波乱の始まり
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シンと静まり返った食堂の中、視線はルイスとレントのいるテーブルに集まっている。
その中でレントはルイスの言葉に思考を巡らせていた。
それはレント自身が思っていたことに他ならなかったからだ、自分は本当に金羽なんて階級を与えられて良かったのか…そんな事がずっと胸にこびりついてエレナや師匠、そして両親にも話せずにいた。
そしてそれは少し前に矜持たちと行った仕事の時に確信に至った。
自分は金羽に相応しくないと
魔力を身体能力に変える魔法であるため成長スピードは周りの倍であってもおかしくない、しかし心が追いついていないというのが自身への評価だ。
魔法によって殺されかけたあの時から、剣によって殺しかけたあの時から、堪えられる程度だが胸にこびりついた記憶が胸を締め上げるようにキューっと痛めつけてくるのだから…
「じゃあそれでいいよ、お前の方が強いって事で。今取り込み中なんだよ」
周りからすれば金羽が調子に乗った同級生を軽くあしらったように見えるだろうが内心では逃げているとレントだけが知っている。
「逃げるのか?だが逃がさんぞ!お前を倒して証明しなければ金羽に昇格できるだけの力を示す機会など無いからな!」
そう、レントは迷宮巨人を倒すという手柄を立てたがいつでも大きな事件に関われるなんて有るはずがない、だからこそ昇格というのは本来なかなか難しいものなのだ。
「昇格したいんならいろいろ資格取って出来る事が多いから便利って証明したらどうだ?」
矜持もレントにフォローを入れる、戦うだけが全てではないと…むしろ力だけで解決できる事など少ないと大きな力を持つが故に知っているから
「すでにやっている、しかし俺より早く戦闘力だけで金羽になった奴がいるのが気に入らない、銅羽の雑魚は黙っていろ」
矜持に向かって見下した姿勢をこれでもかと言うほど見せつけてからルイスはレントに向き直る
「もう一度言う、逃げるな」
限界だった。逃げているのが本当だから、そして矜持への態度が許せなかった。
「受けてやるよ、その勝負…ただし俺が勝てば…矜持に謝れよこのクソ野郎!」
「いいだろう!なら俺が勝てば俺からも1つ要求をさせてもらおう!」
誰かが静止に入る隙もなく、盛り上がってしまった食堂内の空気のままに勝負の日取りまで決まってしまった。
「レント、俺は別に怒って無かったんだぞ」
「あいつが言ってた要求ってなんなんだろ…」
騒動の後『スピリッツ』と『ラフメイカー』の間に流れる空気は重かった。
「まあでもあんな風になるなんて予想できなかった事ですしぃ…」
「そうですね、矜持君に謝罪すべきというのは私も同意見でしたしあれは銅羽の者全てを侮辱していました」
「狙ってやってたとしたら策士よね…」
「なんでみんな俺が負ける前提なんだよ!」
テーブルのお通夜ムードに耐えかねてレントが叫ぶ、それに対して全員がジト目でこいつ本当に分かってないのかと言う目を向けて口をそろえる。
「「「「「「相性」」」」」」
「あの…レントさんは知らないかもしれませんがルイスって人魔法実技の方では有名で…《殲滅》なんて二つ名がつけられてるんです」
それは比連関係者が冠位になぞらえて勝手につけただけのものだが実力を示す1つの指針ではある。
「加えて剣の腕も立つらしいからな、魔法は自主練できるところが他にないから比連校では魔法と座学ばかりらしいけど」
「な…まじかよ…」
「まあ負けてもレントが困るだけだし、あんな安い挑発に乗る方が悪いのよ《疾風魔剣》さん」
「「「ブフッ」」」
そう、ルイスに二つ名が付いているなら最速で金羽になったレントにも当然ついている、ただそれが物凄く恥ずかしい名前だった。
「なんだよそれ!《疾風魔剣》て!厨二かよ!」
「いや…さ、最速で金羽になった事とお前のそのバスターソードの禍々しさから…ブフォッハハッハッハッハ!」
「もうお前笑い堪えきれてないじゃねーか!」
見透かされた自分を守るためにが本音なのか、矜持のためにが本音なのかどちらか自分でも判断がつかないがいくらなんでもこの空気はやりきれない物があると肩を落としながらも強敵が相手という事でレントは気を引き締めた。というか何を要求されるかわからないため負けたく無かったのだ。
その日のうちに各交流所に《殲滅》対《疾風魔剣》という見出しの学校新聞が表示され注目を浴びたレントは顔を真っ赤にしていた。
あとなぜか矜持のために怒ったという内容が改変されて女性を巡った争いという風に改編されていたのもレントが恥ずかしがる理由の1つだろう。
ルイスの方はルイスの方で
『モテないイケメンがついに嫉妬爆発か!?』の一文にものすごく腹を立てていた。
「こんな辱めを受けたのは初めてだ!完膚なきまでに叩き潰してやるぞ!レント・シャルカン!」
常に騒ぎたい周りによって激化した戦いが始まろうとしていた。