武器選び?
「すいません、お待たせしました」
「いいのよ、先に遅れるって連絡もしてくれてたし問題ないわ」
待ち合わせに10分ほど遅れた矜持をクオリアは軽く許す。というのも地下鉄切符の買い方がわかっていない子どもに矜持が教えていたら一本遅れたからで、事前にその旨を伝えていたからだ。
「そう言ってもらえると助かります。お詫びにジュースでも奢りますよ」
矜持が自販機を指差して言う。
「じゃあサイダーをお願い」
その言葉を受けて矜持は自販機でサイダーとグレープジュースを買って戻ってくる。
「お互い変わらないわね」
「変える必要もないですから」
昔から変わらないお互いの好みの味に2人は軽く笑う。
「ところで矜持、こっちの方って来たことある?」
クオリアの言うこっちの方とはセラフェリアの南地区の事だ。
セラフェリアの地域区分は大まかに東西南北中央で分かれていて、東は武道が盛んで獣人が多く、西は研究が盛んでその2つの武器や器具を売りやすいように南に鍛治士などの職人が集まり一般の住宅地は北のほうに集まっているがそれぞれ年々広がってきており端から端までは飛行機でいかなければならないほどだ。
そのため比連職員は仕事の場合のみ事前に申請を出し転移する事を許されている。
異世界にまで仕事に行くくらいなので転移自体は魔力が大量にいるとはいえできるのだが犯罪抑止のため申請が通らなければ転移の魔道具は起動することもできなくなっている。
中央は比翼連理本部があり、職員の居住スペースや比連校、刑務所、裁判所などがそろっている。
そのような特色があるのだが矜持はこっちに来たばかり、あまり自分の家周辺以外のことは知らなかった。
「いえ、近所と中央のほうはてきとうにぶらぶら〜っと見たんですけど他の区画は見れてませんね、広すぎるんですよここ」
「わかるわ、私もこっちにきて3年だけどわからないところ多いし、今日はあんたを弱くするために普段私が使ってる腕のいいとこ紹介するわ」
腕輪の一つをとんとんと叩きながらクオリアが言う。それは昨日使っていた二丁拳銃の魔道具のはずだ。
「腕のいいところですか?」
「ええ、無くても戦える私たちのためにただの武器じゃなくてそれを使う意味をしっかりと作ってくれるわ、弱くても役割があるって言えばいいかしら」
「あー、それはいいですね。それだとただ弱くするんじゃなくてこれから先での新しい戦術になりますし」
「そうそう、私のあの銃は引き金を引くとまっすぐ魔力を飛ばすんだけど魔力効率が凄くいいのと込めれる魔力の上限が高い上にドリルみたいに回転してるからなかなか威力があるのよ、それに効果付与しなければ何も考えなくていいの。牽制に便利よ」
「昔はクオリアさんが計算する暇を作る盾役を俺がやったり先に盾を出してからとかでしたもんね」
「そうそう、これで1人でもそこそこ戦えるのよ、学校の方では銃だけで戦えばそこそこ弱くなってるし」
「うーん、じゃあ近接武器全般使える俺も銃を使う事になりますね」
「それは私にはわからないわね…なんせ店主が選んでくれるところだもの」
「そうなんですか、それはなんか楽しそうでいいですね」
「ええ、矜持なら楽しめるはずね」
矜持ならというところに少し疑問を持ちながらも素直についていて少しした頃
「ここよ」
と言ってクオリアが立ち止まったのはコスプレ衣装を販売している店だった。
「え?クオリアさん腕のいい魔道具やって、え?なんで?」
「コスプレって魔道具も使ったりするのよ、いいからいいから」
手を引っ張られて入った店内は女性向けのコスプレ衣装だけでなく男性向け、ヒーローの衣装もたくさんあった。
「いらっしゃいませ〜、どんな衣装を…あらあらクオリアちゃんいらっしゃ〜い。
彼氏連れなんて初めてじゃない?一緒にこの店に来るなんてこの後ナニするのかしら〜?」
奥から出てきた穏やかそうな雰囲気の紫色の髪をした妙齢の女性がからかう様な笑みを浮かべながらものすごい冗談をかましてくる。
「変なことはしませんし彼氏じゃありませんよ!今日はこっちの矜持の武器を見て欲しくてきたんです!」
「そんなに怒らなくてもいいじゃない、可愛いんだから笑顔、笑顔、ほら彼氏くんも何とか言ってあげてよ〜」
「すいません、武器を選ぶって言われてここに連れてこられて色々と頭が追いついてないんでちょっと待ってもらえますか?」
「はぁ、もういいですよ。とりあえず奥で矜持のこと見て上げてくださいヒシャナさん、きっと話が合いますから」
「はぁ〜い、そういう事なので奥まで行くわよ〜、お姉さんといいことしましょう矜持くん」
そう言いながら店主、ヒシャナが矜持の手を引こうとする。
「なっ、私も行きます、矜持の第三段階も久々に見たかったことだしちょうどいいので」
「3人でなんて大胆ねクオリアちゃん、矜持くんはもつかしら?」
「いい加減にしてくれます?」
クオリアがついに拳銃を取り出し頬をピクピクと震わせるがヒシャナはどこ吹く風で矜持に至っては完全に置いていかれて空気になっていた。
「じゃあ矜持くんの本来の戦い方と第三段階の服装を見せてくれるかしら?」
落ち着いてから奥に移動した部屋でヒシャナは少し真面目な雰囲気で矜持を見つめる。
「わかりました」
そう答えた矜持の姿は第三段階に変わる、基本の黒のインナー、白のスラックス、白のジャケットに追加で真紅のマントがあった。
さらに手には魔力の塊を纏わせて特に武器のかたちにはしていない。
「服装はこんな感じでこの魔力の塊の形を変えて剣であったり槍であったり刀であったり…と戦い方はいろいろですね」
それを見てヒシャナはポカンとしている。
「いいわ…そのわかりやすいマント…まさにヒーローね…それに、それにそれに単純だけど凄い密度の武器!メタリックな武器だったり炎や氷もいいけどそのシンプルな光の塊も王道のヒーローじゃない!というかその魔力の密度って明らかに強いじゃないクオリアちゃんの素の階級の方で男の子ってことはもう噂のあの子じゃない。滾ってきたわー!!!」
「わかります!?やっぱり王道ヒーローっていいですよね!どんな時でも諦めない不屈の精神にその姿を見るだけで安心できるあの心強さ!」
会話しているようでせずに自分の世界に入って独り言を始める2人の頭をクオリアが叩き現実に引き戻す。
「戻ってきてください、それで矜持がいい感じに弱くなる武器をお願いしたいんですけど」
「ああ、うんそうね…学校では実力を隠した上でほんとうの戦いでも使えて…って考えて上げたいんだけど武神の弟子ならもう遠距離攻撃しかないんだけどそれだとクオリアちゃんとかぶるし…」
真剣に考えるヒシャナの言葉を待つ。
「よし、じゃあもう直接戦闘以外のものにしましょう!ヒーローといえばあれでしょうとも」
「「あれとは?」」
「矜持くんならわかると思ったんだけどな〜、言って欲しい?」
「考えるんで待ってくださいね」
「いいから言ってもらいなさいよ」
「そうね、お姉さんも言っちゃいたいから言うわね〜、ズバリ!それは糸よ!」
それはたしかにヒーローといえばの1つ、有名なヒーロー作品で蜘蛛に噛まれたことでヒーローとなった男の使うそれだった。