五君子戦に向けて
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@hiyokurenrisks
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『こっちは今日も連携の練習だ』と紡に連絡をいれる。
すでに梅雨が明け五君子戦は目前に迫っている、俺とエリアスとクリスの3人は罠を三人の合作で作る訓練などをしていた。
投石機で爆弾やワイヤーネットを打ち出したりワイヤーにひっかかれば爆発するものを避けようとしたら落とし穴に落ちるなどの手堅い感じだ。
一方レントとルイスは単体戦力としてバリバリ攻めるタイプなので模擬戦をしているのだが『幻想世界』を使うと周りに手の内を晒すためルイスの家の地下で木刀を使っている。
俺たちもそれを窓から見ている状態で小型の罠を作ったり時々2人相手に試したりという感じだ。
罠で行う事は簡単にしているつもりだがやはりワイヤーを引っ張ると爆発させるにはどのくらいの衝撃に反応するか、などが大変で試行錯誤がなかなか終わらない。
「今日はこれまでにしておくか!」
上機嫌で言うルイスに対しレントはボロボロだ、だがこれ以上戦うとレントの圧勝だろう。
「お前いくら勝ちたいからって斬撃の拡大ばっかするなよ!そんなんだからすぐに魔力無くなるんだろ!」
とレントが怒っている理由が答えだ。
ルイスの先天魔法の拡大は限定的であるためかなり強力で魔法であろうと剣技であろうと効果範囲を拡大するというものらしい。
魔法なら炎を出すという効果が広がるため大きな炎に、剣技なら斬れるという効果が広がるため遠距離から不可視の斬撃を、拳なら遠距離から威力のみをという感じらしいが問題がある。
拡大の強さも魔力で変わるのだがそれ以外にもともと広範囲に伸ばせる魔法と違い剣技などは広範囲で伸びるものではないため事象の改変のための魔力が多く必要でさらに言えば手元から遠いものを拡大するのにも魔力は多く必要らしい。
つまり剣先までまるごと拡大する必要のある斬撃の拡大というのはすこぶる燃費が悪い。
あとこれは運用法に気をつければいいだけだが本人の性格と相まって大技ばかりなので味方としては巻き込まれないように立ち回るのが大変だ。
「うるさいぞ!俺はここ最近負けてばかりだったんだ!勝たせろ!」
魔力を身体能力に変えれるレントも特化型だがそれがそのまま攻撃力と防御力に変わるためそのどちらもを先天魔法ではなく後天的に覚えた魔法で賄うルイスより燃費が良く、超短期決戦にしなければルイスが勝てないのも事実であるためあれはあれで正しいとも言える。
だがいつまでも喧嘩していてもしょうがないので俺とエリアスは顔を合わせて頷く。
「悪いクリス、行ってくる」
「ごめんね、任せきりで」
「い…いえ、爆弾の調整は私の仕事ですから…!」
ここからは魔法厳禁の基礎練に入る。
「しょうもない喧嘩ばっかりしないでよね2人とも!ルイスも回数抑えて戦えばいいしレントも早く攻略法見つけなさいよ!」
「はい、エリアス先生の言ったことを明日から実践するとしてとりあえず今日はこのまま魔法禁止戦なー」
エリアスと2人して模擬戦場に乗り込むがレントとルイスは喧嘩をやめない
「おーい、聞こえてるかー?」
「ああ、魔法に恵まれなかった男か。ということはこれから魔法禁止戦だな!今日の勝ちは俺だぞレント!フゥッハハハ!!」
近くまで来てようやく耳を傾けてもらえる…のはいいけどルイスの俺の呼び方は長いし呼びにくそうなのに変えるつもりがないらしい。
「ちっ!胸に恵まれなかった女ももうきたのか」
エリアスは上で罠の構想を練る間に頭に糖分を回すと言ってよく甘い飲み物を飲んでいるため模擬戦の前にトイレに行くため俺が来てからも少しだけ余裕がある事が多い。
そのせいで喧嘩してテンションが上がったままのレントが調子に乗って言ってはいけないことを言ってしまった。
「GaaaAAAA!!」
鬼のような形相で化け物のような声を上げながらエリアスがレントに襲いかかる、俺とルイスは目を合わせ避難するように4人の乱闘ではなく1on1が2組になる様にした。
「貴様は本当に捌きも攻めも素晴らしいタイミングで隙がないな、木刀とはいえ剣を持つ相手に拳で向かうというのに気負いもない…本当に惜しい男だ」
「まあこれでも化け物相手じゃなくて一般人の対人戦なら十分だろ?」
ルイスから俺への評価は武術の腕は相当だが魔法に恵まれなかったため戦える相手が少ないという事になっている。師匠が最初に言っていたのはこういう事なんだろう、足捌きとかでどうせバレるから隠せないところは隠すなと。
クオリアは魔法使いだからその辺のついでてしまう癖なんかがわかっていなかったんだと思う、ワイヤーはワイヤーで便利でこれから先もお世話になる予定だしレントたちってバラしても友達でいてくれる人たちが早々に見つかったので結果的にはそれでよかったのだが。
「十分すぎる、そこまで磨き上げる時間を他のことに使えば貴様も銀羽になれそうだったものを…まあせいぜい俺の剣技を磨くための糧になれ」
「ああ、サンキュな」
口は悪いがルイスも相手のいいところも悪いところもしっかり見れるやつだ、自身が高性能な分認められるところが1つもない相手には厳しすぎるところはあるが…まあ案外悪いやつではない。
「礼を言われるような事など何も無いがな」
こうしてお礼に対して慣れていないところなんかも周りに知れ渡れば友達もできそうなのにと思うがまあその辺はしょうがない事だと割り切る。
魔法禁止の模擬戦はレントがエリアスによってボロ雑巾のようにされるまで続いた。
みんなと解散した後も俺はすぐに家には帰らず比連本部に顔を出していた。
「どうも〜、今日はモンブラン買ってきましたー」
軽い挨拶をしながら隔離された部屋に入る。
「あ!お兄さん!待ってたよー!」
「ありがとー、お兄ちゃんもカオリちゃんに会いたかったよー」
トタトタと走ってくる黒髪に褐色の肌の少女は、カオリ・カーバン、この前起きた事件の被害者だ。その両親にもレンヴォルさんとミリトゥスさんも頭を下げて少し申し訳なさそうに挨拶を返してくる。
「いつもすいません…」
「救けていただいただけでなくこのような手間までかけさせてしまって…」
違うだろう…なぜこの人たちが謝らなくてはいけないんだ…
「いえいえ、俺としてもカオリちゃんみたいな可愛い子に会えるのは嬉しいですし比連は皆さんに対して協力をお願いしてる立場ですから」
そう、この人たちは精霊と無理やり融合させられてしまったせいで現在比連管理下で暴走しないかの監視とどのような技術が用いられたかの研究対象にされている。
今回はたまたま俺がそれを解決する力を持っていただけで他の人にはないためこれから先の被害者を救けるために…彼らの自由は奪われた。
「はいはい!私もお兄さんに会えて嬉しい!」
幼いカオリちゃんが心に大きな傷を負っていないことだけが救いだ。
元気なカオリちゃんの姿に逆に大人達が心を支えられる。
面会時間いっぱいまで本を読んであげたりどこかの世界で聞いたおとぎ話なんかを話して過ごした。
「また来てねお兄さん!」
「うん、また来るね」
最後には特に強く抱きついてくるカオリちゃんの頭を撫でる、こんなにも小さな少女に悲しみを背負わせているのに手を引いて逃げ出すという選択を取れないあたり俺はどうしようもなく比連の職員でまだ見たことのない誰かのためにこんなにも慕ってくれる少女を犠牲にするしかなくて…まだまだヒーローになりきれてはいなかった。
部屋を出ると扉の横にはひょっとこ面が立っている
「あと一週間…コホー…それでなんとかして見せ…コホーコホー」
「ああ、ありがとうヒカル」
「なに、それが僕の仕事…コホー…だからね、君は君の…コホー…やるべき事を最大限…コホー…やりきった、それでいいのさ…コホーコホー…胸を張れよヒーロー…コホー…それとも君は一人で完璧になれるつもりかい?」
「わかってる…ほんとありがとな」
今回の件単発で見れば間違いなく最上の結果だと言える、しかし相手が組織という事が…今も被害者を出しているであろうことが早く潰さないと悲しむ人が増えることが許せなかった。