189話・イアナのお礼、再び...
「はは...まぁ、そんなお礼も兼ねて、もうちょっと宿屋代を安くして
やりたいんだけど、こっちも生活ができなくなっちゃうんで...
本当すまないねぇ、少年...」
「いいんですよ、イアナさん。その気持ちだけで十分ですから!」
申し訳なさそうにしているイアナさんに対し、感謝だけで大丈夫だと返す。
「しかしなぁ...おお、そうだ!宿代を安くする代わりと言っちゃなんだけど...
これをお礼として受け取って...♪」
「ほえぇ...っ!?」
イアナが何か閃いた顔をした瞬間、僕の顔をガバッと掴んでそのまま自分の
顔へと近づける。
「はう!?」
「なう!?」
「はわわ!?」
そして近づけた蒼井の顔...唇を、自分の唇と重ねようとしたその瞬間...
「「「させるかぁぁぁぁ―――っ!!」」」
アミュー、ルビ、そしてココの三人が叫声を荒らげながら、蒼井と
イアナを強引に引き剥がす!
「あらら...ただ、お礼でチュッてするだけなんだから、そこまでムキに
ならなくてもいいのに...」
「そんなキス...お礼になんか、全くなってません!そうだよね、シュン!」
お礼のキスくらいで大袈裟なというイアナをよそに、アミューが
激昂した表情で、蒼井の事をギロッと睨んでくる。
「え...!?い、いや...お礼になるけ――」
「いいえ、お礼になりません。ですよね...シュン様?」
アミューに続いて、ルビも笑っているのに笑って見えない顔で
蒼井の事をジィィーッと睨む様に見てくる。
「はは...そ、そうですね。で、でも~少しはお礼に...なるか......」
「ならないよね♪少しもお礼になんてなりませんよね、お兄ちゃん♪」
いつもはキラキラした瞳を見せてくるココだが、今見せる瞳は全く
キラキラしていなく、そんな瞳でもう一度蒼井に再確認をしてくる。
「あ...は、はい!三人の言う通りです!キスなんて、ちっともお礼に
なんかなりませんですっ!」
アミュー、ルビさん、そしてココの物凄い威圧感に負けた僕は、三人の
主張を完全に肯定する。
「もう...また、お姉ちゃんは空気を読めない事をして...みんな、本当に
ゴメンね!」
自分の姉が余計な騒ぎをさせてしまった事に、キッシュが申し訳ないと
頭を何度も下げてくる。
「ほら、お姉ちゃんもみんなに謝って!」
「ええ...だって、少年は喜んで――」
「お・ね・え・ちゃん・っ!」
「はい...すいません...」
自分は悪くないと駄々をこねるイアナだったが、キッシュのジト目に負けて
渋々頭を下げて謝罪の言葉を口にする。
そんな騒ぎから数分後......。
「それじゃ、イアナさん、キッシュちゃん。改めて僕達はここで失礼させて
もらいますね!」
「ああ...元気でな、少年!旅中に怪我なんてするんじゃないぞ♪」
「お兄ちゃん達の旅の安全...私とお姉ちゃんで祈願しておきますね!」
蒼井はイアナとキッシュに別れのご挨拶を述べると、その場を離れ、
カトンの門へと向かうのだった。