117話・聞こえてませんよ?
「そんなのココの冗談に決まってるだろ!そ、そうだよね、ココ?」
ココのチュウ発言に動揺した僕は、慌てふためいた口調をこぼし、
それが冗談なのか、本心なのかを確認する。
「うう...た、確かにそんな話はしてないけど、お兄ちゃんにチュウッて
してあげたいのは本当だよ!だって、兄ちゃん...ここへ帰ってくる時にさ、
お姉さんのご褒美のチュウ~♪お姉さんのご褒美のチュウ~♪...て、
連呼しながら帰ってくるんだもん...」
「はうっ!?」
「だから...それより早く、ボクがお兄ちゃんに御褒美のチュウをして
あげたかったんだ......」
ココが呟く様にそう述べると、顔も耳も尻尾も下に向いてしゅんっとする。
「お姉さんのご褒美のチュウを連呼ねぇ...。それが本当だったら、マジで
お仕置きだけどさ...」
えぇぇ!?お、お仕置きっ!?
「でもシュンの奴...そんな事、口ずさんでいなかったよね...?」
アミューが蒼井の帰還する時の様子を、首を傾げて懸命に思い出して
みるが、ココの言う様な記憶が、全く浮かんでこなかった。
「............」
ごめんなさい、アミューさん...
確かに僕...何度も何度も繰り返し、口ずさんでいました...
お姉さんのご褒美のチュウって......
でも、それは心の中でだよ......?
「ね、ねぇ...ココさん...ちょいとお伺いしますが、いいですか?」
僕はその真相を確かめる為、ココの肩を小さくトントンと叩く。
「うん?何ですか、お兄ちゃん?」
ニコッとした表情で返事を返すココが、上目遣いで蒼井の顔を
ジッと見てくる。
こ、この笑顔...これはやっぱり......
「ココさん...あなた、僕の心の声......聞えていますよね?」
「ううん...ちっとも、聞こえていませんよ?」
蒼井の質問に対しココはその表情を全く変えず、首を左右に何度か
小さく振って、それを否定してくる。
「ほ、本当に...僕の声が聞こえてないの...?」
「はい!ぜんぜん、聞こえてませんよ?」
蒼井はもう一度ココへさっきと同じ質問を投げるが、それでも全く
変わらない笑顔を返し、蒼井の言葉を再び否定する。
おっかしいな...本当に聞えていないのかな...?
「はい、本当にお兄ちゃんの声は聞こえてきませんよ?」
「そっか...聞こえ―――」
...て、ココさん!?
「今、僕の心の声に返答したよねっ!?」
「え...?何の事ですか、お兄ちゃん♪」
明らかに心の声に反応したにも関わらず、少しもココは微動だにせず、
ニコニコした笑顔を返してくるだけだった。
「ん...どうしたんですか、みなさん?そんな所に集まって?」
ココに真相を聞き出そうと蒼井が躍起になっていた時、アンジュと
クエストの後処理の話しをしていたルビが、ハテナ顔をしながら
そこへ歩いて近づいてくる。




