熱
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@hiyokurenrisks
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「うああああああ!!!!」
比連本部の一室から悲鳴が響く、その声から感じられる悲壮感に近くを歩いていた職員が駆けつける。
「どうした!何があった!」
「寝坊したぁああああ!!!!」
そこにいたのは口に涎の跡が残っていて髪はボサボサ、多少マシになったとはいえまだクマの残っている女性、薄井ヒカルがいた。
「はっ、矜持は!?どこいったの?というより僕はなんで寝てしまったんだよ…クソぅ…」
駆けつけた職員を完璧に無視して一人言を話し続ける、眼中にないとはこの事だろう。
「帰ってはいないだろうし…どうせあそこしか無いか…待っていろ!」
すぐにハゲマスクとひょっとこ面を装備して出て行くその姿の異様さに駆けつけた職員は唖然とするしかなかった。
カーバン家が保護という名目で軟禁されている部屋に矜持はいた、事情聴取が終わり晴れて自由の身となったイオリ・カーバンもその場におりその妹のカオリと矜持の精霊ラティファが徐々に仲良くなっていく様を見てほっこりしている。
そんな緩やかに時が流れる空間の扉が開けられる、そこにいたのは…明らかな不審者だ
「コヒューコヒュー…ゴブッブォエ…コヒュー…ま…まって…ゴッヘバッ!はじってぎたがら…ゼヒューカハッ息がッ!」
途轍もなく安定しない呼吸で徐々に部屋へと侵入してくる姿は恐怖でしかない…のでさっさとカーバン家の皆さんから離す事にする。
「すいません、こいつ知り合いです…というか今からこいつが特効薬作って皆さんみたいな人を救ってくれるんで…」
乱れた呼吸を安定で整えてあげながら部屋を出て行く、急な事でラティファも驚いたがしっかりと挨拶をしてから部屋を出て行く。
「ヒカル、どっちへ行けばいい?」
「あっちだ」
米俵を担ぐような体制のまま腹に肩と腕がめり込む痛みと歩くめんどくささで痛みを取ったヒカルが足で方角を指す。
その方角へとズンズンと矜持は足を進めた。
屍が急に元気を取り戻した部屋の中、検査を終えた矜持はひっそりと部屋を出て行く、部屋に入った時は死体同然だった人たちが相変わらず髭などはひどい有り様だったりするが目だけは爛々と輝かせてタイピングをしている。
連理の枝の変態達の本領発揮という感じなのだろう、顔が見えないヒカルだがその体から立ち上るオーラは正のものだ。
彼らは決して人前に出るような仕事ではない、だが真紅のマントの代わりに背負った白衣は…人々を守るヒーローに見えた。
本部を後にしても熱が消えない、先程当てられた熱のせいで自分も何かに打ち込みたいと思う、今やるべき事は…五君子戦で使うワイヤーの扱いの強化なのだろう、正直伸び悩んでいる。
発想が無いのだ、新しい何かが思いつかないためできることの復習にしかならない。
「走ろう!」
パトロールにもなるだろうと思いとにかく走る、魂の力を切っているため筋力だけでの疾走、内側から溢れてくる熱に任せて走り続ける。
体にかかる負担が心地いい、本当にいい気分なところに水を差された。
ゴツン!
「いってぇ!」
パトロールを兼ねているため少し人通りの少ないところを通っていたのだが見えない壁にぶつかり激しい痛みが矜持を襲った。
「結界か」
落ち着いてみるとそこだけ異様な流れができているのがわかる。
こんなところに結界があるのは怪しすぎるのでとりあえず壊す事にする、簡単に鉄骨さえ曲げれるようになる魂の力を解放して結界を殴りつける。
バギィ!
音を立てて消えた結界の中、そこに居たのはエメラルドの様な翠の瞳に紫の髪をおさげのように二つ、長い三つ編みにしてメリハリのある体に露出の多い黒いドレスを着た魔女のような服装の美女がその顔を驚愕に見開いてこちらを見ていた。
「なんで結界が…」
「なんだぁ?援軍かぁ?よくわからんがよくやった!」
そしてその先には明らかに組織だって行動しているであろう集団…指定暴力団だろうか、その様な風体の者たちがいた。
「逃げて!」
女性が叫ぶ、その一言で彼女が悪人でないとわかった、故に矜持は彼女を救ける。
「断る!」
その一言と共に纏うのは真紅のマント、彼女が魔女ならば矜持はヒーロー、使い古されたが故に誰にでも伝わる「もう大丈夫」の証。
その雄々しい姿がまっすぐ歩む、そして魔女風の女性を背に暴力団風の者たちに立ちふさがる。
「とりあえず、話は比連の方で聞かせてもらおう」
夢の力でできたその刀が閃く、あえて見える速度で振るわれるその戦いは美しく、一つ一つの動きの美しさが見るものを魅了する。どんな魔法、どんな武器を使おうともその全てが彼には届かない。
ワイヤーによる撹乱も合わせて逃げる事すら許さずに容易くその集団を全て眠りに落とすのに大した時間はかからなかった。
全て斬り伏せた矜持が夜闇を背に魔女風の女性に笑いかける
「結界壊しちゃってすいません、大丈夫ですか?」
「ひゃ…ひゃい、王子様!」
あ、これめんどくさい奴だ。そう確信したがもう遅い。目をハートにして抱きついてくる彼女に対して矜持の頭はやっばいどうしようという戸惑いしかなく先ほどまであった熱がどこへ行ったのか冷や汗が浮かんでいた。