209話・討伐指令
「昨日の夜に聞いた...ねぇ?」
蒼井の懸命な説明を聞いて、アミューが首を傾げて思考する。
あっ!?
「はいはい、今、思い出したよ!確か...ガッコの暴走を裏で極秘に
操っていたとかいう、竜人族の女達の事だよね!」
アミューがやっと竜人族の事を思い出したのか、相づちを打つ様に
手のひらをポンと叩く。
「ガッコ!?そのガッコと言うのは、カトンの町を中心に活躍している
商人貴族で、商業グループのトップ10にも入っている、あのガッコの事ですか?」
蒼井がガッコの名を出した途端、リリの表情が険しさの混じった真剣な面持ちへと
変わる。
「ト、トップ10ッ!?ガ、ガッコのおっさんって、そんな偉い貴族だったんだ...」
『はい。アンジュさん達との会話の中で、ガッコの素性を語っていた記憶が
確かにありますので!』
蒼井の言葉を聞いて、ナヒがガッコの事に対し、肯定の言葉を述べてくる。
「も、もしかしてリリ王女様、あのガッコのオッサンと知り合いか、何か
なんですか?」
だとしたら、ヤベェな...
王女様の知り合いを亡きモノにした......これだけで、厄介な展開だぞ!?
「いいえ。あんな奴とは、知り合いでもなんでもございません!」
リリの表情が見た目でもわかるくらいのイラッとした表情へ変わると、
思いっきり、蒼井の言葉を否定する。
「そ、そうなんですか...」
「当然です!あの男...ガッコとは単に面識があるというだけですから!
本当、あんなクソ最低な男と知り合いと思われるだなんて...不愉快
極まりないですっ!」
リリの表情がさっきより更に苛立ちへ変わっていくと、本音の声が口から
だだ洩れてしまう。
「ハッ!?す、すいません、シュン様!あの男の嫌味で横着ぶりを
思い出してしまい、ついつい、怒りの感情が露になってしまいました!」
我に返ったリリが、態度の悪い言葉を吐いてしまったと、反省の色を見せてくる。
「気にしないで下さい、リリ王女様。僕もハッキリ言って、あのオッサンには
えらい目にあったから、その気持ちが痛いほどよくわかりますから...たはは」
僕はあのオッサンのサイコぶりを思い出すと、渇いたニガ笑いが浮かんでくる。
「えらい目に...ですか?それは一体どのような事ですか?」
「はう!ど、どのようなっ!?えっと、それは...ですね...」
うう~ん。あの夜の出来事を、リリ王女様に伝えてもいいのか...?
あの男、腐っても偉い貴族みたいだし...あいつを僕が亡きモノにしたと
リリ王女様が知ったら、面倒くさい事にならないだろうか...。
『そうですね...。特にリリ王女様はその貴族の上にいる立場の人ですし...
厄介で面倒な事になる可能性は充分に否めませんね...』
だよなぁ...。これは黙りでいった方がいいのかな?
そんな思考のやり取りをナヒと二人でしていると、リリ王女様が......
「実は私があの男の事を知りたかったのは、その商人貴族ガッコに対し、
我がランスロッドから、討伐指令が出ていまして...数日後には勇者様が
カトンの町へと赴く予定になっているんですよ!」
...と、真面目な表情で、ガッコを討伐する指令がランスロッドから下った事を
口にするのだった。