摂理の気持ち
「お兄ちゃん遅いね〜」
「今日は用事があるって言ってたからね」
弟の矜持にすっかり懐いてしまった妹の祈理がもう何度目かになる呟きを零したのに苦笑しながら私もその度に同じ言葉を返す。
遅いと言ってもまだ7時あたり、矜持の仕事のことを考えたら何日、いや何週間も家を空けてもおかしくないのだがここ2週間ほど家に帰れば矜持がいるのが当たり前だったので少し寂しい。
11年も耐えられたのに居るのが当たり前になると少しいなくなられるのがすごく寂しくてたまらない。
祈理なんてずっと電話と手紙でしかやりとりできなかったお兄ちゃんにやっと会えて嬉しさでこの2週間べったりだったから特にだろう。
会ったことのない2人の事を最初は心配していたけど祈理は各地を旅しながら比連職員として働く矜持のことをヒーローのように以前から思っていて、矜持が祈理に優しいというか甘いのもあってベタ惚れと言っても過言ではない。
私もそうだ。小さい頃に別れた弟がとても大切なまま手紙や電話の度に喜んで育った私はブラコンを拗らせた。もちろん妹も大好きなのでシスコンでもあるのだが…まあそんな訳で実は内心とてもそわそわしている。
さらに言うならば祈理の様に矜持にベタベタしたいまである。
と言うかぶっちゃけイチャイチャしたい!昔から矜持以外の男に興味をもてなかったのだから矜持に会えばそりゃそうなってしまう。
そう、言うなればずっと遠距離恋愛してたのに一緒に暮らせる様になったということで…
それを後押しするかのような場所が私たちが住む場所はセラフェリアなのだ。
世界には血縁関係にある者との結婚や他種族との結婚を認めない地域もあるが様々な国や種族の人が集まるセラフェリアにおいて相手の選択は自由であるとされている、それこそそれ目当てでセラフェリアに逃避行して来る人もいるほどに。
そんなわけで祈理に言い聞かせてはいるけれど私だって実は待ちきれない気持ちでいっぱいだったりする。
そんなこんなで2人で待ちわびていると扉の開く音がする。
「ただいまー」
矜持の声が聞こえて来ると飛び出す様に玄関の方へ向けて祈理が走り出す。
「お兄ちゃんおかえり!」
私も続いて応える
「お帰りなさい矜持」
私が玄関の方へ顔を出すとすでに祈理が矜持に抱きついている。
矜持は4歳の頃から鍛えてきているので筋肉質で全体的に太めなので祈理が抱きついても全く問題なく抱きとめている。私も抱きつきたい。
今までは我慢できていたというのに今日はもう我慢の限界だった。
家に帰ると可愛い妹が飛びついてきてこれが天使か…と思っていたところに姉さんまで抱きついてきた。
先程まで一緒にいたクオリアさんよりもさらに大きな姉さんの胸のおもちの感触に頭がショートする。
「え…あ、姉さん」
「妹がいいならお姉ちゃんだって抱きつかせて貰ってもいいと思うの」
美人な姉さんに抱きつかれるというのは恥ずかしいが家族なのだから…今までこんな事ができなかったのだから…そう思い祈理を片手で支えてからもう一つの手で姉さんも抱きしめた。
「ところで矜持、用事ってどんなことだったの?」
「祈理も聞きたい!」
2人がそう質問してきたので俺も嬉しくて話したかったクオリアさんとの再会について話すことにした。
「実は仕事で指名依頼がきたんだけどそれがクオリアさんからでさ、あ、電話でたまに話してたんだけどクオリアさんの事覚えてる?」
そこまで言うと姉さんの腕の力が強まる。
「覚えてるよ、銀髪の可愛い子よね」
「祈理も写真で見たことあるから覚えてるよ!」
「それでチームを正式に組むことになってさ、学校にいる間はまた羽階級を用意してもらうんだけど銀翼として活動する時はまたクオリアさんと仕事できるようになったんだよ」
ピシッと音が入った様な雰囲気で固まった姉さんが引き攣った顔で笑顔を作りながら聞いてくる。
「え、えっと階級のことについてよく知らないんだけどそういうのって一つしか持てないんじゃないの?やっぱり矜持は学生生活を優先すべきなんじゃないかな?」
「んーとさ、横の繋がりを作るために比連校があるから心に壁を作らないために階級を隠す人も何年かに一人はいるらしいから大丈夫だって」
「そ、そうなんだ…でもね矜持、学校と仕事で忙しくてあんまり帰って来れないなんて事にならない?」
「え…祈理そんなのやだよ!」
2人が急に不安げな瞳を向けて来る。だが俺だってそんなのは嫌に決まっている。
「大丈夫!そんな事には…」
ならないとは言えなかった。そういう仕事についているからなかなか帰ってこれない仕事に行かなければならない事もある。
それを断ると困る人や無駄に死んでしまう人が出るかもしれないから。
「ならないとは言えないんだ、ごめん。だから一緒にいれる時間は出来る限り大事にする」
そう約束をすることしかできなかった。
「しょうがないけど許してあげる、私はお姉ちゃんだから」
「祈理も許してあげる〜しょうがないから」
「ありがとう、2人とも」
心の底から感謝の気持ちでいっぱいだった。