッと迫る勢いで近づいてきたリリが、
真剣な顔でガッコの情報を聞いてくる。
「わ、わかりました!教えます、教えますから!」
リリ王女様の勢いに負けた僕はしょうがなく、ガッコの事を口にする。
「えっと、ですね...その...ガッコの奴は......僕が......潰して......いました」
「え?声が小さくて聞こえません、シュン様?もう一度、お願いできますか??」
しかし、声が小さくて聞き取り難くかったのか、リリがハテナ顔をして
もう一度、発言してくれと懇願してくる。
「ですから!ガッコの奴は、僕が完封なまでに叩き潰して...な、亡きモノに
しちゃいましたっ!」
リリ王女様の懇願に、今度はちゃんと聞こえるよう、僕は大きな声を上げて
ガッコを討伐した事実を伝えた。
「ええぇぇっ!?ガ、ガッコを...殺っちゃったんですかぁぁぁっ!?」
リリにとって、まさかの出来事だったのか、目を大きく見開いて驚きを
隠せないでいた。
「ああするしか、他になかったんですよ!あの暴走をとめるには、最早ガッコを
討伐して亡きモノにするしか方法がっ!」
「へ?ぼ、暴走...とめる??」
「はい......」
ガッコの暴走という言葉を聞いて神妙な面持ちになるリリ王女様に対し、
僕はあの夜、一体なにが起こったのか...その全ての出来事を詳しく、
リリ王女様に説明する......
「ええぇぇ―――っ!?ガ、ガッコの奴が、魔族の魔導兵器を使って屋台市場を
中心にカトンの町を破壊しようとしていたですってぇぇっ!?」
ガッコの行った傍若無人な暴走行為に、リリが先程より更に目を見開き、驚いて
しまうのだった。