104話・ザ・変態
「あ、あの...ルビさん、あのじいさんは、一体誰なんですか?」
困惑しているルビさんに、僕は恐る恐るとあのじいさんの素性を
聞いてみる。
「首斬りファング...今から30年前に起きた『異族戦争』の時に
活躍した伝説の暗殺者で、人族の勝利に貢献したひとりと
言われている人物...それがあの男...」
「首斬りファング...なんですね?」
僕の問いへルビさんが静かに、首を縦に小さく振る。
「でもそんな英雄が、何であんな連中と結託してここを襲っているの?」
「それはですね、お嬢さん。全ては私の主、ガッコ様の為にですよ!
嗚呼!ガッコ様~!~ガッコ様ぁぁっ!」
アミューの意見を聞いていたファングが、自分の胸の内の思いを
恍惚な表情で語っていく。
「うえ~!あのじいさん、なんちゅう顔をして、モノを語っているのよ...」
蒸気が見えそうなくらい、頬が紅葉の様に赤く染まっているファングに、
アミューは思わず、嗚咽が出そうになる。
「3人とも気をつけて下さい、あの人は厄介ですよ...。何せ、善悪に関係なく
自分の欲望のままに動く人ですから...」
「だ、だろうね...」
だって今の恍惚な表情...まさにそんな感じだったもん...
本当...いかにも『ザ・変態』って顔で興奮してるよな、あのじいさん...。
それにしても首斬りという二つ名の英雄か...。
うん...相手にしたくねぇぇ――――っ!!
「ど、どうしたの、シュン?そんな露骨に嫌そうな顔をして?
やっぱり、あの変態じいさんの事でかな?」
「はは...正解!」
僕の心を見透かした様に突いてくるアミューに、ニガ笑いをこぼし
乾いた声で答える。
「だよね~。あんな変態な顔で興奮しているじいさんとなんか、
戦いたくないよね...。しかも首斬りって......はは」
蒼井の乾いた笑いに、アミューも同じく乾いたニガ笑いを返す。
はあ、全くだ...変態で暗殺者とか、絶対に関わりたくない奴、
ベスト5だよ......。
しかし、依頼を受けたからには......
「やらなきゃいけないしな...」
それにこの戦いの勝利の向こうには、お姉さんとの口と口でチュウッが
かかっているんだ!
うっし!気合を入れて、頑張るぞぉぉっ!
「こほん...じゃ取り敢えず、あのじいさんは僕が相手をするから、
アミュー達はあっちの方で屋台のおっちゃんと戦っているチンピラ達を
どうにかしてよ!」
気合いを注入した僕は、咳払いを軽くして気持ちを切り替えると、
アミュー達にチンピラの相手を頼む。
「うん、わかった。あいつらの相手をだね!行こう、ルビさん、
ココちゃん!」
蒼井の頼みにアミューが返事を返すと、チンピラ達と睨み合いを
続けている屋台の主達の場所へ足を向ける。