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@hiyokurenrisks
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比連本部の研究施設にて連理の枝の精鋭たちが死屍累々という様相になっている。
「足りない…一手足りない…」
誰もがどの様な手段を取っても不可能だと諦める中不気味なひょっとこだけは諦めていない、諦められるはずがない。
初めてできた友達が最後まで諦めないで繋いだバトンをここで投げ捨てるなんてありえないと…だが周りが言うように足りない。
精霊と人の融合なんて前例が無いものを、被害者であるあの一家も完全に精霊との繋がりを切られているのに調べられるはずがないと…
だがカッコをつけた手前引く事なんてありえない、手を替え品を替え、いろんな方向からアプローチをかけ少しでも先へ進められるようにと頭を回す。
ただその様相はやはりひょっとこ面のせいで不気味だった。
「っだぁああ!もう!死刑囚でも使って人体実験するか!?なあ!許可出るんじゃねーの!?」
それは大変魅力的な提案だった、でも無意味になる可能性も高い。研究により精霊と人間を無理やり合成する方法はわかった、ただその状態から元に戻すには完全体が欲しい。
精霊と融合した状態で安定している存在が…
「ん?んん?」
なんとなく例の友達が頭に浮かぶ、精霊と同じ力を扱う彼なら現状を打破する糸口にはなるかもしれない…そう思うとすぐに自身の携帯に手が伸びていた。
prrrrprrrrr
静かな教室内に着信が響く、マナーモードにするのを忘れていた。
全学年が常に戦闘訓練を授業で受けれるようになったせいで受けてくれる人が減ったと嘆いていた地理の講師と目が合う。
土地を活かした戦略に定評があり軍師とまで呼ばれた講師が泣きそうな目を向けてくる、現在授業を受けている人数は18人、そのうち比翼の鳥側は3人。
なぜ分かるかというと地質学的な見方と土地を活かした発想、それぞれ連理の枝と比翼の鳥で考え方に差異が出やすいため意見交換をスムーズに行うために席が左右に分かれているからだ。
そして俺以外の2人は…寝ている…普段なら魔法使いの奴らも来ていてもう少し賑わうのだが今日のこの時間は幻覚魔法の大御所、神聖魔導の1人ケーニッヒ・アンネスが来ているためそちらに流れ込んでいる。
つまりここを俺が出て行くと比翼の鳥の側の意見を言える人がいなくなる…長い沈黙
威圧感があると言われている講師と見つめ合う、獣人としての血が濃く頭はワニそのもの、全身にウロコもあるというのに涙目、それだけでかわいそうな雰囲気が漂う。
prrrrprrrr
「すいません!外でます!」
ついでに寝ているうちの一人、たまたま同学年で話したことのあった翔をはたき起こして走り去った。
「もしもしヒカル?どうした?」
「人と精霊の安定した融合体のサンプルが欲しい、精霊と同種の力を操る君に心当たりは?」
魂を住処として提供してはいるが同化はしていない、精霊魔法士はあくまでも精霊と協力できる契約を交わした魔法使いというだけで精霊がいなければただの魔法使いと変わらない。
精霊と同化…心当たりなどなかった…
「あるぞ、というかこやつはそれそのものじゃ」
出てきたのは代わりに答えたのはハルディス、ジャージ姿ではなく喪服のような墨で作られたが如き和装で満を持しての登場だ。
「は…え?いや、融合してんの?」
「間抜け面を晒している暇があればそいつの所へ行ってやれ、説明は同時でいいだろう」
ハルディスの言う通り早いに越した事は無いので隣接しているため大した距離ではないが矜持は走った。
「それでは話そうか、こやつが精霊と融合…というより精霊そのものに何割かなっている事を」
ひょっとこ面を外してひどいクマのできているヒカルに案内された部屋の中ハルディスの話が始まる。
「なぁ矜持、前に肌を重ねれば仙術の扱いが上手くなるという話をしていたのを覚えているか?」
とてつもない羞恥が矜持を襲うが今は照れる場合じゃないと頷く
「私が夢の権能を持つ精霊であるから寝ているお前と…お前の魂と強い繋がりを結んだ、体を許すという限りなく無防備な状態にまで精神を晒させ魂を交わらせその存在を精霊に寄らせていたのじゃ」
納得がいく、安定の魔法で精神に働きかける時も相手が心を開いてくれていた方が効きやすいしいつも使う夢の力を持つ剣にしても相手に死んだと誤認させその隙に意識を奪うという在り方だ。
なら寝ている事で肉体から離れむき出しとなった魂、精霊の核と同じ状態で精霊と深く結びつけばその在り方が精霊に変質していってもおかしくない、そして精霊になっていったからこそ仙術の扱いが上手くなっていったのなら辻褄があう。
「なら…君を調べれば最後のピースが…」
酷いクマを浮かべたまま虚ろな目でヒカルが迫ってくる、新雪の様な肌に絹のような髪、ルビーを思わせる瞳は座っていて幽鬼のような怖さがある。
そんな姿を見せられては当然矜持は心配し、その優しさが仙術により振りまかれる。
そしてヒカルは…それに当てられ、研究解決の糸口が見えた安心と合わさり眠りに落ちた。
倒れ込んでくるヒカルを受け止めソファーに寝かせる、本当に酷いクマだからきっと今までほとんど休まずに働いていたはずだから少しくらい寝ても許されるだろうと少しでも彼女が安眠できるように安定の魔法を軽くかける。
「それだけで話が終わりということでも無いんだが今話すことでもないな…矜持、私も戻ろうと思うが何か聞きたい事はないか?」
「いや特に、長年の謎が解けた衝撃がでかくて今ほぼ何も考えられない」
相変わらず若干残念な頭の矜持を残しハルディスは魂へと返って行った。