番外編:バレンタイン
現時点で書きたいだけで本編でもバレンタインというイベントが出てくるかもしれないので何もかも関係ない謎時空くらいの気持ちでお願いします!本当に!本編とは特に関係ありません!
ポニーテールにした栗色の髪を揺らしながら摂理は実に楽しそうに鼻歌を歌う
「フンフフンフフーン」
「お姉ちゃんまだー?」
「まだだよー、焦らない焦らない」
自分の手は止めずに祈理を諭す、今日はバレンタインだから奇をてらわない豪勢な料理を家族に振る舞おうと現在奮闘中の私だが妹の祈理も家族に渡すお菓子を作りたかったようでチーズケーキを一緒に作った。
自分はもう手入れが面倒になってしまって肩口までの長さにしてしまった髪を腰あたりまで伸ばしていてうなじのあたりで2つくくりにしている妹を見て矜持は長い方が好きだったりするのかな…なんて事を考えてみる
「祈理もお姉ちゃんみたいに髪短くしようかな…」
「えっ?どうして?」
「オトナっぽくて綺麗だしその方がお兄ちゃんが好きかなって…」
似合っていて可愛いのにもったいない…でもその言葉で気づけた
「そのままでいいと思うよ、祈理はとっても可愛いし矜持は今でも十分私たちのこと好きって伝えてくれてるでしょ?」
「うん…でも今日は特別だから…」
祈理が可愛くてつい笑顔が溢れる、私も矜持もこの子にはやられっぱなしだ。
「その気持ちはケーキに乗せてうーんと美味しくしようね」
「うんっ!」
紺青の髪と漆黒の髪が並んでベンチに座っている、2人とも心なしかぐったりしているのは気のせいではない。
「チョコこんだけ貰うなんて思ってなかった…」
「量がヤベェ…」
女顔であるが故にかっこいいとも可愛いとも言われ女子が押し寄せるレントはもちろん、その安心感から度々相談を受けたりする立場でありガタイの良さもあり一部の男女に人気の矜持もそれなりの量を…特に男からの日頃の感謝を多くもらっているため胸焼けを起こしていた。
「お前の方はなんでそんなにピザとかフランクフルトとかケバブとかなんだよ…」
「なんでって男が多いからだよ、言っとくが貰い物だからあげれないぞ」
「ああいいけど…あ、エレナからお前にだって」
「ああ…ありがたい…早速いただくとするわ」
レントから手渡された箱を丁寧に開けるとそこにはまるで既製品のようにたくさんの種類が入った、しかし手作りとわかる包装のチョコが入っていた
「お前の好みがよくわからないからって色々作ってたんだよ、おかげで俺はどれだけ試食させられたか…」
レントが若干不憫なのは置いといて思いのこもったチョコを1つずつ味わいながら食べていく、その中で特に気に入ったのは半球形のチョコ、甘さと苦さのバランスが丁度よくて若干お酒のような風味があった。
「これ…めちゃくちゃ美味しい…」
「お、だったら今夜電話でもして感想伝えてやってくれよ。ついでにエレナごと貰ってやってくれ」
「電話はする、俺もエレナの気持ちに気付いてない訳じゃないからな?ただまだ小さすぎる、俺が動くんじゃなくて自分のペースで成長して答え出してくれればしっかりと答えるさ」
「て言っても俺もお前も…んでたぶんエレナも比連なんて所属しちまってるからいつ死ぬかわからねーだろ、兄貴としては妹の晴れ姿は見たいからな…」
誰も話には出さないが比連校からも死者は出ている、辛くなってやめた者もいる…だがめでたい日にする話でもなければ11歳のいもうとを結婚させようとするのはあまりに急すぎる
「焦るな焦るな、なるようになるさ。まあでも俺たちは収入もあるし生きてるうちにってのは考えた方がいいだろうな、俺も遅くとも卒業したら結婚するし、じゃあちょっとその相手から呼び出しくらったし行ってくるわ、お前らもその辺考えとけよ」
そう言って矜持は立ち去る
「ら?」
後に残されたレントは何を言っているのかわからなかったが…
「こ…今年もいつも通りの感じで渡すつもりだったのに…」
「わ…私もそのつもりでしたぁ…」
「チームメイトとして…なら不自然じゃないと…思ってたん…です…ふひゃぁ…」
「大丈夫ですかクリス、ここは心を強くもっていっそ強気に、しかしそれでは想いが伝わるか…」
物陰から2人の会話を聞いていた『スピリッツ』の残りの面々は赤面を隠しきれないでいた。
「私に呼ばれてるなんて嘘ついて…グッジョブ!矜持!悠里ちゃんの焦り方なんて最高よ!」
「さすがにちょっとやりすぎたかなとは思うけどね」
2人の間に今日渡す物はない、今日は家族と過ごした方がいいとのクオリアの配慮で昨日のうちにデートをしてその時に渡してあるからだ。
左手の薬指に指輪をはめているクオリアは心底楽しそうに『スピリッツ』の面々のやりとりを眺めていた。
「ただいまー」
父親にハンカチを、母親にハンドクリームを、姉と妹には髪留めをそれぞれ用意した矜持が家へと帰る、夢のように暖かで優しい家族の団欒が約束されたその家の明かりはその日なかなか消えることがなかった。