突入2
地下へ続く階段は長いだけで特になにもなかった、明かりの類もなかったのは簡単な明かりを自力で作ったのかそれとも知覚系の能力があるのだろうか。
こちらは矜持がラティファの権能で作り出した光球で照らしながら進んでいるが地下空間は大規模だ。
「相手は確実に組織だってるわよねこれ」
地下空間は作ったのかもともとあったものかはわからないが金属製の通路が伸びている。ところどころに配置された奇妙なマークの存在が組織だと知らせてくれる。
「というかこのマークあれだ、この前セラフェリアに毒撒こうとしてた『幸福の徒』のやつ」
さらっと矜持が呟くが内容は衝撃的だ。
「セラフェリアに毒ぅ!一大事じゃねーか!かなりやばいだろ!」
「過去形ですけどそんな大事件ニュースにもなってませんでしたよね!」
悠里ですら動揺するほどである、実際毒なんぞばら撒かれたら洒落にならないのだがセラフェリアは落とされてはいけないため人員が多いため成功することは無い。
逆に言えば今いるネルパのようにセラフェリアから離れていて国の警備などが行き届いていない所では大規模での潜伏でも可能になってくる。
「セラフェリアの方は解決してるし大丈夫、敵もあの時は大したことなかったけど…こっちはどうなのかしら、相手の弱いところに強いのをぶつけるのは定石だし…戦力が固まってるとか、他の人手が足りてない地域にも同じようにいるかも…とか考えることが多いわよ」
「大丈夫って言ったって!」
「計画の段階でつぶしてあるから、セラフェリア付近の情報網はかなり優秀だ、うるさいから少し声抑えろ」
「ぐぅ…すまん」
すこし落ち着いてからレントはおかしな事に気づく、悠里の方を向いても目をそらされる。
クオリアの方を向いても目をそらされる。
矜持は背中しか見えない。
「なあ矜持、なんでお前がそれを知ってるんだ?」
「なんでってそりゃあ…」
ここで矜持が失敗に気づく、最初の時点でクオリアは矜持に幸福の徒だとさりげなく伝えていたのにそれを思いっきり口に出していたのだ。
「なんで…だろうなぁ…」
「隠し事下手すぎるだろ…大丈夫かよお前」
「大丈夫じゃないな、こっからはさらに隠せそうにない」
ちょうど階段を降りきったあたり、そう言った瞬間天井が凄い勢いで押しつぶしにかかってきた、それを矜持は拳で粉々にする。
そこからは怒涛の勢いだった。
火が吹き出たり銃が撃たれてきたり壁が迫って来たりシャッターがおりてガスがまかれたり
「どちらかと言うと防衛システム的だな、スイッチがどうとかじゃないっぽいし」
その全てを生身で軽々と装置を破壊して無力化しながら矜持は言う、それらは全て矜持がまだ使いこなせていないワイヤーでどうこうするには出来が良すぎるのだ。
さすがにこれを見せてレントに実力を隠そうとも思わないしこんなにしっかりとした防衛システムを用意している相手に実力を隠すのは死の可能性が高まるだけだ。
「レント、もう手遅れ感が凄いし帰ったらスピリッツのみんなにもちゃんと話す、だから今はとりあえず…目の前の仕事を片付けよう」
辿り着いた先は高さも広さも十分な広間、地下という異常な空間の中でそれは異常にしか見えない、地上なら違和感のない病院や学校のような構造に近い…研究所らしき施設…そしてその前にいる黒い布に全身をすっぽりと覆い隠しているのはおそらく幸福の徒の信者たち
「わかった、とりあえず捕まえる…けどその前に少しだけ話させてくれ」
レントが一歩前に出る
「ヒナァ!お前がなんでそこにいんのかはわかんねーけど!引きずり出してやるからな!そんなナメクジみテーなウジウジした集団からはよぉ!」
大声で啖呵を切った、ナメクジみたいな奴らと言われた集団から目に見えて怒り出し、そして行動に移る…一人の少女が放り投げられた。
「ナメクジのような集団というのは聞かなかった事にしてやろう、目的がその少女なら連れて行くがいい、与えられた任務もこなせずアジトの場所もバラすゴミでよければな」
群青の髪を持つまだ幼さの残る少女は手足をおかしな方向へと曲げて火傷に打撲裂傷の酷い有様を晒しながら呻いている、少しの間は成り行きを見るつもりだった矜持も少女が重体だと気づくと50mほどの距離を一瞬で詰め少女を回収して戻ってくる、すぐにクオリアが治療に入る。
「ほお、大した早業だな、その速度ではやく帰ってくれたまえ」
黒い布に隠れて顔も見えないが偉そうな男が踏ん反り返って言い放つ。
レントはわなわなと震えている、自分を騙した少女のために
「お前たち…仲間を、それもまだ中学生の子を殺すのか…」
「組織にとって不利益なら仕方がない、そいつに情けをかけて罪を軽くすることは組織の管理を甘くする事と同義だ、神のもとでは皆が平等であるならば罪に対する罰も平等である」
組織の運営だけで見れば一理ある言葉だがそうではないのだ。年端もいかぬ子を傷つけるのが許せないとレントは怒っているのだから。
「ぶちのめす!てめーら全員ぶちのめす!」
レントがキレる、強化の魔法を身に纏い凄まじい速度で幸福の徒に向かって突っ込んで行った。