認識の話。
今回も平依少年について、です。ね。彼が書いていて愛らしく見えてきました……←
ある日いつものようにのんびり過ごしていた雨宮は、正面で同じようにのんびり過ごしてた竹内に本から顔を上げる事無く言った。
「竹内君。表の愛らしいお客様方を四人ほどご案内して差し上げて」
「はぁ? 家主のあんたが行けよ」
「今更ではないかね?」
言われ竹内は渋々腰を上げた。そもそも雨宮が、どこからともなく集めて来る世界各国の新聞を眺めていただけなので手持無沙汰には違いない。
悪態を吐きたい気持ちを抑えて、竹内は腰を上げた。両開きの扉のエントランスを抜けると、門の所に四人の小学生が立っていた。
一人はもう見慣れてしまった平依少年である。だが、残りの三人には見覚えが無かった。
竹内の姿を認めた平依少年は僅かに顔を輝かせては声をかける。
「こんにちは、竹内サン。雨宮サンはいらっしゃいますか?」
「いるも何も、あの人は今日も本の虫ですよ」
竹内は門の所まで行くと少し屈んで少年たちに視線を合わせる。雨宮と同じくらいの身長の彼らに対してこうしてしまうのは、半ば竹内の癖ともいえる。
「所で他の三人は見慣れない顔ですけれど……?」
首を僅かに傾げながら竹内が訊ねれば、平依は僅かに身体を後ろの三人に向けながら紹介した。
「実は本日ここに来たのは、彼らの事で少々ご相談したい事がありまして。マズ、問題の大本であるこちら、藤原夕樹サンと友華サン」
それぞれ赤いランドセルと黒いランドセルの二人がペコと頭を下げる。竹内はそれを見てから礼を返した。
平依はそれを見てから残り一人を手で差す。
「こちらは西藤彩音サンです」
「こんにちはっ」
「こんにちは」
元気溌剌と彼女が挨拶を返す。竹内はそれに挨拶で返す。一瞬平依が顔を蒼褪めさせたが、本人が何事も無かったかのように言う。
「ワタクシたち四人は、一応同じクラスで授業を受けている……いわば同級生と言う関係です」
「待って下さい」
話し始めた平依に対して、竹内は手を挙げては静止を求める。首を傾げる平依に、苦笑しながら身を正し、門を開ける竹内は言った。
「これ以上雨宮さんを待たせると、僕が怒られてしまいます。取り敢えずそれは雨宮さんに直接言った方が良いでしょう。四人ともお入り下さいな」
「……コドモにけーご使うなんて。変な人」
西藤がそう呟きながら四人の誰より先に入る。それを見て竹内は平依が苦手そうにしていた理由を察する。雨宮が嫌いなタイプだ。大丈夫かと近未来の自分の胃を心配するが、今更どうしようもない。
すまなそうな顔をする夕樹と友華の二人の後に、ややギクシャクとした動作で平依が屋敷の中に入った。
息を吐いては、竹内は門を閉める。背後から平依が慌てた声で西藤を呼び止める声がする。そうだった。この屋敷は初めて訪れた者を必ず迷わせる迷宮である。
竹内が慌ててそちらの方に身体を向ければ、珍しい光景を見た。
「ふぅん。随分とお育ちが宜しい子がいるじゃあないさ。少年、人付き合いに関して、それで良いやと諦めているのであれば……その認識を直ちに見直し給え。ヒトは人付き合いで形成されているが、世の中には付き合わなくとも良い人間だっているのだぜ?」
――竹内の予感は当たった。
思わず頬を引き攣らせたが、仕方ないと思われる。ただ、珍しく顔を覗かせた雨宮はソレだけで表面上の怒りを仕舞って見せる。そして竹内に言った。
「プラスチックのカップが戸棚の中にある筈だ。それを六つと、後はリンゴジュース。冷蔵庫の中に箱があるから、中身を確認の上それと必要なものを持って来てくれ給えよ」
「はい……っ」
僅かに声が裏返ってしまったが、雨宮が内心で怒り狂っている事に気付いている竹内としては、それは何らおかしい事では無かった。
雨宮は肩を竦めてから踵を返す。
「さて、お客人たち。こちらへどうぞ。迷わないようにしっかりついて来てくれ給えよ? どうやら私に依頼があるようだし、ゆっくり話したいだろう」
顔だけ平依と夕樹と友華の三人に向けて、雨宮は僅かに笑った。
応接スペース。そこは数多の書架の間に致し方なく作られた場所だ。
黒いローテーブルが一つ。雨宮の基本棲息地とも言えるソファーベッドが一つ。そして、一人掛けのソファーが三つ置いてある場所である。今はそれと折り畳み椅子が一つ出ていたが、ここが今は居ない竹内の場所になるのだろう。
西藤は雨宮の正面に。その横に黒いランドセルの方の藤原。その横に赤いランドセルの方の藤原。そして雨宮から少し離れた所に平依が座る。
平依がそれぞれ自己紹介をしようとした時、雨宮はそれを手で制した。
「先に私から自己紹介をさせて頂こう。私は雨宮。キミらが言う処のお化け屋敷……つまりは此処で私立探偵なんてしている者さ。この少年とはちょっとした経緯で出会ったのだよ」
「タンテーなんておとぎ話みたいな話、信じられる訳がない」
そう言い放った西藤に、平依は顔を顰める。だが、雨宮は楽しそうに笑うだけだった。
「ふぅん。なら諸君の名前を、ノーヒントで当てられたら信じて貰えるかい?」
「……いいよ。信じてあげてもいいよ」
そう言う西藤に、雨宮は少し考えてから更なる提案を出す。
「なら、追加条件だ。インチキって言われても詰まらないからな。少年の依頼内容を当てられたら、その生意気な口を改めて貰っても良いかね。お嬢さん」
半ば睨むような雨宮の視線に、西藤は少し気圧されたようだったが……直ぐに虚勢交じりに笑う。
「どうせ当てられる訳がないもん。いいよ、別に」
「前言撤回は認めないから」
「ナニソレ」
「やっぱなし、はダメと言う事だ。ドキュンは此れだから相手にしたくない」
雨宮はサラリと言い放って座り直した。
雨宮は先ず西藤を人差し指で差して言った。
「キミは西藤彩音とか言ったか。小学校四年生で、少年と同じクラスだ。この前の事故で篠本静香なる目障りな、これまた同じクラスの、中心的人物が死んだことによって、葬式中は泣いていたものの、終わって一人になった瞬間に嬉しくて思わず『あんなヤツ、死んでトーゼンだよね!』と笑った愚か者」
途中で声帯模写を駆使したのか、同一人物が発したとは思えない声を発する雨宮。それを聞いて平依は顔を蒼褪めさせては驚愕の表情を浮かべ、西藤を凝視する。
しかし西藤はその平依の表情の変化には興味ないとばかりに立ち上がっては動揺を見せた。
「何で知ってんのよ! ストーカー!?」
「探偵なのだから、推理に決まっているだろう。これだからキミみたいな奴は嫌いなのだ。人間とも思いたくない」
フン、と鼻を鳴らしては雨宮は肩を竦める。
「失礼。少々苛立っているようだ。で、キミは藤原友華だね? 二卵性の双子。その弟だ」
雨宮は西藤の隣の藤原としっかりと視線を合わせて言った。
その発言に友華は驚く。名前を言い当てられたのもそうだが、友華を弟と呼んだ所だ。
「……雨宮さんはなんとも思わないんですか?」
「まぁ、その話は後だ」
クスリと表情を緩める雨宮は、その横の藤原としっかり視線を合わせる。少し不安そうな表情をしている<彼女>に、雨宮は言った。
「で、次。キミが姉の藤原夕樹。……それにしても、キミたちは二卵性で良かったね。一卵性だったら、成長するにつれて彼女より身長が低くなってしまうから非常に生き難くなってしまう所だった」
それを聞いて、平依は此処にこの三人を連れて来たことは間違いでは無かったと確信を抱く。
――いや、西藤に関しては要らなかったとも思うのだが、それはソレ。
雨宮の言葉に首を傾げる二人の藤原。その双子ならではの仕草に雨宮は解説をする。
「一卵性の性別が違う双子は、成長すると体が男の方の背が高くなるのだよ。一卵性とは一つの卵と書くのだけど……」
雨宮はそこまで言ってから視線をキッチンの方向へと向ける。それから困ったような雰囲気で言った。
「詳しい事を話している時間は無いから、いい加減に説明してしまうと……一卵性の双子は一つが二つに分かれて、そうして赤ちゃんにまで成長するんだ。だが、その分かれる所で偏りが出来て。大抵は同じ性別同士の双子が生まれるのだよ。でも本当に珍しい確率で、キミたちみたいに性別が違う双子が生まれる。その場合にそうした偏りは分かりやすくなってねぇ」
自分の膝の上で肘を立てる雨宮。
手を組んでそこに顎を乗せる雨宮は更に言った。
「つまり成長してからの身長差に悩まされる事は無い、と言う事だ。一応今の状態でも身長差は現れるかもしれないが……一卵性よりはマシだと思うよ」
「そ、そうなんですね……?」
友華はその雨宮の発言に相槌を打つ。辛うじて理解できたらしかった。夕樹は人見知りでも持っているのか、少し警戒した様子を見せていたが……もしかしたら思わぬ味方を見つけて驚いているのかもしれない。
雨宮はその両者の反応を見てから、姿勢を僅かに正す。軽く腕を組んで。そうして依頼内容を推理し始める。
「依頼内容は簡単だ。つい最近引っ越してきた姉弟の性別が外見と大分違うことに、教員が余計な一言でも言ったのだろう。男の子がリボンって、とか」
正にそのやりとりがあった。
平依は雨宮に頷く。一言も言っていないと言うのに。矢張り雨宮は優秀な探偵だ。それを見て雨宮は溜め息交じりに嘆きを吐き出す。
「全く……今の時代の教員は多様性を教えるべきだろうに。未だにそうした旧時代の思い込みに囚われている奴がいるのかね。石頭の害悪でしかないな。早々に立ち去るべきだと思うが……時間がどうにかしてくれるかな。――話を戻そう。で、それに反駁を唱えようとした少年とキミが口論になった。ただ、その場では教員の梃入れにより場がうやむやになってしまった」
気を取り直して雨宮が推理を続ける。西藤は理解していないのか怪訝そうな顔をしているが、分かっているらしい平依と、辛うじて分かっているらしい藤原姉弟が頷いた事により、取り敢えず分かった顔をする事にしたらしい。
雨宮はそれを冷ややかに見てから、詰まら無さそうに言う。
「それでキミが『陰キャのクセにアヤネにハンコーするとかありえないんですけどぉ』からそのバトルが再燃。仕方ないので第三者にお話を聞いて何か言ってもらおうと。それで選ばれたのが私。違うかね。これが私への挑戦状――もとい、依頼内容だ」
平依が頷くが、西藤が威嚇するような顔で雨宮に吠える。
「ねぇ、日本語を話してくんない?」
「キミこそ本を読み給え。私は先程から日本語しか話していない心算だ。頭の悪いキミにも分かりやすく言うなら、この姉弟の性別が気に食わないのをどうにかするために私が選ばれた、だ。これなら正解だろう?」
わざわざ分かりやすい言葉を選ぶ雨宮が更に気に食わないのか、西藤は思い切り渋面を作る。
雨宮がフン、と横を向いた所で竹内がトレーの上に色々な物を乗せてやって来た。
「……雨宮さん」
「イジメては無いぜ? 本人の主観ではね」
フン、ともう一度鼻を鳴らす雨宮と、それからその雨宮を睨み付ける西藤を見て……竹内は溜息を吐くしかなかった。