日常:ゲーム2
レントの家に着いた一行はゲームを始めていた、基本的に終わるのが早めな比連校であるためまだエレナは帰っていないため負けた人が交代という形でゲームをしているのだが…
「矜持お前ゲームめちゃくちゃ下手だな!」
格闘ゲームはもちろん有名なおじさん魔法使いのパーティーゲーム「マギオパーティー」なんかのミニゲーム、どれをしても矜持が必ず負けてしまう、他の面々はそれなりに拮抗しているのだが矜持だけが弱すぎるのだ。
「コントローラーを握った事もほとんどないからな、でも楽しいぞ?みんな平等に戦えるっていいな!」
それでも本当に楽しそうにそう笑えるのが矜持のいいところだろう。
「んー…あ、くそっいけっいけっ」
クリスも小声だが少し口調が悪くなるくらいに熱中しているし楽しんでくれている。
「ゲームでそんな事考えるって…まあお前からすればそうなるのか…カラオケとかも経験ないのか?」
「まず歌える歌がない!」
普通だと思っていた矜持だが改めてよく話してみると明らかにおかしいところが多い…
「またカラオケとかも行こーぜ、なんか練習しといてくれよ、好みの曲とか教えあおうぜ」
翼階級であるが故に普通とは違うという苦労があるのはこの前クオリアの姿を見て理解していたレントが誘う、もしかしたらこういう考えを持つこと自体がダメなのかもしれないと思うがそうなってしまえばどうしようもない。
「あー、歌かー…まあ、わかった」
微妙に歯切れの悪い答えを矜持が返したところで玄関の開く音がする。
「ただ…ただいま!」
一度途切れてから元気になったエレナの声が聞こえる。
そしてしっかりと手洗いうがいを終えてから一目散にゲームをしているレントの部屋までやってきた。
おかえりと何人かがそれぞれの言葉で伝えるがその目に映っているのは尊敬する武道の技術巧者、つまり矜持だけだ。
「はい!エレナ・シャルカンただいま帰りました!」
尻尾が左右に揺れているため喜んでいることが非常にわかりやすい、ただ喋り方が硬い。
「硬い硬い、もっと緩くていいんだよ」
「すいません…ちょっと緊張しちゃって…」
嘘ではないだろうが本音としてはかっこをつけたかっただけだとレントにはわかる、というか自分の時と態度が違いすぎる。
それはまあ…矜持と自分の武道というものへの打ち込み方の違いでありエレナの考え方に近い矜持が尊敬されているからしかたないことなのだが。
「矜持、エレナ来たんだし早速頼んでみろよ」
「いきなりかよ!?」
「喜ぶから大丈夫だって言ってんだろ、ちょうど緊張してるって言ってるんだし解してやれよ」
グッと親指を立ててゴーサインを出すがその目線はエレナに向いている。
「あー、エレナ…いきなりで申し訳無いんだけどさ」
「はい!なんですか!」
「耳と尻尾、触らせて貰えないか?」
先程まで目を輝かせ尻尾をフリフリと揺らしていたエレナの動きが止まる、やっぱりまずい事を言ってしまったかと矜持は後悔する。
いきなり体を触らせてほしいなんて頼みはダメだったかと撤回しようとかかるがその前にエレナが言葉を発する。
「ど、どうぞ…その…繊細なところなので優しくお願いします」
顔を赤く染めキューっと目を閉じ恥ずかしがりながらも矜持に頭を寄せる。
頭を撫でたことはあっても耳はやはり気をつけた方が良いだろうと触らないでいたがそのふわふわの毛は気持ち良さそうだと前から思っていたのだ。
実際に触ってみるとやはり触り心地がいい、一本一本の毛が短くふわふわでどちらかというと産毛に近い感じだ。
「お…おお、すげぇ…すげえ気持ちいい…」
矜持が夢中になり始める、それを見た他の面々もだんだんとウズウズしてきてしまい
「私も触りたいですぅ」
「あ、私も私も!」
「わた…私もお願いします」
全員がお願いしていた。
少ししてみんなが触らせてもらった後でエレナも交えて…という事になったが現在スピリッツの四人は全力で勝負を拮抗させている、というのもあぐらをかいた矜持の上に収まっているエレナのためだ。
矜持の位置からは見えないが2人が揃って観戦の時は撫でて貰えて気持ちいいのか心の底から嬉しそうな緩んだ表情をしている、これが矜持の番がくれば当然手は埋まるしエレナの番であっても邪魔しないようにとでも思っているのか矜持が撫でない。
つまり少女の幸せを守れるのは自分たちだけなんだと必死で戦い続けている。
「みんな白熱してるなー」
呑気にそんな事を呟く矜持に怒りもせずただただエレナの為に頑張る彼らは紛れもなく少女の笑顔を守るヒーローだった。